4、毛とリスカとポチッとな
それは姫百合荘オープンから、ちょうど半年となる金曜日。
本日は休日シフトのローラ、パートナーである美少女アリスンの顔を、ジッと見つめていた。
ボブカットが伸びかかったブロンド、知性あふれる緑の瞳、最近なかなか立派になってきてる鼻、その下に・・・
ローラ「んんん?」
ほとんどアリスンを小脇に抱えるようにして、ローラは3階から下りてきた。
「ちょっと紅鬼! きてー!こられるー?」
「なんじょるのー」紅鬼が1階のキッチンから上がってくる。
何か事件が発生したかと、本日在宅シフトの真琴と夜烏子が後からついてくる。
ローラ「これ見て、これ!」
指さすのはアリスンの鼻の下・・・
ローラ「ヒゲが生えてる!」
まじまじと見つめる紅鬼、「あ、ホントだ! 金髪で目立たないから気がつかなかったよ・・・」
アリスンは得意げに、「ホッホッホッ ヒゲを伸ばして大臣になろうと思いましてな」
ローラは悲し気に、「いつもアニーの面倒を見てもらってて、本当に心苦しいんだけどさあ。私のいない日は、この子にも気をかけてもらえると・・・ まだ子供だから」
紅鬼「いやホント、申し訳ない! ウッカリしてたよ」
ローラ「この子ホントに無精者だし、もう17になるのにファッションにもお洒落にも関心がなくて・・・」
夜烏子はスマホを取り出し、
「アリスンちゃんの産毛、記録に残しておきましょう」
真琴「貝印カミソリと乳液取ってくるね」
さっそくリビングで、アリスンのお顔の処理。
ショリショリショリ・・・
ローラ「動かないでよ!動かないでよ!」
剃れました。
ローラ「鼻の下以外はそれほどでもないから、残しておきましょう。産毛も剃りすぎると肌にダメージあるから」
アリスンは手鏡に映った自分の顔を、いろんな角度から観察、「ローラあ。私、昔は美少女だったと思うけど、最近はなんかふつうじゃない?」
ローラ「ま、昔ほどのオーラはないよね・・・ ついでに脇の下もケアしとくか」
Tシャツを脱がして、ショリショリショリ・・・
夜烏子はスマホを取り出し、
「アリスンちゃんのわき毛、記録に残しておきましょう」
紅鬼「なんか、見ていて飽きないなあ・・・」
ローラ「それよりあんた、歯の矯正はしなくていいの?」
アリスンは意外そうな顔をして、「え、私は・・・ローラが気にしないなら、別にいいけど?」
ローラ「私は今の歯並びでも、気にしないけど。ただあんた将来、大臣とかそういう偉い人になるんだったら、歯並びがきれいな方がいいんじゃない?」
真琴が梅干を食べたような口をして、「私も中学の時にやったけど、矯正けっこう痛いんだよね・・・」
それを聞いてビビるアリスン、「大臣になったら歯はCGで修正するわ!」
手鏡を見ながら、鼻をツンツンして「それより鼻は矯正できないのかな? なんか最近、予想外に鼻が大きくなってきてる」
ローラはため息をついて、「それは矯正じゃなくて整形っていうの!」
アリスン「あーあ、子供のころ美少女なら、その後一生美少女かと思ってたのに!」
ローラ「そんなわけあるか!」
真琴は笑いながら、「気にするほどじゃないよ! 私ら鼻の低い日本人の中にいるから目立つだけで」
紅鬼もうなずいて、「西洋人ならまったく普通のレベルだよ。むしろ鼻が高い方が横顔が高貴で美しいし、うらやましいわー」
ローラは剃刀を手に、「で、どーする? ついでに下の毛も剃る?」
紅鬼「お、メインイベントきましたね!」
夜烏子はスマホを取り出し、
「アリスンちゃんの下の毛、記録に残しておきましょう!」
アリスンはもじもじ、「え・・・ やっと人並みに生えそろったんだし、しばらく残しておきたいよ・・・ 今まで薄かったからね」
身長も平均的なイギリス女性よりは低いアリスン、ようやく成長期に差しかかったところ。
アリスン「みんな下ネタになるとテンション上がるなあ! おねえさんたち、いやらしいよ!」
真琴がウキウキして、「せっかく話が下ネタの流れになってるしさあ、ひとつ聞いていいかな?」
アリスン「いや、下ネタに流れるのを私が防ごうとしてるのをわかってよ!」
真琴「ローラさんとお嬢って、初めてのセはいつだったの? 聞いちゃマズかった?」
空気が重くなる。
