閑話 リカルドの苦悩
俺は団長に言われたから仕方なくバイオリーンを演奏した。
なんでこんな小娘に。とは思うが、俺はプロだ。それに誇りを持っている。だから、絶対に手を抜くわけにはいかない。……団長も分かっててやらせるんだから、人が悪いよな。
こうなったら、新曲を披露してやろう。ギャフンと言わせてやる!
今回の曲は、春を迎え、新緑の芽生えを喜び踊る天使をイメージして作った曲だ。
………やはり、自分で作った曲は良く表現できる。今回の曲は自信作だなっ!
「……っふぅ。」
団員達の反応も上々だ。これなら団長も何か褒めてくれるかもしれない!
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俺は孤児院で育った孤児だ。善良な神父様に拾われたのはとても幸運だと思っているが、それでも、親がいないと言うのは、悲しいし、つらい。そんな時にやって来たのは神父様と友人だと言う団長だ。当時音楽隊隊長だった団長の演奏は圧倒的だった。
俺はそんな団長に憧れた。その背中を追い求めて、孤児院を訪れる団長にバイオリーンを教えてもらった。……それは、俺にとって生きる指標となり、生きる意味となった。
職業が『バイオリーン演奏者』と分かった俺は団長の元でプロを目指したいと思い団員になった。そして、団長は俺を厳しく指導してくれた。
俺の一生の目標は、団長よりも凄い演奏者になることだ。
そして、最近の目標は団長に褒められることだ。……恥ずかしくて言えないけどな。
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さて、あの嬢ちゃんはどんな反応をしているだろうか。
きっと度肝を抜かれているだろう。
と、思ったら何も反応せず無反応だった。
最初は驚きすぎているんだと思ったが、余りにも反応が無さすぎる。
どうしたんだ?と思い何度も聞いていたら不安になって来た。やばい、なんかしたかな?いや、俺以上のバイオリーン演奏者なんて、団長くらいしかいねぇ!(はず!)
やっと、反応したと思ったら、俺がちょっとヤバいやつみたいに聞こえる意味深な言葉を言いやがった。
ちょ、本当にやめて!俺の色んなイメージがズタズタになっちまう!
団長助けて!と思ったら団長にが助けてくれた。
団長!一生ついてくぜ!
団長はバイオリーンを嬢ちゃんに弾かせてみるみたいだ。
……いくら、音楽家とか言う珍しい職業でもそんな簡単に弾けるものじゃないと思うけどなぁ。
嬢ちゃんが演奏し始めた。先程作り終わったばかりの俺の曲を。
ありえない。しかも、魔法を併用しつつ俺の曲を編曲までしてる。……正直俺の曲より素晴らしい。
……………あぁ。なんて素敵な曲なんだ。あたたかい。幸せな気持ちだ。こんなにも清らかな気持ちになるなんて。……もう、何も考えずにこれだけを聞いていたい。
何か嬢ちゃんが話しかけているような気がするが、今、この気持ちの邪魔をしないでくれ。
もう、何も考えられない。
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はっ!嬢ちゃんがいなくなってる!
「団長!嬢ちゃんが!」
「………っは!彼女は!どこに!!」
「あれは、ウチに取り込まねぇと!」
「あぁ、そうだな!探せ!前髪が長い黒髪の12、3歳の少女だ!」
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あれから、最近コッチに来たと言うから、宿をまわったり、食堂をまわったり、演奏できるような公園や酒場も探したが、一向に見つからない。
黒髪は確かに珍しいが、いないわけではない。だから、それっぽい奴は10人居た。全員の所に乗り込んだが、全員違った。
あぁ、本当どこに行ったんだよぉーーー!
リカルドさん。お疲れ様です。
あ、あと、現在リカルドさんは21歳、団長は35歳と割と若いです。団長のイケメンさは年齢不詳ですが。