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残された者達の荒地  作者: 宇佐見レー
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第一章「旅」

 頬を撫でる風は優しく、遥か頭上で薄く膜を張った雲から顔を出し、照る日光も体に熱を持たせる程でもなく丁度いい。

 彼女が想像する旧世界の人類ならば、きっと外に出て平和に日向ぼっこでもするだろう。けれど、新世界の人類である彼女は夢想はしても、その選択は選ばない。

 慣れる訳が無い強張る筋肉、妙に体内に響く鼓動音。極度の緊張によって目立つ白髪の合間から一筋の雫が流れ、顔の輪郭を伝い大粒の汗となって顎まで滴るとそのまま薄汚れたコンクリートの床に落ちていく。

 いや、ここが床というのはおかしな話だ。

 彼女の持つ旧世界の写真に写るこの場所は、コンクリートで建造された箱型の建物で、本来なら彼女が横になっているこの場所は、壁の筈だった。

 けれどいつしかここは形さえも留める事が出来なくなると人々が往来していた道に倒れ、そのまま朽ち果てるのを待つだけになる。

 その彼女がいる場所は、決して見晴らしの良い場所ではない。本来は高く聳えていたのだが、倒壊したせいか本来の高さよりも大分低く、周囲の建造物から彼女のいる場所が見下ろせる。

 それでも彼女がここを陣取ったのは、彼女の正面、目的の場所ならば観測が出来たからだ。

……旧世界の拳銃を手に、簡素なトタン扉を守る二人の男。

 服装は継ぎ接ぎだらけの襤褸布、目は狂気を帯び、入り口前に串刺しにされた女性の死体から漂う腐臭すら、気にはならないのか。

 それらを視認し、聞いていた通りのバンディットだと確信し、彼女が抱え持つ銃、精度も高く遠距離を想定して遥か昔に開発された一丁の銃、彼女は裸眼による狙撃を行う為に相手を注視していた。