アリスンは左手首の薄い傷跡を、右手でサッと隠した。
真琴「ごめんなさい、今のなし」
紅鬼「真琴はアリスンのリストカット事件、知らなかったか・・・」
今や完全に地雷を踏んでしまったと悟った真琴、「お願い!時間を戻して!」
ローラが優しくアリスンを抱きしめ、「真琴なら話してもいい?」
「うん・・・」
真琴(たぶん私と湯香以外はみんな知ってそう・・・)
なんとなく怪談でも話すような雰囲気で、ローラは語り始めた。
「それは昔のこと・・・ 私がアリスンと初めて出会った時、この子は13歳だったのじゃ・・・ さすがに生まれた時から反抗期の私でも、13歳の子に手は出せないし、恋愛対象として見ることもできませんでした・・・ ちなみにたとえ同姓でも13歳の子とHしたら、どうなると思いますか」
真琴「ロリコン罪で逮捕される・・・」
ローラ「その通り、私の人生ジ・エンドです。それなのにこの子ときたら、自分を恋人として扱え!と迫ってくる・・・」
アリスン「だってローラにガチ恋してたんだから! 初恋だったんだよ!」
ローラ「私もある事情でアリスンに頼っていたので、むげにノー!と断ることもできず・・・ 曖昧にしたまま結論を出さず、逃げていました。そして時は流れ、アリスン15歳」
真琴「展開が速いな!」
ローラ「15歳の子とHしたら、どうなると思いますか」
真琴「ロリコン罪で逮捕される?」
ローラ「はい、私の人生ジ・エンドです。でも私だって生身の体、恋人がほしい・・・」
ここで紅鬼が話を受け継いで、「そのころ、クリスと夜烏子のお見合いがうまくいって、百合お見合い第2弾行ってみよう!って、私らは盛り上がってたの」
真琴「ええっ第2弾があったの?」
紅鬼「それがローラ&まりあ、というカップリング」
真琴「いいっ? それはまた異色の組み合わせ・・・」
夜烏子「当時はまだ燃子さんは入院中だったし、まりあちゃんはシングルだったの」
お見合いは姫神牧場で行われた。
ローラは後ろからまりあに抱かれる形で、馬に乗せてもらった。
振り返ると、うねるブロンドをたらしたまりあの美しい上気した顔。
少し霧の出ている緑の野を軽く走った後、まずまりあが降りてから、ローラに手を貸して降ろしてあげた。
身体能力の高いローラは軽く降りようと思えば降りられたが、乙女チックな気分でまりあに身を任せる。
まりあ182センチ、ローラは160センチ、女性同士ではあまり経験することのない身長差。
「まりあさん、王子様みたい。いや、私男嫌いなんで、『王子よりカッコいい王女様みたい』というべきね」
クールな青い瞳に、いつになく熱い光を宿したまりあ、荒い鼻息を押さえて、「ローラさん、めっちゃいい香り・・・ 抱きしめていい?」
大きな体に似合わない、甘えた声だった。
「抱いて」
それに答えるローラの声も、甘える恋人の声だった。
林檎の木の下で、2人は抱きあってキスをした。
(あ、この子のほっぺ、林檎みたい・・・)
紅鬼「なんか・・・ 姫百合荘に似つかわしくない、きれいな回想だったね」
ローラ「まりあは私と出会って初めて女性との愛に目覚めたの! それまでは、お兄ちゃん大好きっ子だったんだよね」
真琴「じゃ、お見合いの結果は成功ということ?」
ローラ「相思相愛になりました」
夜烏子「まりあちゃんってさ、お洒落で小悪魔っぽい感じの女性が好きみたいね。燃子さんもそうだし」
紅鬼「で、姫神牧場にはアンとアリスンもいっしょに来てたんだけど、その夜・・・」
真琴「あ・・・」
アリスンはさっきからうつむいていたが、
「今さら言うのもなんだけど・・・ 本当に死のうと思ったら、手首を縦に切らないと死ねないんだよね」
皆に見せた左手首の傷は、横一文字だった。
アリスンの髪を撫でてやるローラ、「別に脅しだったとか本気だったとか、どっちでもいい。その傷は、あんたの心の傷・・・ 私のためにあれだけのことをしてくれたのに、本当にゴメン・・・」
紅鬼も申し訳なさそうに手を合わせ、「私らも無神経だったよ、ごめんなさい!」
真琴「それで今でもまりあさん、お嬢に遠慮してるみたいな・・・ ローラさんともギクシャクした感じなのか」
夜烏子「姫神牧場にも迷惑かけたしねー」
