9.いざ、勝負!③
「ふふっ、年柄もなくワクワクしてきてしまいました。……では、いきますね?」
そう言って団長さんは演奏を始めた。
団長さんの柔らかいイメージとは反対の重く、暗い曲だった。
仕事から帰ってきたら、愛する妻とお腹の中の子供が無惨にも殺されていた1人の男。
それを行なった盗賊団を皆殺しにするために黒く渦巻く雨雲の下を駆け抜ける。
しかし、その盗賊団は警察団に討伐された後だった。
温く、湿った風が吹き抜ける。辺りは何も変わらない。
仇を自分が取れなかった悔しさ、人を殺さなくてよかったと思う安堵、自分の手を汚したくないという意地汚さ。
自分が嫌で、盗賊団も、警察団すら憎くて、家族が可哀想で、申し訳なくて………あぁ、ここに仇がいるじゃないか。これで解決だ。
そこに差す一筋の光。超低音から超高音へのアルペジオ。
そして、DMをたっぷり響かせ、曲は終わった。
「ふふふ。ここ最近で一番良いものでした。」
「ええ、本当に素晴らしい!表現力、技術、休符の使い方。何もかもが素晴らしい!最初は不協和音。不快で、明るくて、不思議な音。ぐちゃぐちゃな心や景色がよく伝わってきます。そこから展開される「「「はーい終わりー」」」
「折角褒めて頂いているんですから、邪魔をしないでもらえませんか?」
「うっ!でも、俺たちだって止められたし……」
「そぉーよー!早く私も弾きたいのー!」
あぁ、また同じことをやらかしましたね。自重しましょう。
「すみません。お次はランスロットさんでしょうか?」
「そぉーよぉ!じゃあ、早速!」
ランスロットさんは鮮やかな極彩色の楽園を思わせるような、明るい曲を演奏し始めた。
色とりどりの花が咲き誇り、青々とした木々が生い茂り、虹色の光が尾を引く鳥が飛び、動物が歌い、空が呼応する。そんな幸せな景色。私が踊る。
……一転して、転調。
真っ暗な世界。何も見えない。恐怖。孤独感。頭がおかしくなりそう。
こんなどん底に落とされるならあの気持ちは感じたくなかった。
なんなの。なによなによ!
落ちていく私落ちる堕ちる。
響くCD16拍。
あぁ、神はおられた。
「うふーん!どぉーよ!サラちゃんと、ついでにファルちゃんから影響を受けた私の傑作!」
「素晴らしかったです!団長とは違い、登場人物の感情をリンクさせるのではなく、登場人物にさせる!視野は狭くなりますが、それを補って有り余る臨場感!また、「「「はい。終わりー!」」」
「えーーー!もっと聞きたいぃー!」
あぁ、予想はしてましたけどね。私の忍耐力低いなー。
「すみません。………ああ、結果発表ですね。分かりましたから、そんなに見つめないでください。」
「今回の勝者は、団長さんですね。」
「っ!異議あーり!なんで!うちの団長も凄かったじゃん!同点でしょ!」
「ほーら、やめなさい。私もそう思ってたから。」
「はぁ!?なに、チキってるの〜?!」
「チキっ……!?違うわよー!今回は多分練度の差よ!」
「練度?」
「はい。その通りです。恐らく、ランスロットさんは主人公に観客をリンクさせるという試みを初めてやったのではないでしょうか?」
「そうよー、お見通しなのねぇ。」
「そこが、拮抗した勝負の分かれ目になってしまいましたね。ここまで同じくらいの実力でなければ、技術面の補いで充分だったのですが。」
「ふふ。大一番でやらかすのは変わってませんね。」
「うるさいわねー!悪い癖だってわかってるわよー!」
「いえ、羨ましいです。……これで、5014戦2009勝2009敗
996分ですね。」
「えっ!どんだけやってるの!」
「5014回よー。もー!あと一回で初勝ち越しだったのにー!」
「双方勝ち越したことはないでしょう?」
「そーだけどー!!」
わぁ〜ライバルって奴ですねー!羨ましい。
「さて、どーするの?両方一勝一敗だけど?」
「そうですねぇ。どうしましょうか。」
「あぁ、そうです。私、皆さんに話さないといけないことがあります。多分、引き取れるかどうかに関わってくるので、話しちゃいますが、私、勇者一行なんです。」
「「「「………………………は?」」」」
「ん?もう一回」
「私勇者一行の一員なんです。だから、コンサートとか 大事な日に限って城を抜け出せないかもしれないので、一応参考程度に知っておいてもらわないとな、と。」
「そ、そ、そそそそそそうなの。、」
「はじめて知りました。」
「うん、そうだね。」
「な、なに言ってんだ!嬢ちゃん!」
なんと、上から、団長さん、ランスロットさん、リカルドさん、マイクさんです。
キャラ変わってませんか?
………まぁ、いいか。
「ところで、私は皆さんの演奏をかけるということで対戦を見ていましたが、両方に所属するのはダメなのでしょうか?どうせ仮面をかぶるのですし。恐らく、演奏する楽器も違いますよね?バレないと思うのですが。」
「「「「あっ!………」」」」
ひゅぅ〜っと、隙間風が吹き抜けました。
うん、これにて、お開きですね。