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第10話

「放送委員会、入らない?」


愛莉は放送台を肘掛け代わりにして軽く凭れながら僕に訊いた。


「いまから?」

「うん。いまから」

「もう二年生だけど」

「べつにいいじゃん。二年生からでも」

「もう人間関係とか出来上がってるだろうから入りづらいよ。須藤さん以外の人に迷惑でしょ」


僕が苦笑いしながらそう言うと、愛莉はゆっくりと首を横に振る。


「いま、放送委員はわたし一人だから」

「え?」

「春に一年生が入らなくて、夏休みに先輩たちが引退しちゃって、いまはわたし一人。人集めないと廃部になっちゃうんだ。昼休みに放送するだけの部活なのに、なんで入ってくれないんだろうね。わたしだって吹奏楽部と兼部してるのに」


愛莉は憂いを含んだ表情になって、僕たちは見つめあった。僕は深く息を吸って吐き、


「あのときのこと、本当のこと、話していい?」


と訊いた。


「うん。話して。友達じゃないなんて嘘だって、わたしもそう思いたかったから」


愛莉はいままで一番、真剣な眼差しを僕に向けていた。


「友達じゃないっていうのは、他の男子の友達とは違うってことを言いたかっただけ。男子の友達と遊ぶときは馬鹿なことばっかりしてるけど、須藤さんといると、時間がゆっくり流れてるというか、時間がゆっくり流れてるのに、時計の時間は早く流れるというか。なんか、俺がそのときまで思ってた『友達』っていうのと全然違くて、『友達』かどうかって訊かれて、『友達』だって言うのは違うと思った。『友達』は『友達』なんだけど、もっと特別というか」


せっかく自由に話せる機会を得たのに、僕の話は自分でも分かるくらい要領を得ていない。


それでも、愛莉は全てを納得したような笑顔になった。


「わたしも、『友達だよね?』なんて訊いて悪かった。訊き方が悪かった。男子の友達なんか全然いなくて、わたしは友達だと思ってたけど、そっちも友達って思ってくれてるかどうか不安だったから。『友達だ』って言ってくれたら、そのあと、『来年も一緒に放送委員やろう』って言いたかったんだけど、『友達じゃない』って言われて、やっぱりそうだよね、ってなって、そっちのパターンも全然あり得たはずなのに、というか、そっちのパターンがあると思ってたから『友達だよね?』って訊いたのに、いざ言われたら堪えきれなくて逃げちゃった。最後の放送はもう一回二人で読もうって言うところまで想像してたのが馬鹿みたいだよね」


最後になるにつれ、愛莉の笑顔は自嘲的になっていく。そんな愛莉の悲しそうな笑顔を見て、僕の決意は固まった。

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