40 自らの目的の為に……
俺――ゼローグはサタンとの戦いを心から楽しんでいた。
俺とサタンの拳がぶつかる度に、大気は震え、凄まじい轟音と共に大地は抉れ、クレーターとなっている場所があった。
俺はサタンへの一度攻撃を辞めると、黒いロングコートを脱ぎ、梨沙へと投げ渡して言う。
「梨沙! それ持っててくれ!」
「うん! 分かった!」
梨沙は投げ渡されたロングコートを、見事にキャッチして言う。
「さ! 続きを戦ろうか。サタン」
俺は準備運動をしながらサタンに言う。
「あぁ」
サタンは軽く頷いて言う。
刹那、俺とサタンは高速で移動して、再び殴り合う。周囲には轟音と共に衝撃波が生まれていた。梨沙達はレヴィやメフィーが守っている為、一切被害が出ていない。
それにしても、屋敷で待ってるエスフィールはどうしてるかなぁ。絶対空間で屋敷を覆っているから、危険に晒される事はないけどそれでも心配だ。
まぁ、ちゃっちゃとサタンとの戦いを終わらせればいい話か。
「ふぅ、さて、お遊びはこれくらいにして、そろそろ本気で戦ろうか。ゼローグ」
攻撃を辞めてサタンが言う。そう、サタンの言うように今までの戦いはお遊びだ。そして、ここからは本気バトル。
俺は異空間から変化する鎧を取り出し手甲を右腕に装備する。
「神器解放! 変化する鎧! からのぉ、限界突破ッ!」
途端に、解放らされた変化する鎧は光輝くと光の粒子となる。
俺は変化する鎧を臨界突破ではなく限界突破する。本当はまだまだ上があるけど、サタンにはこれくらいで十分だろう。
光の粒子は俺の全身を覆い白銀の鎧を形成する。
姿形は臨界突破者と変わらないが性能は十倍に跳ね上がっており、目の色も臨界突破者は青だったのに対し、限界突破者は黄色となっている。
そして、性能が跳ね上がった分命を削っているが、永遠に死ぬ事のない俺には関係ないけどさ。
「限界突破者、変化する鎧、全身鎧!」
「凄いな、これ程の力を有しているとはな。昔よりも更に強くなったんじゃないか? ゼローグ」
俺の限界突破者を見てサタンが称賛の声を漏らす。
当然の事だ天才で最強無敵のゼローグ様は何処までも強くなるのさ。俺の強さに限界なんてないからなぁ。
「さぁ、始めよう」
俺はさっきよりも更に早いスピードで、サタンに詰め寄り右ストレートを、サタンの左頬に打ち込む。衝撃でサタンは後方に飛んで行く。俺は追い打ちをかけるように、後方に飛んでいったサタンの背後を取り、サタンの脇腹に右足の蹴りを喰らわせた。
サタンは今度は左に向かって飛んで行くが、地面に両足を着けてなんとか耐えると瞬時に俺との距離を詰めて来た!
昔のサタンなら今の攻撃で戦闘不能だったが、今はそんな事ないようでピンピンしていた。サタンは神速とも思える速度で拳を打ち込んでくる!
野郎、昔よりも随分と強くなってるみたいじゃねぇか。面白くて仕方ねぇぜ! サタン!
「ハッハッハッハッハッハッ! いいぜ、いいぜ、サタン! もっとこの俺様を楽しませろぉぉぉ!」
俺は殴り殴られを繰り返しながら、高笑いをして言う。
俺とサタンの攻撃によってここら一帯は、地形が完全に崩壊していた。だが、梨沙達の居る場所だけはレヴィや、メフィーのお陰で元の地形を保っていた。まぁ、どんなに地形が崩壊していようと時間回帰で、元に戻せるけどね!
俺はサタンに向かって殴りに行くと、そこにいた筈のサタンが何故か居なくなっていたのだ! 野郎、一体何をしやがった!? 俺は周囲を見渡すがサタンの姿は、何処にも見当たらない。何処に消えやがった?
周囲を見渡しつつ警戒していると、突如、背後からサタンの強烈なパンチを喰らってしまい、俺はマスクから血を吹き出し、遥か彼方に殴り飛ばされてしまった! サタンのスピードが急に早くなりやがった。どういう事だ。
なんとか、体制を立て直し破壊された鎧を修復する。サタンは更に早くなり俺との距離を詰め、高速の拳打を放つ。サタンの攻撃をまともに喰らった事により、鎧は殆ど破壊されてしまった。これだけ破壊されちまうと修復に時間がかかるな。
限界突破者を使ってもサタンに勝てねぇって事かね。全く、ここまで強いとは参ったな。さて、どうしたもんか。アレを使えば勝てるだろうが、完全にコントロール出来る訳じゃねぇしな。
『おい! ゼローグ! 俺の声が聞こえるか?』
ん? 何だ? この声、前にも聞いた事があるような、ないような。
『聞こえんのか答えろや!』
あ、あぁ、聞こえてるぞ。つーか誰だ、お前。ルイーザはどうした?
