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ふたつの目

目を開けると、医療用と思わしきライトが眩しく私を照らしていた。

何もない部屋と、外を隔てている透明な壁の向こうで、

白衣を着たものたちが話し込んでいるようだ。


『なぁ、試しにアンフェタミン混ぜてみんのはどうかな?面白いことになるぞー!』


「えー、流石にやめとけよ。そいつは特に所長のお気に入りなんだから。」


『ちっ、つまんねーなぁ。どうせモルモットなんだし、それくらいじゃ死にはしないだろうが。』


微かに聞こえる音の方へ、少女が黄色の左目を向けると、

それを見て後ずさるように目をそらす白衣の二人。


「田辺、今日の仕事はもう終わったんだ。いこう。」


そう言いながら、眼鏡の位置を整える長身に相方が答える。


『そうだな、あの化け物と一緒にいたら、いつ殺されるかわったもんじゃない。』


冗談で顔を笑わせている白衣の似合わない青年の目は、笑っていなかった。


それからしばらく、

ベッドから起き上がった彼女は、おとうさんに言われていた通りに自分の記憶を確認する。


「…悠、秋、おとうさん」


これで全員。

ふと、安心すると少し眠くなってきてしまったようで彼女はベッドにまた横たわる。


ここには何もないけれど、外に比べれば見慣れていて私は落ち着く。


「おとうさん。おやすみなさい。」


さっきのお菓子が残っていることを祈りながら少女は眠りについた。



 △  ▽  △  ▽  △  ▽  △



ほとんど魚のいない水槽を背景に座ると、

監視モニターを眺める所長が口を開く。


『それで、原因は?桂木くん。』


「はい。どうやら昨日の投薬量が少し多かったようです。また田辺です。申し訳ありません。」


『そうか。彼も昔は患者のことを最優先に考える医師だったというのにな。どうしたものか。』


「お言葉ですが所長、彼も怖いのでしょう。彼女の脳の半分は殺人鬼のものです。いくら身体能力が上がるとしても薬の量が少なかったときのことを考えると…。」


投薬量が少なければたしかに、殺人鬼から移植した脳の機能が優勢になる。

しかし、投薬量が多ければ彼女の記憶にまで影響が出てしまう。


そんなことは、この研究所にいる誰もがわかっていることだ。


『少し容態を確認してくる。君はしばらく楽にしておいてくれ。次の研究も残っている。』


「承知いたしました。」



 △  ▽  △  ▽  △  ▽  △



「もう、いいんじゃね?大丈夫だって、太一の考えすぎだって。」


金髪にメタリックな義足が特徴的な青年が幼子のように駄々をこね始める。


『まだダメだ。俺らの助けを待ってる人がいるかもしれない。』


その青髪の答えにあきれ果てる金髪は、糸が切れる。


「いや、もう丸二週間も調査してるのに、何も収穫なしだぞ。普通に考えて問題ない!この病院は極めて正常だ。それでいいだろう。」


本当に彼の言う通りなのだろうか。

だとしても、私にはもう少し時間が必要だった。


『すまない。もう少しひとりで探りを入れたい。雄太は先にあがってくれないか。』


青髪の発言にあきれたように、ため息をつく太一。


「なんかあったらすぐに連絡しろよな。」


『わかった。』



 △  ▽  △  ▽  △  ▽  △



少女の目には、パラパラと降っている雨のしずくが写っていた。

身体のあちこちが痛む。


おなかがすいたなぁ。


寂れた街でそう考えていると、

片目に包帯を巻いた軍人がこちらへ駆け寄ってきた。


「これはっ… 。いますぐ手当てしなければ」


轟音で麻痺してしまった耳でかろうじて聞こえる言葉は

少女の聞いたことのないものだった。


見たこと無い服装の彼は私を背負うと、どこかへ連れ出してくれるようだ。

少女は彼に身を任せることにした。


行く先はどこでもいい、ここでないのなら。

そう思いながら。


その矢先…


―― 銃声と共に私の足は砕け散った…



 △  ▽  △  ▽  △  ▽  △



『おや、気が付いたかい。ずいぶんと、うなされていたけれど。』


目の前には、照明でも雨でもなく、

見慣れた青い義眼の持ち主が。


少女を心配そうに覗き込んでいる。

その顔を見て、少女はひと息吐いた。


「うんっ、大丈夫。おさかなさんが見たい!」


『よしっ、水槽のところに行こう。最近、新種の動物がちょうど仲間入りをしてね。きっと、びっくりするよ。』


ここでは雨の音は聞こえない。


少女はゆっくりと起き上がると、所長と手をつないで水槽へ向かう。


所長がやけに楽しそうにしているのが少し気になりながらも、ドアを開けてみると


そこには、水槽に顔面を押し付けているぺんぎんが、居た。


つづく。


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