アリスンは手首の傷をさすりながら、「で、騒ぎが収まって1週間後くらいかな、私はローラに初めて抱いてもらった」
真琴「えー15歳の子を? ロリコン罪で逮捕!」
ローラは弁解するように、「キスして、ちょっとスキンシップしただけだから!」
アリスン「え、そうなの? あれセじゃないの?」
ローラ「今あんたとやってるのだって、すっごくソフトな、ぎりぎりセと言えるかどうかくらいの」
ガーンとショックのアリスン、「そうなんだ・・・ 近ごろやっと、人並みに気持ち良く感じるようになって、なるほど世間の連中がセックスセックス騒ぐわけじゃわい、って思ってたのに・・・ それじゃ逆に聞くけど、ハードなセってどんなの?」
ローラ「それはいろいろあるんだよ、入れたり合わせたり道具使ったり・・・ でも無理にハードにする必要はないんだよ、セは人それぞれだから! ソフトでオーガズムを得られるなら、それで構わないと思うし。ハードは体に良くない時もあるし」
すっかり生徒のようにフンフンと聞いている紅鬼たちだが、「先生! 先生の『ローラ流』はソフトを極限まで極めた流派なんですよね?」
ローラは自慢げに右手の親指・人差し指、中指を立てて、「私のローラ流は女性の体に無理させない、癒しのテクニックだから! 単に快感を与えるだけでなく、ストレス解消、血流の活発化、神経に刺激を与えて細胞の活性化・・・」
夜烏子「ライバルのパン流はけっこう情熱的でガンガンいく、攻めの流派ですよね」
「パン流」の名を出されてローラは神経質そうに、「ま、快感ではパン流が上という意見もありますが・・・ パンちゃんにはパンちゃんのセ、私には私のセがありますから」
紅鬼「ローラ先生だって100人以上の女性と経験したレズビアン・クイーンですもんね! パンちゃんにも負けない!」
フフンと鼻息も荒いローラ、「100人は言いすぎだけど、77人くらいかな」
夜烏子「今さらですけど、仲間うちで比較するのは禁止ね」
アリスンがもぞもぞして、「みんなの話にまったくついていけない・・・」
ローラが優しく肩を抱いて、「あんたは若いんだし、あわてなくていいの! 成長のペースは個人個人でちがうんだから」
アリスン「でも私もそろそろ、紅鬼の計画に乗ってみんなとセしてみようかな・・・」
ローラ「お? やってみたい気持ちになってきた?」
アリスン「うん。みんなの体を見てみたい、さわってみたいって思うようになった」
紅鬼たちは嬉しそうに、「おねえさんたち、いくらでも協力するよ!」
アリスン「そういう欲望むき出しでギラギラしてるのが怖いんだよ! もっと優しくしてよ・・・」
みんな、わははははははは
姫百合荘の豆知識(10)
前回記した通り、アリスンの英国大使館における勤務は給与ゼロのボランティアである。
そのかわり交通費=行きのタクシー代(狸吉小学校を経由して英国大使館まで。そこから風太刀記念会館までの分は姫百合荘負担)および帰りのタクシー代は大使館が出してくれる。
また、大使館内の上級職員のみが利用できる「アンバサダー・クラブ」のダイニングで毎日無料でランチを食べられる特典もあるが、アリスンは週1回しか利用しない。
上司から「遠慮してるのかね? それとも料理が口に合わない?」と聞かれたことがあるが、
「料理は美味しいですよ! ただドレスコードが、正装するのがめんどくさいんです。ちゃんとした服はクリーニング代も高いですしね」
というわけで週1回の利用も、ローストビーフのサンドイッチと海老サラダをオフィスまで出前してもらう、というパターンが多い。(週4日の勤務のうち、残り3日の1日は真琴の愛情弁当、1日は近くのラーメン屋、1日は自分でサンドイッチを作るかコンビニ弁当、というローテーション)
アリスン「それよりも、夜のアンバサダー・クラブに行ってみたいんですよ!」
と、上司にせがんだことがある。
上司「未成年者だけでは無理だな・・・ よかったら私といっしょに行くかね? たしかにランチメニューよりディナーの方が美味しいよ」
アリスン「食事がしたいわけじゃないんです。これが目当てなんです、これ」
カードを切って、配る手つき。
「ブリッジ!」
「ギャンブルはダメだよ!未成年なのに!」
