第1話
小学生のとき、僕は放送委員会に所属していた。
放送委員会の仕事は、朝と、昼休みと、放課後に、放送室から全校に校内放送を届けること。曜日ごとに三人組の放送班が組まれているけれど、三人全員で放送室に集まるのは昼休みだけ。早めに登校しなければならない朝の放送と、学校が閉まる午後5時に放送しなければならない放課後放送は、それぞれ一人で担当することになっていた。
その理由はもちろん、朝早くに来たり、放課後遅くまで学校に残るのは面倒だから。そんなにしんどいことをするのは、三週間に1回でいいってことになってるだけ。
でも、僕が朝の放送や放課後の放送をするとき、僕は放送室に一人ではなかった。
「みなさんおはようございます。朝の放送です。今週から水泳の授業が始まりますので、みなさん、水着を忘れないようにしましょう。それでは、今日も元気に挨拶をして、楽しく明るい一日を過ごしてください」
僕がマイクに向かってそう話すとき、隣には須藤愛莉という女子がいる。一度もクラスが同じになったことはなく、くじ引きで同じ放送班になってから初めて喋ったくらいの関係だ。愛莉はいつもヘアピンで髪を留めていて、眉が薄くて瞳が大きく、卵型の顔をした女の子だった。
つまみをゆっくりと回して、爽やかで模範的なBGMの音量を少しずつ絞っていく。カツ、というがすれば音量はゼロ。僕はつまみから手を放しながら愛莉のほうを向いてドヤ顔になり、「普通に放送しただけじゃん」と言いながら愛莉はくすくす笑った。
愛莉と僕とは笑いのツボが近い、と思う。あの事件のときもそうだった。
昼休みには流行の曲を放送に乗せる。ある日、DVDプレーヤーの調子が悪かったのか、流していた曲がある箇所を何度もリピートするようになってしまい、まるでラップのようになってしまったとき、一緒に班を組んでいた六年生の先輩は慌てふためいていたけれど、僕と愛莉は大笑いしていた。
狂ったラップみたいな音楽が校内に鳴り響いたあと、僕たちの大笑いが鳴り響いて、そのあと放送がぷつりと切れたらしい。
そんな僕と愛莉が朝夕を一緒に放送室で過ごすようなったきっかけは、僕たちの班で放送を担当した二回目の昼休みにまで遡る。