05 凛
昨日はマールのおかげで、記憶を取り戻す事ができた。
後は、残りの神器を使いこなせる様になればと思っていたのだが、記憶を取り戻したのだから神器の扱い方は解るはずだから、修行の必要はないとナナに言われ、今は馬車に乗って神器を全て使いこなせる様になった事と、記憶を取り戻した事をアリアに報告する為に、ナナに早朝に起こされて王都に向かっている。
空間移動を使えば直ぐなのだが、それはアリアに失礼と言う事で、馬車に乗って王都に行くことになったのだ。
初めて王都に向かう時と同じ様に、ナナが馬車を運転してくれて俺達五人は、初めて王都に行く時と同じ座り順だ。
アルシアとメロディアとオリヴィアは、騎士の鎧姿で梨沙は昨日と同じ服だ。
馬車の中で他愛のない話をしていると、馬車が止まってナナがドアを開けてこう言った。
「少し休憩にしましょう」
俺達は馬車から降りて、前に止まったあの宿屋で、休憩していた。
「前にこの村に来た時は、魔王が来て俺は気を失い、俺の身体に異変が起きたんだよな……」
「そろそろ行きましょうか」
十分程休憩し終えて、馬車に乗り王都へと向かう。
俺達は王宮に着くとアリアに、神器を使いこなせる様になった事と、記憶を取り戻した事を報告していた。
「そうか。記憶が戻ったと言う事は、これからは目的の為に動くのだな」
「あぁ」
「余り無茶はするんじゃないぞ」
「わーってるよ」
「少しの間はこの王都で、ゆっくり羽を休めるといい。宿屋はこちらで手配して置くから。いざという時頼りになるのは、お前や突破者の様な常識を逸脱した者達なのだから」
アリアへの報告が終わり俺達は一度屋敷に戻って、王都で休む為に荷物をまとめていた。
全員の荷物の準備が終わり俺達は、屋敷の前に集まっていた。
アルシア達三人は鎧姿ではなく、昨日と同じ服を着ていた。
「忘れ物とかないよな」
「うん、ないよ」
「私も」
「私達もないよ」
全員、忘れ物は無いみたいだ。
「また馬車で行くのは面倒だから、空間移動を使って行くぞ」
そう言い検索空間を使って、アリアが手配したという宿屋の前に、移動する。
宿屋の場所は検索空間を使って、アリアの会話を聞いていたから、直ぐに分かった。
「到着っと」
そう言って二階建ての宿屋の中に入っていく。
中に入ると正面には受付があって、そこで俺達の部屋の番号を確認する。
俺達が宿泊する部屋の番号は一号室と二号室で、一号室には俺と梨沙とナナの三人で、二号室にはアルシアとメロディアとオリヴィアの三人だ。
宿泊日数を確認したらなんと、一ヶ月もあったのだ。
一ヶ月間は長いから、三週間くらいでいいと言ったのだが、折角だから一ヶ月間楽しもうという事になったのだ。
今は昼食を食べ終えて、王都の中を皆で歩いていた。
「あ! 私、あのお店に行きたい!」
そう言って梨沙が指を差したのは、女性の服を売っているお店だった。
「それじゃあ五人で行ってこいよ、俺はそこら辺に居るから」
「私もですか?」
「ナナもたまには、メイド服以外の服を着てみたらどうだ?」
「ご主人様がそう言うのであれば」
ナナはそう言って梨沙達と一緒に服屋に入って行った。
「さて、俺はどうすっかな」
「お兄?」
梨沙達が戻るまで何をしようか迷っていると、後ろから女性に声をかけられたので振り返ると、そこには綺麗な女性が立っていた。
銀髪のロングヘアーに、肩と胸の谷間を出した浴衣の着方をしていて、かなりセクシーだ。
俺の事をお兄と呼んだこの女性の名は、凛と言って捨てられていた所を、俺が拾って育てたのだ。
「やっぱりお兄だ! 今まで何処に行ってたでありんすか?」
「今まで何処に行ってたのかは、話すと長くなると思うから、宿屋に戻ってから話すよ。それにしても大きくなったなぁ」
そう言い俺は凛の頭を、優しく撫でてあげると、凛は顔を赤くして、すごく嬉しそうにしていた。
「懐かしい、お兄の匂い、ずっと会いたかったでありんすよ」
そう言って俺に抱きついてくる凛。
長い間別れていたから、こうして凛に抱きつかれるのがとても懐かしい。
梨沙達は買い物が終わったようで、両手を服の入った袋でいっぱいにしていた。
「ご主人様その方は誰ですか?」
不思議そうな顔で聞いてくるナナ。
他の四人もナナと同様で、不思議そうな顔をしている。
「俺の義妹で、凛って言うんだ」
「よろしくでありんす」
そう言って皆にお辞儀をする凛。
「ゼロちゃん妹なんていたんだ」
「義理だけどな」
「この人達は誰でありんすか?」
今度は凛が俺に梨沙達について聞いてきた。
「俺の仲間だ。右から順番に梨沙、その隣がアルシアでその隣に居るメロディアは、アルシアとは姉妹なんだ。メロディアの隣に居るのがオリヴィアで、その隣が俺のメイドのナナだ」
「よろしくお願いしますね。凛さん」
「よろしくね。凛ちゃん」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「よろしくお願い致します。凛様」
五人はそう言って凛にお辞儀をする。
全員の自己紹介が終わり、取り敢えず俺達は宿屋に戻り、俺が今まで、何をしていたかなどを含めて、話をする事になったので、俺達七人は宿屋に向けて歩き始めた。