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聖女と魔王の共同戦線

 翌日、朝起きてクレアさんにヴェルドさんと恋人になったことと、多分これからもここに住むことになることを伝えたら、クレアさんは泣いて喜んでくれた。私もせっかく仲良くなった彼女と離れるのは寂しかったから、嬉しい。


 その後ヴェルドさんに作戦会議とやらをすると言われて、朝食を食べたあと執務室まで来たのだった。


「さて、俺たちは晴れて恋仲となったわけだが」

「はい!」


 恋仲だって。素敵な響きだ。顔がにやける。そして自分で言っておいてちょっと恥ずかしそうなヴェルドさんが可愛い。


「まず、お前に安全に里帰りさせてやりたい。けどそのまま王国がお前を返さないこともありえる」

「それは避けたいですね。でも、クソ王子との婚約はなくなったんだし、大丈夫では?」

「それだけどな。多分なくなってないぞ」

「えっ!? なんで!?」

「お前……聖女の政治的価値わかってないな? ひょっこり帰ってったら多分、死んだと思ってた聖女と王子の悲恋でもでっち上げて庶民味方につけてそのまま結婚させられるぞ」


 なにそれ嫌すぎる。私も王子もお互いに結婚したくないんだからもう婚約は無効だろうって思ってたのにそう簡単な問題でもないらしい。国王陛下が決めたことだから、私たちの気持ちひとつで決められることじゃないんだって。難しい。


 あと、聖女の政治的価値っていうのは、聖女は国民から崇敬される立場のはずだから、王子との婚姻によって王家に取り込んで王家の威信を強化するとか、そういうことらしい。おまけに私は平民出身だから、平民からの支持は厚いんじゃないかって。平民の数の力はなかなか侮れない。あまりに蔑ろにすれば王家への信頼が揺らいで革命に発展する可能性もあるから、平民のこともそこそこ大事にするらしい。


 私の元婚約者は第二王子だった。王太子と婚約しなかったのは、既に王太子に婚約者がいたからだけど、多分私が庶民だから王妃にはできないってこともあったんだろうなっていうのがヴェルドさんの考えだった。あと第二王子は悔しいけど顔だけはいいから、世間知らずの小娘を惚れさせるのなんてチョロいと思ったのかもしれない。残念ながら全く惚れる要素なかったけど。


「ていうか私って死んだことになってるんですか!」

「多分な。聖女が帰らない言い訳としては魔王と相討ちで死んだって言うのが一番手っ取り早いだろうよ。他に証人もいないしな」

「え、じゃあ私そのまま死んだフリしてここにいた方がいいんじゃ」

「それはそうだけど、駄目だ」

「なんでー!」

「お前、娘が死んだって思って悲しんでるだろう両親ほっといてそれでいいのか?」

「よくない……ですけど、でも」


 両親のことは心配だ。でも、私の我儘のためにヴェルドさんにいろいろ動いてもらうなんて、申し訳なさすぎる。私はほとんど何もできないのに。


「俺の都合なんて考えなくていい。お前の望みはできるだけ叶えるように努力するし、不安があれば解消してやりたい」

「でも……」

「惚れた女のために何かしたいと思うのは当然だろ」

「!!」


 何それやばい。きゅんとした。


「それに、娘を遠い国まで連れてくんだ。ちゃんと挨拶しなきゃ俺の気が済まない」

「っっ!!!」

「幸い俺は魔王だから、それなりに力はあるんだ。遠慮なく頼れよ」


 もう駄目だ。こんなの惚れるなって方が無理な話だ。かっこいい。かっこよすぎる。みなさん見てください、このかっこいい人が私の恋人なんですよ!


 思わず赤面して頭にほわほわ花を飛ばしていると、ヴェルドさんも自分の発言の大胆さに気づいたらしく、少し赤くなったあとに、誤魔化すように咳をして、話の続きを始めた。


 まずは、王国と形だけでも友好関係を築くこと。王子との婚約破棄を国王に認めさせること。私とヴェルドさんが婚約を結ぶこと。これを全て満たせば、ヴェルドさんも魔族領も(もちろん私も)幸せになれるし、多分王国にも得があるはずだ、と。


 そのために、国王に私が王家ではなく魔王に嫁ぐことの有用性を示して交渉し、ついでに王国民の第二王子への信頼を削いでおけば私の恨みも晴らせてめでたしめでたし、となるそうだ。国王陛下には既に外交を申し入れる書状を送ったらしい。私も頑張らないと。


「……ここまで言っておいて今更なんだが、本当にいいんだな?」

「何がですか?」

「俺と婚約することだ」

「本当に今更ですね」


 昨日あれだけ真剣に伝えたのに、信じてくれないのか。と拗ねそうになったけど、多分彼は私にだけそんな覚悟を背負わせるのが心苦しいんだろうなって思う。私を見つめる彼はそんな顔をしてる。ヴェルドさんのためなら全然負担じゃないって、伝えてるつもりなんだけどな。


「私だって、好きな人のために何でもしたいって思ってるんですからね!」

「……そうか」

「それに私、生半可な気持ちで大好きな家族と故郷から離れるなんて言いませんよ」

「泣いてたしな」

「それは言わない約束!!」


 くっくっく、と笑いを噛み殺しているヴェルドさんに恨みがましい視線を向ける。私いつまでこのネタでからかわれるんだろう。一生だったら困るんだけど。

 一通り笑った後、私の頭をわしゃわしゃしてヴェルドさんは言った。


「言質は取った」

「言質て」

「もうあとからやっぱやめっていうのはなしだからな。持てる権力全てでお前を囲い込むから諦めろ」


 そんなこと言われても、私には彼のそばを離れるつもりはないのだから、なんの脅しにもならないんだけど。

 彼に私を手放すつもりがないのなら、それでいい。どんどんやってほしい。大歓迎。


「でもヴェルドさんがそれ言うとめっちゃ怖いですね」

「誰が怖いだ」

「誰も顔のことは言ってませんよ……待って痛い痛い!」


 不機嫌そうな顔で思いっきりほっぺを抓られた。痛い。ヴェルドさんは強面なのを意外と気にしているらしい。そんなの気にしなくてもいいのに。かっこいいんだから。


 こうして他愛ないやりとりをするのが、心底楽しかった。それは彼だって同じはずだ。だってほら、口元を見れば、口角が少し上がってるから。


 崩れた髪を直してもらいながら、私は愛する人に同じだけかそれ以上の愛を返してもらえる幸せを噛み締めていた。





 そして、王国から国王と魔王の会談の場を設ける旨を了承する書状が届いたのは、その日の夜のことだった。



作者は強面はマイナスポイントではなく爆アドだと思ってます。

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