上司は危険人物を見るような目でアリスンを睨むと、「思い出したぞ・・・
ロンドン本部で君の上司だったジェンセン准将から警告メッセージが来ていたが・・・ レディー・アリスン、君は大のギャンブル好きなうえに、イカサマの常習者だということだな?」
口笛ピューピュー、知らないわあ、みたいな顔をするアリスンに、上司は厳しい態度で、
「まだ子供だから大目に見てもらってるけど、カードのイカサマなんて続けてたら刑務所に入ることになるんだぞ! いいかね、君は夜のアンバサダー・クラブには出入り禁止だ!」
「ちぇっ」
アリスンは、やけに堂々とした態度で、「ギャンブル好きは大英帝国の病! イカサマ好きは英国情報部の病! フェアプレーなんて気にしてたら、情報戦争には勝てませんよ!」
上司、口あんぐり
姫百合荘2階、ファサード(正面)側の「第3ベッドルーム」(パンテーラと龍子の寝室)で、パンがパソコンに向き合っていた。
「アマゾン地方出身のアマゾン(女戦士)である私がアマゾンでポチッとな」
ベッドに転がった龍子が、「何注文したの?」
椅子を回して龍子に向き直ったパンの顔は、右眉が悲しみを左眉が怒りを示し、右目が笑って左目が驚きに見開かれ、鼻の穴は興奮に開いて、口の右端は苦痛に歯を食いしばり左端はほほ笑んでいた。
龍子「なんだ、その表情は!いったい何の感情を表してるの?」
パン「これはすべての感情を同時に表す私の隠し芸・・・ とくに意味はないのです。ちなみに注文したのは百合漫画12冊!」
かつてパンが恋人とともにアマゾナス地方から駆け落ちして、流れ着いたブラジル経済の中心地サンパウロ。
そこのジャパン・タウンの本屋で出会った百合漫画の世界・・・
それこそが、彼女が日本語の勉強を始めたきっかけだった。
しかし龍子は呆れた様子で、「こんな百合の館で毎日暮らして、まだ百合漫画読みたいんだ・・・」
パン「現実の世界はいろいろ生々しいし(そこがいいところでもあるけれど)、たまにはロマンチックな世界に浸ってみたいから」
龍子「ふーん、私はロマンチックじゃないんだ」と、短パンから伸びた生脚をセクシーに組み替える。
パンがヒートアップして「そ、そんなことないよー!」
たちまち全裸に、ベッドに飛びこんで龍子のタンクトップと短パンと下着をポーイ
「ロマチックが止まらない!」
龍子は手足を、パンのたくましい筋肉で盛り上がる褐色の肌にからませ、
「距離ゼロでも、まだ遠い・・・ このまま溶け合ってパンちゃんとひとつの生き物になりたいよ・・・」
ひと段落した。
パンはタバコを吸うような仕種をして(姫百合荘は全館禁煙)、向こうを向いている龍子に、「りゅうちゃん、パン流テクニックよかった?」
龍子が振り向いた時・・・ 右眉が困って左眉が笑い、右目が潤んで左目が睨みつけ、口の右端はダランとして左端は照れ笑いを浮かべていた。
思わずビックリのパン、「おおっ? 1回見ただけで私の芸を盗むとは!」
龍子は得意げに、「これでも舞台女優もやってたからね! ちなみにセはいつもながら、素晴らしかったよ」
パンは龍子のヘソのまわりをクンクン嗅ぎまわり、「やっぱり生の匂い、生の味、生の手触りはイイ、生の姿、生の声も・・・」
龍子「ねえ、パンちゃん。私、決めたよ」
パン「んー?」
龍子「紅鬼さんの計画に乗って、他の人たちともやってみる!」
パン「おお、ついに決心がついたか!」
龍子「もともと私はパンちゃんが好きなだけで、同性愛ってわけではなかったんだけどさ・・・ 最近、女の人っていいなって思えるようになった。なんて言っていいか、わからないんだけど・・・女の人って美しい」
パン「わかるわかる。とくに姫百合荘はきれいな子かわいい子ばかりだし、みんなフェロモンぷんぷん出しまくってるからね」
龍子「みんなの体を見てみたい、さわってみたい・・・ いや見るだけならお風呂でいっしょになれば見てるんだけどさ」
パートナーを力強く抱きしめるパン、「いってらっしゃい龍子、愛の冒険へ! 私はいつでもここで帰りを待ってるから!」
龍子は右手の指を誇らしげに広げて、「私には師匠から受け継いだパン流の技があるし! いずれ独立してドラゴン流の開祖になろうかな」
パン「調子乗りすぎでは」
第4話 おしまい