 視線は外さず、自分が着ていた上着を脱ぐと柔く丸めて床に敷き、腰に装着されていた弾倉が入ったポーチを慣れた様子で左手で外すと、正面の床へと乱雑に置いた。

 無数に居るバンディット達の一つ、その拠点だけがはっきりと見えるその場所で一度片膝立ちになり、肩に担いでいた銃を両手で持つ。

 遊底を右手で触れると半ば自動で体が動く、それは染みついた動作――――呼吸に近いそれを素早く行った。

 遊底を引き切らず、半開きになった排莢口に一瞬だけ視線を送りそこにある筈のものが無い事を確認する。

 本来ならば一連の動作を完璧に行うことで弾が装填される鎖閂式の銃身を、支えとして雑に床へ置いたポーチに乗せ、丸めて敷いた上着に両肘を乗せる。

 肌を露出させ、上半身は白い布を胸部へと巻き付けただけの彼女は、それを気にもせずに右肩にしっかりと銃床を付けて照星照門越しに観察を続ける。

『なぁ』

『あ?どうした』

 最初に確認した通り目前、距離約四百メートル先に武装をした男が二人。

 侵入者の阻止と見張りを兼ねている様だが、全くやる気が見えない。自身が任せられているその仕事の重要さが良く理解が出来ていないらしい。

 練度の高い哨戒兵ならば、五感だけでなく第六感ですら働かせ、周囲の細かな異変にも気づくだろう――――だがそれも仕方のない事だ。

 ここは旧世界じゃない。新世界なのだから。

『あの捕まえた女、下っ端の俺らにも回ってくるか?』

 俯せで観察をしながらも、遊底についているレバーを右手の小指と薬指で掴みながら、力を込めて後方、自身の胸部へと一気に引っ張る。

 既に挿入されている弾倉から弾丸一発を薬室内へと装填させる為の行為、先程の中途半端な行為ではない。

……対象の声は、聞こえてる訳ではなかった。自然と彼女の境遇で身に付いた、読唇術だ。ただそれも完璧ではなく、ある程度は彼女自身の予測でもある。

『……さあな。ボスはすぐに壊してバラバラにしちまうからな』

 片方の男が肩を竦ませる。

『あーあ、良い女だったのになぁ』

 白髪を揺らし、静かにその時を待つ彼女は、自分が持っている銃の照星を男二人の内、肩を竦ませた方に合わせた。

「……マリア、後は貴方次第」

 彼女の相棒にも目の前の男にもこの声は届かないだろうが、手筈通りならば相棒が動いてくれる。

 支えがあるおかげで、銃身はそれほど揺れる事は無かったが、緊張しているからか引き金に添えてた右人差し指は微かに震えていた。

 コンクリートの床のひんやりとした冷たさと、微かに背中をなぞった冷や汗の感触を感じながら、大きく息を吸った。合わせた照準に、更に狂いを無くす為に。


 周囲に漂う不快な腐臭、それは見渡せば、弄ばれ最後には磔にされた裸体の女性達からだった。死体になりながらも未だに辱められる彼女達の姿は、目を覆いたくなる程に痛々しいものだ。

 ここの狂人達はそういうのが趣味らしく、磔にされている以外は外傷が無い者や、まるで地面に叩き付けられた果実の様に砕けた者の姿もあった。

 それらがまるで壁の様に瓦礫の中に作られた集落を囲む――――まず間違いなく、常人ならばその光景と腐臭に耐えられなくなる。

 けれど、男達が捕らえて連れてきた女は、地面に座り込むだけで何も言わない。

 視線を地面にし肩程に切り揃えられた黒髪を重力に従わせて、殆ど半裸の状態で座らされている。

 だが促されても両手の肘までを隠す綿の手袋だけは決して外さずに。

「……この女、本当に大丈夫か? 壊れてる様に見えるぞ」

 ここの頭領なのか、傷だらけの上半身を露出させた男がまだ生きているその女を囲む連中に問いかける。だがどいつもこいつも肩を竦めるばかりで、答えはしない。

「ま、いいさ。ここんところよぉ、女ばっかり捕まえて殺してたからか、中々捕まんなくてねぇ……」

 腰に付いている細くしなやかな『白骨化した手』を撫でて、言った。

「溜まってるんでなぁッ!」

 一拍置き、目を血走らせて満面の笑みを浮かべる。同時に男の手は柔い女の左腕を乱暴に掴んでいた。

 座り込んだ女も、この女に飢えた狂人共の餌になる。磔にされ、ただの飾りとなる事を受け入れたのか――――抵抗の素振りも見せる事無く、右手を男の手へ滑らせ始める。

――――そこでいつもの様に女の人生は終わっていた筈だった。荒廃し、秩序なぞ無いこの場所で血肉を咲き乱れさせ、狂人共の玩具として。

 だが頭領であるこの男は、どうやら身の危険に敏感らしい。

 触れた女の右手の感触に違和感を感じたのか、眉を一瞬顰め、自身の顔面を不自然に捉えようとした女の掌を、即座にずらし背後に向けた。

 次の瞬間、硝煙の香りと耳を劈く破裂音がコンクリートに乱反射し集落に鳴り響く。

「くそッてめぇ……」

 この場所を囲むコンクリート壁の外、響く様に更にもう二度ほど頭領が今聞いた音とは別の破裂音が鳴ったが、目前の脅威から意識を外す訳にはいかなかった。

 男の行動は早かった。自分の額に向こうとしていた『右手』から、弾丸が放たれた。主に小銃に使われる強力なライフル弾だ。

 どこに当たろうとも重傷のそれは、間違いなく男を殺すつもりの殺意が込められている。

 手に付けられていた手袋の掌の部分には穴が開き、隠す必要が無くなったからか手袋を外し、布と腕に挟まれていた一つの空薬莢が地面に落ちた……それは小気味の良い音を鳴らしながら地面を転げる。

――それを火蓋に、精巧に出来た右手の義手を晒し、立ち上がる。

 そこに先程までのか弱い女など存在しない。

「ッ!?」

……男共の声にならない声。この場所に連れて来られ、恐怖しない者などいなかった。

 攻められてもこの周囲を囲む死体に戦意を削がれ、逃げ帰る者が殆どだと言うのに。

 男の、男達の目前に居る嫋やかで弱々しかった女の、目はその場にいる狂人共にですら悪寒を走らせた。

 この世とは思えない程の昏く、人間と思えない程に理性が欠如した乱暴な目。

 最初は分からなかった、此方をまっすぐに見る事も無く黒髪が垂れ下がり、俯いていたのだから……けど、ゆっくりと上げた顔に、此方をジッと見るその目、地獄から這い上がって来た憎悪を糧とする殺して来た者達の、死霊の様になっていた。

