桜拐いアナザー
私 文学部顧問
K 文芸部の部員
大学の頃から付き合っていた彼氏にやっと今月にプロポーズされ、近々に結婚することになった。私が、生徒に結婚すると報告したら生徒はおめでとうございますと、喜んでくれた。…ただ一人を除いて。
窓際の席で、外を見ている生徒のK君は私が顧問をしている文学部の生徒で、部の発足からの部員だ。
いつも何を考えているかわからないし、けど真面目で部には欠かさず来てくれているから、悪い子ではない。多分。
前々から私が学生だったら好きになるタイプだなとは思っていた、でも実際に口になんか出したら取り返しがつかない。何故なら、私は教師で彼は生徒だからだ。
それから数日後の事だ。
夕方の図書室は妙に静かで、文学部の部室にはもってこいな場所で、遠くからは、野球部の掛け声がしている。私は書類の整理にふんぎりがついたので、K君に少しばかり遊び相手になってもらうことにした。もしかしたらあの報告のときは聞こえていなかったのかもしれない。私は冗談混じりに言った。
「私は結婚したら、学校を離れるかもしれない。」
ほんの冗談のつもりだった。こんなことしたら駄目かもしれないけれど、どんな反応をするか知りたかった。K君は、本を足に落とした。そして泣いた。
私は彼よりも動揺し、駆け寄った時だ。
K君は、私の手を取った。
冷たくて、じんわりと私の手が凍っていくように感じた。
その時わかってしまった。自惚れかもしれない、でも当たってほしくはない、そんな答えが頭のなかではじき出されてしまった。K君が話始めたとき私は言った。
「駄目だよ。」
彼の話を遮って、私は本棚の方に顔を背けた。
彼は言葉に詰まった。そして気がつくと、K君は、鞄を手に出ていってしまっていた。
…実は後のことは、ほぼ覚えていない。
でも覚えていない方が良いからなのかもしれない。
もしもあのとき、すべてを聞いていたら私はどうなっていたんだろう。
K君から何を言われると恐れたのかなんて、私は考えてしまう。もし、はじき出されてしまった答えが正解ならK君は、傷付いてしまったかもしれない。だからこそ、私は無意識に避けたのかもしれない。
窓の外の桜が少しばかり葉桜になりつつある。
夏になる前に、私は学校を去ることにした。
K君のせいでもなく、はたまた結婚するからでもない。桜が吹雪を起こしてくれなかったからでもない。私は桜に祈った。
K君がいつか私のようなずるい女性ではない誰かと出会い、結ばれますように。
職員室へと桜の花びらがふわりと入り込んだ。