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翼の生えた樹海は沈む  作者: 一寸先はもけもけ
2/2

そうやって世界は回ってる

あの後、結局間に合わず、俺は学校に盛大に遅刻した。


「すいません…遅刻しました、はぁ…はぁ…」


近道を怪我を顧みずに突っ切ってきたから俺の体は擦り傷だらけだ。

それでも遅刻はしたが。枝多すぎ。伐採しろや。


「あのねぇ…湯沢君。君、今月に入って遅刻何回めだい?」


顔を上げると担任の薄田先生が仁王立ちをしていた。


何回だったか。たくさんしてた気がする。


俺が記憶をたぐり寄せ数えていると、薄田先生が自分の薄い毛をいじりはじめた。

先生が残り少ない髪を触るのは、ストレスを感じでいる時だ。


俺が湯沢大輔の息子だからだろう。

両親は研究者だった。特に父さんは有名な研究者で数々の研究成果を上げ、人類の繁栄に大きく貢献した。

2年前に研究に関する事故で亡くなったが、その権威は残り続けている。


俺が先生の言葉を待っていると、後ろからバンっと乾いた音がした。


振り返ると黒い髪を伸ばし、気の強そうな少女、天王寺沙夜が机に手をつき立っていた。


「湯沢君。ご両親は残念でしたね…。でも、怪鳥に親しい人の命を奪われた人たちはたくさんいます。早く立ち直ってもらわないと困ります。」


怪鳥。

超巨大なトリ。

なんでもやつらは個体によっては口から炎を吐いたり、羽ばたきで竜巻を起こす"らしい"。

大きさは様々だが、体調何十メートルもある個体もいる"らしい"。

なぜ"らしい"なのかといえば、一般の人々は見たことがないからだ。

出現するのはハミールビットの端のさらに端、"霊空界"だけな上、怪鳥と対峙するのは軍隊に入った精霊使いだけ。

軍に入る予定もなければ、そもそも精霊に憑かれてすらいない伸明にとって怪鳥なんて関わりあいになることなどない。



天王寺のこちらを射抜くような視線は少しの憐憫を滲ませてはいるが非難の色が強い。


何故だかわからないが、俺は天王寺に敵意を持たれている。


嫌われてもいなければ遅刻したくらいであんな目を向けないし、普通家族が亡くなった人間にあんなこと言わない。


このままだと拉致が開かないので、俺はいつものように、わかった、と適当に相槌を打って流す。


「気を付けてください…」


こちらが素直に非を受け入れておけば彼女も長引かせるようなことはせず注意だけで終わる。


話しはこれまでと俺はそそくさと沙代から距離を取り、いつもの席に腰を下ろした。


「天王寺さんは厳しいな」

「厳しすぎるんだよ。先生が注意するのはわかるがあいつが言ってくる意味がわからん。暇なのかな。」

ここ何度も突っかかってくる天王寺に辟易して隣に座る親友、諸星結城に愚痴を垂れる。

「いーや、少なくともここにいる誰よりも忙しいだろ、彼女は。なんたってかの天王寺家の御令嬢だぜ。」

「んなことはわかってるよ、言ってみただけ。」

「まあ、でも確かに遅刻はしすぎだな。玲奈だって心配してんだろ。まあ、おじさんおばさんのことは…わかるけどよ…。」

「いや、ふさぎこんでるとかじゃなくてよ…。どんなに頑張っても起きれないんだよな…。どこか悪いのかもしれん。」

「いや寝坊する奴はみんなそう言うから。」


性格は実直で誠実。身長180ほどありはちきれんばかりの筋肉を有している。声が大きすぎるのが難点だが、いいやつだ。


「でも伸明って夜戸さんから特に目の敵にされてるよねぇ。」


後ろからもう1人の親友、水嶋翔が話しかけてくる。

癖っ毛のある黒髪が上にぴょんと跳ねふらふらしている。

雰囲気とかいうエセではなく、ガチのイケメンだ。他地区の学校にもファンがいると聞く。

だがこの男、一見優男だがけっこう口が悪い。

本人には悪気がないらしいのだがつい口から出てしまうらしい。

こないだもロープウェイ乗り場でたむろしていた不良に「生きてて楽しいですか?」って聞き、ブチ切れられていた。

なんであんなこと言ったんだと聞いたら、ついうっかりといった風に笑う始末だ。面と向かっての時だけ本音が出ると言ってたからそれだけが救いである。

一緒にいてこんなにひやひやするやつはなかなかいない。

でも、いいやつだ。


「彼女に嫌われるってよっぽどだよ?他の人にはすごいいい笑顔ふりまくのに。普通に生活していれば喧嘩なんてしないと思うんだけど。」


「「お前が1番嫌われてそうだけどな」」


「僕の場合は目の敵ってより、本気で憎まれてそうだから」


あはは〜と人懐っこく笑いながら天王寺の方を向く。


天王寺もこちらを見ていたらしく、水嶋と目が合うとだんだんと目が細まる。

どちらも微動だにしていない。だが目は今まさに2人の間で無言の喧嘩真っ只中であることを雄弁に語っていた。


樹々の上に地区ごとに集まっているため、よほどのことがない限り引越しは起こらない。必然的に子供たちのコミュニティは住んでいる地域に限定され、仲がよいとより親密に、悪いとより険悪になる。

俺にも死ぬほど嫌いな奴はいるし、死ぬほど嫌ってくるやつもいる。


でも、みんな両親の死を悼んでくれる。


ー御両親は残念だったね


ー湯沢さんにはよくしてもらってね


ー昔、先生と仲よかったんだよ




なぁお前ら、一体何年親父達の話するつもりだよ。


5年前に亡くなってるんだぜ?


お前らがそんなん言ってくるから忘れられねぇじゃねぇか。


湯沢大輔の息子。


そのレッテルをとったら、俺にどれだけの価値があるんだろうな。


なあ、俺を見てくれよ。


「ねぇー伸明、聞いてる?」


「ああ、聞いてるよ」


俺はまた、心の底からの薄っぺらい笑みを貼りなおした。


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