「外にいる連中もこっちに当てろ。こいつを殺すぞ」

 頭領の男が額に汗を滲ませる。

 周囲の張り詰めた緊張に、背後にいる男達は動けずにいたが、そのうちの一人が逃げる様に入り口へ駆け寄る。扉とも言えないただの板を、開けた。

「敵……ッ」

――――敵襲、と言い掛けた男は、目を見開き、一瞬の間をただただそこに留まるしかなかった。

 それは何故か……理由は簡単だった。

 外にいた筈の見張りは既に、入り口の目前で頭を砕け散らせ、血の海に沈んでいた。

 そして銃声、茫然としていた男の右膝に、音速で飛来する鉛が突き刺さる。

 膝から血飛沫を上げ、関節を上から下へと斜めに貫通した鉛は、背後の彼らの居住区の地面に小さな穴を穿った。

 男は痛みと衝撃に驚愕を入り混じらせて膝から崩れ落ちる。

 苦悶の表情を浮かべるが、頭一つ、二つ分ほどズレた男の頭を正確に素早く二度目の銃声で撃ち抜いていった。

「銃声は三度、だが落ちた空薬莢は一つ……くそっ、外にも仲間がいるぞッ」

 目前の女が鳴らした一発の銃声に、続く様に鳴った二度の銃声を今更になって理解し、声を張る頭領に周囲の茫然としていた男達が、ようやく我に返ったらしい。

 自分達が持つ銃器を強く握り締めると、迂闊に、感情的に外の様子を窺い始めた。

「正面高台からの狙撃だ!早く閉めろ!」

 狙撃によって一人目の男が撃たれ、膝を貫通した弾丸の着弾点からそれを分かっていた頭領だけが、いち早くこの状況を理解して、そう荒々しく言うが……既に遅かった。

 顔だけを出して窺う者、開け放たれた入り口の前に立つ者、それを止めようと出て来てしまった者。

 彼ら三人は、たった数秒ほどで、たった三発の弾丸でただの人形と化していた。

 死ぬのを免れた者達の目には、はっきりと焼き付いた。

 仲間の死が、仲間だった者達のなれの果てが。

「てめ――――」

 この狂人共が感じているものを、代弁する様に頭領が目前の女へと怒気を孕む声を上げかけたが……今の今までなんの行動も起こさなかった女がいない。右手に持つ拳銃の銃口を向けたと言うのに。

