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聖女、働く。

 次の日、魔王城ではあちこち壊れたところの修理が行われた。手伝わなくていいと言われたけど、私のせいなので手伝うことにする。


 木材を持って運んだり、絨毯を敷きなおしたり、破れたカーテンを繕ったり。庶民の労働スキルが役に立った。


 たくさんの魔族たちがここを訪れて手伝ってくれたおかげで作業はすぐに終わり、私の部屋に案内してもらうことになった。


「無事終わってよかった。手伝い感謝する」


 長い廊下を歩きながら、魔王さんが言った。


「いいえ、そもそも私のせいなので。庶民なので労働には慣れてます」


 ぐっと右腕で力こぶを作ってみせたら少し笑われた。確かに筋肉じゃ貴方の足元にも及ばなそうだ。


「それに、今日たくさんの人が来てくれたおかげだと思います。慕われてるんですね、魔王さん」


 そう言うと魔王さんは困ったように頬を掻いた。


 魔族の人達はみんな私に優しかった。どうやら私の事情は城の人だけでなく城下町の人達にも伝わっているらしい。それでも彼らの慕う魔王さんに害をなそうとしたことには変わりないのに。


 魔族は恐ろしいって王国では言われてたけど、全然そんなことなかった。私たち人間にはない赤い瞳をしていること以外は、私たちと何も変わらない。寧ろあのクソ王子たちよりよっぽど親切だ。


「……私が王国で教えられたことは、本当ではなかったんですね」

「強大な魔力を持つ、自分たちとは異質の存在だ。恐ろしく思うのも無理はない。実際遥か昔には人間の国を侵略しようとした魔王もいた」


 それから魔王さんは、今の魔族領や魔物のことについて話してくれた。


 そもそも王国で魔王を討伐する、という話が出たのは、魔物の被害が相次いでいたからだ。それを魔王の仕業と判断した王と神官が、聖女選定の儀を行い、私が選ばれた。


 けれど、前提が既に間違っていて、魔物の被害は魔王さんのせいではないらしい。その性質上、魔物は魔族領に多く存在するが、人間の国にも全くいないわけじゃなくて、なにか別の要因で魔物が大量発生したのではないか、というのが彼の考えだった。


「魔族領は今でも充分潤っている。わざわざ人間の国を攻めるメリットはどこにもない。それよりも下手に恨みを買って人間の国全てが敵に回ることの方が余程面倒だ」


 では本当に、ただの勘違いで私たちは彼を倒そうとしたのだ。申し訳なさすぎる。


「本当に……すみませんでした」


 立ち止まって頭を下げる。


「もういい、気にすんな。俺は人間の魔法くらいじゃよっぽど死なないしな。まあ今回はちょっとやばかったけどよ」

「うわああんすみませんー!」

「褒めてるんだよ、お前の魔法の腕はなかなかだった。本気で殺しにこられたら危なかったかもしれない」


 褒められたのは嬉しいけど複雑だ。果たして喜んでいいものか。


「ていうか今回はって……他にも攻めてきた人間がいるんですか?」

「まあそうだな。たまに来るんだよ。そういうときは適当に相手して帰ってもらうんだ」

「なんていうかもうなんて言っていいのかわかりません……」


 魔王様も大変なんだな……。人間の思い込みっていうのはとても厄介なものなんだと痛感した。私も思い込んでいた側なので何も言えないけど。


「ほら、着いたぞ。ここが暫くお前の部屋になる」


 ガチャ、と魔王さんが扉を開けると、さっぱりした、シンプルな部屋がそこにあった。


「わあ……!!」

「人間の城みたいに豪華じゃなくて悪いな」

「全然!逆にキンキラの部屋出てきたらどうしようかと思いました。すごく落ち着きますありがとうございます」


 大きすぎないベッドとか、木を基調にした家具とか、なんとなく私の住んでいた家に似ていて、安心する。


「なら良かった。好きに使ってくれ。後で侍女を一人寄越すから、身の回りの事は彼女に任せるといい。なにかあったら言ってくれ」

「えっそんな、私一人でも大丈夫です!」

「まあそう言うな。城の構造とかわからんだろ?話し相手にもなるだろうしな」

「でも……皆さんのお手を煩わせるわけには」

「お前のお世話なら喜んでするって何人か言ってきたぞ。親切は素直に受け取っておけ」


 えっなんで!?


 そんな好かれるようなことしてないと思うんだけど。


 疑問を浮かべる私を見透かすように、魔王さんはふっと笑う。


「……さっき、たまに人間が攻めてくるって言ったよな」

「はい」

「けど誰も傷つけずここまで来たのはお前が初めてだよ」

「!」

「だから皆お前に好意的なんだ」


 ……違う、私は。


 ただ、怖かっただけだ。魔族領の人たちのことを思っての行動じゃなくて、ただ、自分が怖かったから。自分のための行動だった。だからそんな風に思われちゃ駄目だ。私はそんな高尚な人間じゃないのに。


 戸惑う私の頭をぽんぽん、として魔王さんは去っていった。


 湧いてくる罪悪感のようなものを振り払うように、飛び込んだベッドはふかふかだった。最高。

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