『そんなこたぁどうだっていい! 一緒に唱えるぞ』
唱えるって何だよ?
『だから、今は質問すんじゃねぇ! 俺が一緒に唱えるって言ったら、一緒に唱えんだよっ!』
はいはい。分かったよ。一方的な奴だなコイツ。おい! 一緒に唱えればいいんだな?
『そうだ! さぁ、唱えろ!』
コイツがそう言った後、頭の中に呪文が流れ込んできた。これを唱えればいい訳ね。よしっ!
「我に宿りし悪魔の王よ」
俺がそう言うと突如黒いオーラが、俺の身体から現れた!
『我が宿りし最強の騎士よ』
黒いオーラは徐々に俺の身体を、包み込んで行く!
「『眠りから醒めよ』」
黒いオーラが俺を完全に覆うと、俺の身体に変化が訪れた。俺の中に居るであろうコイツと融合する様な感覚だ。
「我、悪魔の王サタンと成りて」
『汝を覇道の極致へと誘おう!』
俺の身体を覆っていた黒いオーラは消え去った。どうやら、変化はこれで終わった様だ。
「やっと、目覚めたか」
俺の変化を見てサタンが言う。
「あぁ? てめぇ、そりゃあどういう意味だ」
ん? 気のせいだろうか口調が変わった様な……。それに、なんだか不思議な気分だ。
これは一体……。
「その変化を話す前に、あいつ等の所に戻るぞ」
振り返りサタンが言う。
「はっ! この俺に指図すんじゃねぇよ!」
俺とサタンは梨沙達の居る場所まで移動すした後、梨沙からロングコートを受け取り袖を通した後、サタンがこう言ってきた。
「おい、ゼローグ。絶対空間で俺達を覆って龍の手で隠せ」
「だから! 俺に指図すんなって言ってんだろうが!」
俺は絶対空間で全員を囲い無数の龍の手で隠して、外から見えない様にした後サタンにこう言う。
「おい! サタン! 俺のこの変化は一体なんだ!?」
「取り敢えず元に戻れ。今のお前とじゃ話しにくい。自分の意思で元に戻れる筈だ」
腕を組んでサタンが言う。
元に戻れ! ん? これでいいのか?
サタンに視線を移すとサタンが、さっきの出来事を説明し始めた。どうやら、これでいいらしい。
「ゼローグ、今のお前の変化は魔王化だ」
「魔王化? 何だそれ」
首を傾げてサタンに聞くとレヴィが、俺の質問に答えてくれた。
「昔、ゼロの中にウロボロス・ドラゴンが宿っている事を知った、私達十二人の魔王は危険な存在であるウロボロス・ドラゴンを、ゼロの中で永遠に封印する為に、自らの力の一部を貴方に与えたの。それによってゼロは私達十二人の魔王の力を使えるんだ。それが魔王化」
「なるほどねぇ」
俺は顎に手をやりそう答える。
「ゼローグ、神の領域に至れ」
サタンが真剣な面持ちで言う。
「何だよ神の領域って」
俺が言うと今度はメフィーが答えてくれた。
「前にサタンが言っただろう? 異世界からの侵略者、来訪者との戦いに備えて強くなれと」
あぁ、あれはそう言う意味だったのか。
にしても、異世界からの侵略者ってどんな奴だろう?
これに、サタンが続いた。
「こことは違う別の世界、つまり異世界では悪の神、悪神どもがその世界を支配しているらしい。そして、奴らは百年後この世界を侵略しに来る。それまでにお前は神の領域に至れ。……あの女を生き返らせるんだろ? だったら、神の領域に至れ。じゃねぇと、俺らを倒してあの女を生き返らせる事なんて出来ねぇぞ。前にも言ったがその程度じゃ、この先足手まといにしかならねぇぞ」
セシリア……。確かにサタンの言うようにもっともっと強くならねぇとな……。
「ねぇ、ゼロ、私達と戦う選択をした事後悔してる?」
レヴィは心配そうな顔をして言う。
「後悔なんてしねぇさ、あの時から俺達は戦う運命だったんだよ。記憶を無くした俺がこの世界に戻ってきたのも運命さ」
俺はレヴィの頬に手を伸ばして言う。
「そっか! それじゃ、話も終わったし私達は帰るね。あ、そうだ! 帰る前に、はい、これ」
そう言ってレヴィが手渡したのは、一枚の写真だった。
そこには赤い髪のセミロングに赤い瞳、そう、彼女こそ俺が誰よりも愛した女性、セシリア・レスティンだ。
必ず生き返らせてやるからなセシリア。
俺はセシリアの写真をポケットにしまうと、絶対空間と龍の手を解除する。
「じゃあな、ゼロ」
そう言ってサタン達は何処かに消えてしまった。