 けれど……

「悔しい?悲しい?――でも貴方達にそう思う権利は無いの」

 その声が眼下から聞こえ、男は本能が、理性が理解する事を強いられた。

 伸ばされた右手は真っ直ぐ頭領の腹部へと向けられ、仄暗い光の消えた瞳で自分を見据えた女がいたのだから。


「あーあ……っと、少し手間取りましたかね?」

 無数の骸が足元に転がる中、黒髪の半裸に近い状態の女が誰に言うでもなく呟いた。

 右手の戦闘用の義手を左手で擦り、辺りを見渡しているが、入り口方面からゆっくりと此方に近づいている人影を気にする事はない。

「こりゃまた派手にやったね、マリア」

 肩程の黒髪の女性とは対照的な、白い髪を風に靡かせている女性が言う。

 派手、というのは勿論、全て的確に急所を撃たれるか、斬り付けられ絶命している骸の事だろう。

 辺りには、腐臭に入り交じった鉄錆の臭いが充満している。マリアと呼ばれた黒髪の女性はともかく……長い白髪の女性もその不快な臭いに、一瞬もたじろぐ事は無い。

「使えそうな物と弾薬、食糧だけ持ってばあさんのところに戻ろう」

 ライフルを肩に担ぎ、バックパックを背中に背負い、そう言って薄汚れた布が張られたテント群を進む白髪の女性。恐らくそこは奴らが普段暮らしていた居住区だ。

「あ、ついでに私の装備諸々も探しといてください」

 ほぼ半裸のマリアが、流石にネグリジェの様な薄い寝間着のまま外に出るのは気が引けるらしく、ここの奴らが集めた戦利品置き場で自分の体に合う野戦服を探していた。

「はいはい」

 けれど、アリアと呼ばれた白髪の女性は、頷くも缶詰を右手に少し、ほんの少しだけ嫌そうな表情を浮かべる。

 そうやって二人各々が物資を漁る事数分、弾薬食料にマリアの装備も見つけたアリアがパンパンに膨れ上がったバックパックを傍らに置き、座り込んだ。

 外から漏れ出る日光により、ちらちらと輪郭を滴る汗が輝く。

 この場所は周囲を瓦礫で囲まれ、しかもここ自体が瓦礫が落ちた時に偶然出来上がった空間だ。風通しも悪く、辺りに充満する腐臭と鉄錆の臭いも流れる事が無い。

「ったく、暑いし臭いは酷い、嫌になりそうだ」

 幾らこういった場所に慣れている彼女でも、流石に長居は辛いのだろう。

 不快感を隠さずそう呟いた。

「暑いのは同感ですけど、臭いはそうですかね?」

 服選びが終わったらしいマリアが、本当に臭いが分からないらしく、大きく深呼吸して見せた。

「ま、あんたの嗅覚がおかしいのは知ってるから」

 呆れ気味の笑みを見せ、そう言うと右手で額を拭い上着の袖を捲り上げ、前も大胆に開け放つ。

 この場所は薄暗闇に包まれているが、開けられた胸部辺りにあるアリアの豊満なそれはあまりにも存在感があり、且つ簡易的な布を巻いて作られた下着から零れんばかりだ。

 それを見てマリアは一瞬、自分の眼下に広がる真っ平な景色と荘厳たる丘のそれを交互に見つめ、恨めしそうにしていた。

「むぅ……成長しない……」

「ん?なんか言った?」

 何気ない一言が他人を傷付ける、とはよく言ったものだ。アリアからすれば小声で喋ったマリアにただただ聞き返しただけだと言うのに、本人の受け取り方はまるで胸部の無さを煽られた様に取っている。

「……まぁ、もう行こう。用事は済ませたし、集められる物も集めた」

 パンパンに膨れ上がった迷彩柄のバックパックをマリアへと渡し、アリアは銃を肩に担ぎ、邪魔で地面に置いていた弾倉が入ったポーチを腰回りに装着する。

「そうですね……あの人達からも聞きたい事がありますし」

 渡されたバックパックを軽々と持ち上げると背中に背負い、既に歩き出していたアリアへと小走りでついて行く。


……場所は変わり、ここは弱者達の楽園、力を持たず搾取され続ける老人と子供達がやがて果てるだけの場所。

 一人生きるだけでも難しいこの新世界では、子供を捨てるというのは良くある事だ。だからこそ付けられた名前は弱者達の楽園。

 あちらこちらに存在するこの土地は、旧人類が起こした戦争の影響をもろに受け、作物は育ち難く、人が住むにはあまりにも難しい。

「食料くらい分けてあげません?」

 旧人類が残した防弾性能のある軍用車の助手席に座るマリアが、一層激しく倒壊した建物の多い場所、そこで走って遊ぶ、不自然にやせ細る子供達を見て呟いた。

 外で遊ぶ子供達は碌に食べ物を食べれていないのが目に見えて分かる光景に、例えそれが二度目だとしても慣れないのだろう。

 しかしそれを見ても、相棒の言葉に何故かアリアの返答は冷たいものだった。

「……私達にだって余裕があると思うか?」

 車両運転席側のドアに背中を預け、トタンと瓦礫で壁、屋根などが作られた家を見る白髪の彼女は、事実一ヶ月分も無い後部座席に置かれたバックと空缶に一瞬目をやって言った。

 幾ら多くの物資を手に入れる事が出来たとしても、彼女達も人間で、栄養補給を怠れば死に至る……そういう意味で言った事は承知の上だったが、それでも納得がいかず、けれどその言葉に、いつもの彼女とは違う雰囲気を感じ、マリアは少し眉を顰めた。

