10.怖い。
少々鬱展開に入ります。苦手な方は物語の途中に話が途切れるところがあるので、そこからは読まないことをお勧めします。
やっとこれからの活動の目処が立ってバイオリンも貸してもらうことができました!イェーイ!
と言うことで、メイドさんにバイオリンを弾いても迷惑にならない人気のない場所を聞いてそこで演奏することにしました。
「わぁ……」
そこには、広大で豪奢な庭が広がっていました。
一際目を引く噴水を中心にして色とりどりの花が咲き誇り、とても豪華ですが、夕日に照らされて物悲しい雰囲気があり、なんとも言えない風情があります。
これは………演奏しなければっ!!
鮮やかな赤。柔らかい赤。赤みがかった黄色。夜色に近い赤。
赤と混ざり合うたくさんの色。
少しの郷愁と孤独感。大きな感動と喜び。
ここに来て、この景色を見ることができて良かった。
……そう思える自分に安心した。まだそう思えて良かった。大丈夫。まだ狂ってない。自分を保ててる。
……あぁ、怖い。怖いよ。
大きくなる孤独感。頭を占める不安。
誰かっ…………!
「君っ!大丈夫かい!しっかりして!……大丈夫!大丈夫だからっ!」
「…………っ!?っぇ…?」
えっ!?誰っ!この人!?
なんで、ハグされてるの!?私っ!?
「………っ!あぁ、すまない!言葉にならないくらい素晴らしい演奏が聞こえてきて来てみたら、だんだん恐怖とか孤独感が伝わってきて、このままだと演奏者が壊れてしまうんじゃないかって思って、繋ぎ止めなきゃって、それで、いつのまにか抱きしめてて………その!変な意味はないから!本当にすまない!」
………あぁ、入れ込みすぎたのね。いつの間にか涙が出てる。気をつけましょう。
「いえ、こちらこそすみません。私も音楽に没頭しすぎて、感情が混ざってしまったようです。………あの、申し訳ないのですが、私がここで演奏していたことを内緒にしてもらえませんか?」
「え?何故ですか?あんなにも素晴らしい演奏だったのに。」
「えっと……私、政治的なものに演奏を巻き込まれたくないんです。沢山のお金よりも、演奏を自由にできることが私には大切なんです。」
「あぁ、成る程。……分かったよ。でも一つだけ条件があるよ。」
えっ!今ので通じたのですか!?絶対理解してくれないと思ったのに!……昔みたいに。
って、今はそれじゃないですね。
「……条件とはなんでしょう。」
「そんな難しいことじゃ無いよ。ここで僕に演奏を聞かせて欲しいんだよ。」
「え……でも、人が来てしまうならここに来るのはやめようと思っていたのですが……。」
「いや、昼間は稀に人がいるけど、夕方以降は僕くらいしか来ないから安心していい。」
「………それなら、条件を飲みましょう。」
「本当かい!君は毎日来てくれるのかな?」
「はい。そのつもりです。」
「そうか。これから宜しくね。」
これで演奏場所は確保できましたね。…少し、面倒なことになりましたが。
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むぅ。演奏したかったのに、さっきみたいなことがあったら大変だって言ってやらせてくれなかった。酷いです……。
というか、あの人は誰でしょう?
20歳くらいに見えましたが……執事とかやってそうな人でしたね。良い人そうなイケメンでしたねぇ。
……私、イケメンの知り合いがこっちに来てからバカ増えしてませんか?
うぅ〜ん……
「あっ!貞子じゃねーか!ずっと見てないから死んだのかと思ってたぜ。とゆーか、忘れてたわー笑」
ぇ…?なんでここにクラスメイト達がいるんですか?遠征に行ってるんじゃ………?どうしよう。逃げなきゃっ!
「えぇ?どこに行こうとしてるのかなぁ?一緒に遊ぼうぜ?」
「そうよそうよ〜」
「……っ!」
なんで、こんなに絡んでくるんですか!バカ五人組!!いっつも空気扱いなのに!……言葉……でない!
「先ずは、自分だけ安全圏にいる無能ものにお仕置きだなぁ?『ファイアボール』避けでもやるか?」
「あははっ!それいぃー!」
「じゃぁ、俺『ウォーターボール』やるー!」
「えぇ〜かわいそうでしょ〜?仕方ないなぁ。私がウィンドカッター』やるよ〜!感謝しなさいよー?笑笑」
「ふふふっ!」
「そら避けろー!」
すごい速さで『ファイアボール』が飛んでくる。
避けられないっ!
「あぐっ!!……ぅ。」
熱いっ!痛いっっ!
「なににらんでんの?貞子のくせに。ほら、ちゃんと避けろよ?死んじゃうぜ?……『ファイアーボール』」
「あははっ!『ウィンドカッター』!」
次々と魔法が飛んでくる。ファイアボールで火傷ができて、ウォーターボールで殴られて、ウィンドカッターで体が切れる。最悪だ。
怖いっ!私をそんな目で見ないでっ!敵意を向けないで、何もしないから!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………
「あっ魔力半分切ってきたわ。これ以上は疲れるから明日にしようぜー!」
「そーだなぁ。なんか反応同じで飽きてきたわ。また違う遊びを考えようかぁ。」
「そーだねー!……おいっ!赤座ぁ、そいつバレない程度に治してから帰んな。下手こいたらタダじゃおかねぇよ?」
「………わ、分かった。」
「『キュア・ヒール』」
パァッと辺り一面に白い光が広がる。とても心地の良い光だ。
「ごめんっ!ごめんね…………っ!本当にごめんっ!」
すごく辛そうな顔をしていますね。どうしたのでしょう。
「………な、…んで……あやまるの……です…?」
「っ!来栖さんって喋れたの!?…………じゃなくて、私が、自分が可愛いがために見捨てちゃったから………来栖さんが、こんな目に。」
あぁ、きっと、この人は暖かい場所で生きてこれたんだろうな。羨ましい。ですが、
「……………人間って………そんな、もん……です。」
あぁ、やっときちんと目を合わせてくれた。
………?何故、そんな怯えた目をするのですか?
「……っっ!ご、ごめんなさいっ!あなたと関わると私までイジメられるからっ!もうこれから喋らないからっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいぃーーーー!」
急に走り出してどうしたのでしょうか。
あぁ、これからこんな生活続けるのかぁ。やだなぁ。
怖い。怖いよ………。