――――その内に、車のエンジン音を聞き付けたのか、子供達に呼ばれたのかは定かではないが、一人の老婆がボロボロのトタン扉を開け、駆け寄れない体に鞭打って此方に近づいてくる。

「よくぞご無事でいらっしゃいました……ありがとうございます。私の娘達が連れていかれる事も、息子達が恨みを持つ前に終わらせて頂けた事を……」

 酷く皺の刻まれた顔に、二人を見ると静かに雫を流していた老婆は、我慢できず泣き崩れた。実では無いにしろ、娘や息子という言葉を使った以上は、本当にそう思って育てているのが、その涙によって証明されている。

 老人の様子に、茫然としていた周囲のやせ細った子供達が心配そうに駆け寄ってくる。

 実の両親を知らない彼らからすれば……親代わりなのだから当然だが、この状況では中に二人へ敵意の視線を向ける者もいた。

「これも食料を分けて貰う為の仕事だ」

「ちょッ、アリアさん!?」

 貧しい上に子供達の敵意の視線を受け、まさか報酬は受け取らないだろうと思っていたマリアからすれば、あまりにも驚愕、そして戸惑いから止めようと車を降りかけるが……それを制止する様にアリアは左の掌を背後に向けた。

 心無しか、老婆を囲む子供達からの憎らし気な視線も、少しだが増えている様にも感じる。

「えぇ、命を懸けて戦ってもらったんです……ユーリ、持って来ておくれ」

 いつの間にか何を考えているのか分からない他の子供達と雰囲気の違う、一回り大きな少女が老人の後ろに立っていた。

 老人はユーリと呼んだその少女に促し、それに答える様に少女はにこやかに笑う。

 足も、腰も悪いからだろう。もしかすると老婆が出来ない事はこの少女がやっているのかも知れない。

 ほんわかとした雰囲気ながら小走りで家に戻ると、一分と経たずにトタン扉を開け、駆け戻ってくる。

 手にはきちんと約束分の缶詰十数個が入った革袋が持たれていた。

「ありがとう……よし、実は私達からも聞きたい事があってな」

 革袋を受け取り、彼女ら二人が立ち去るのだと思い、送り出そうと変わらずにこやかな表情を浮かべた少女が、アリアの言葉に不思議そうな表情を浮かべると聞き直した。

「はい、なんでしょうか?」

「私達は今時珍しい回転式拳銃を持った男を探してるんだ」

 知らないか、と言葉が続くよりも前に少女が声を大にし、何かを思い出したらしく言う。

「あぁ!数日くらい前にここを訪れましたけど……優しい方でした……」

 アリアの問いかけに、思い出すユーリは悲し気な眼差しで地面に伏し目がちになるが、それも数秒の事。

 有力な情報を聞き、アリアは少しの間深く何かを考える様に右手で口を覆う様に抑えた。

 だが数秒も経たずに顔を上げ、いきなり車の後部座席へと向かい、ドアを開きっぱなしで乗り込むと何かをごそごそと弄り始めた。

 一体何をしているのか、老婆とユーリと呼ばれた少女は、不思議そうにそれを見る。

 一瞬、何をしているか分からなかったマリアも、その行動を助手席から振り返って確認し、理解すると安心した様に微笑んだ。

「向かった場所はこの先の大きなコミュニティで大丈夫だよな?」

 先程よりも少し大きくなった革袋を持ち、車から降り、少女の目前まで歩いて行くと……それを半ば強引に掴ませ、雑に、適当に指を差して急ぎ足で運転席に乗りこむ。

「え、これ……」

 自分の手にのしかかる重さと、袋から零れん程に詰められた缶詰たちに戸惑い、しどろもどろになる少女を他所に走り出した車の窓を開け、そこからアリアは大声を上げた。

「等価交換だ!情報を買っただけの話さ!」

 エンジン音の唸り声が辺りに響き、決して老婆と少女達の声は聞こえなかったが、サイドミラーに映る彼女達は、ありがとうという意味を込めてか、大きく頭を下げながら何か叫んでいた。

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