37 二度目の絶望と龍の逆鱗
私――柊梨沙はこの状況に、只々涙を流していた。
目の前で凛さんの事を、抱きかかえているゼロの手は、凛さんの血で真っ赤になっており、ゼロは涙を流し叫び続けている。
どうしていいかわからない、……無力で何もできない私は、只々泣き続ける事しか出来なかった。
「私のせいだ、もう何も出来ないだろうと、完全に油断していた。私が付いて居ながら……すまない、ゼローグ」
両目から大粒の涙を流して、フィーユさんは言う。
泣き続けていると今まで、叫び続けていたゼロは下を向き、何かをボソボソと言っている。
私はゼロの声に耳を済ませると――。
「……す……ろす……殺す……。殺し尽くしてやる!」
とても物騒な言葉を言うと、ゼロはフラフラと立ち上がり、妖狐の生き残りに向かって一歩、また一歩と歩を進める。
その際、ゼロからとてつもないプレッシャーが放たれていて、私はそんなゼロを見つめ続けていた。
ゼロが妖狐に向かって歩く中ルイーザさんの声が聞こえてきた。
『おい、そこの妖狐、名は何と言う?』
「あ? 誰だ? 人に名前を聞く時は先ず、自分から名乗るもんじゃねぇのかぁ?」
苛ついた感じで言う妖狐の生き残り。
『私はゼローグに宿っている、最強の龍、不滅龍ウロボロス・ドラゴンのルイーザだ』
「ウロボロス・ドラゴン!? ……ほぉ、最強のドラゴン称された、不滅の龍か」
妖狐の生き残りは声の正体を知り、とても驚いた顔をしていた。
『さて、私は名乗ったのだ、貴様の名を聞かせてもらうか』
ルイーザさんは言う。それにしても、どうしてルイーザさんの声が、聞こえるんだろう?
「俺の名は緑、因みにそこに転がっている、てめぇらが凛と呼んでる女の本当の名は、琴音だ」
琴音それが凛さんの本当の名前……。
だけど今はそんな事がどうでもいい位に、あいつの言った事に腹が立って、仕方なかった。
『そうか、緑よ貴様は取るべき選択を間違えた。凛を殺さなければ、苦痛なく死ねたものを……。だが、喜ぶと良い、貴様が最初の客だ。そして、よく聞けこれは滅多に聞けるものじゃない』
意味深な事を言うルイーザさん。
一体何を言っているんだろう。最初の客って何? 滅多に聞けるものじゃないって、どういう事?
他の皆も私同様、訝しげな表情をしている。
「何を言っているんだ?」
訝しげな表情で妖狐の生き残りは言う。
『直ぐに分かる』
ここに居る全員がルイーザさんと、妖狐生き残りの会話を見守る中、ゼロは歩みを止めて怨恨のこもった声でこう言う。
「我に宿りし不滅の龍よ、眠りから醒めよ」
すると、突如ゼロの身体から漆黒のオーラが現れた! あのオーラは……。
「災害を超越する我が力を見よ」
漆黒のオーラはゼロの全身を、徐々に覆って行く!
「汝の力を以って全てを滅ぼし、全てを呑み込む」
ゼロを覆っている漆黒のオーラは、徐々に形を成していく!
「汝、我と共に世界の破滅を見届けよう!」
刹那、ゼロの身体は頭、胸、腰、足、腕、その全てが龍を模した様な、漆黒の全身鎧になったと思うと、突如、ボコッ! メキッ! と言った不気味な音を立てて、ゼロの身体が肥大化していく!
そして、変化を終えたゼロの姿は全長三十メートル以上はあるであろう、王道のフォルムをした巨大な漆黒のドラゴンだった!
剥き出しになった白い牙に、赤黒い瞳、全部で四枚もある羽に、漆黒の鱗、とても長い尻尾、尻尾だけで五メートルはありそうだ。
これは、一体……。私はあまりの出来事に言葉が出なかった。
すると、フィーユさんは涙を手で拭ってこう言う。
「……この姿……間違いない、伝承に記されていた、最強の龍、不滅龍ウロボロス・ドラゴン……そのものだ……っ!」
フィーユさんの言った事に私は驚きの声を隠せなかった。
あれが、最強の龍、不滅龍ウロボロス・ドラゴン……。ルイーザさんの本来の姿……。
「……これが、不滅龍ウロボロス・ドラゴン……ッ!」
妖狐の生き残り……縁はこの事に、驚愕の声を漏らしていた。
すると、ウロボロス・ドラゴンは右前足で緑の両足を潰した!
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!」
緑は満身創痍だったのと、突然の攻撃だった為か反応する事が出来ず、両足を潰されていた!
緑の両足は、ウロボロス・ドラゴンによっていとも容易く潰されている、もう二度と立つことは出来ないだろう。
そして、ウロボロス・ドラゴンは追い打ちをかけるように、口からあり得ない火力の炎を、縁に向けて吐き出す。その炎で縁は黒焦げとなっていた。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!!」
ウロボロス・ドラゴンは緑を殺しても尚、炎を吐き出しながら咆哮を上げていた。
どうしたらいいの? こんなの……。
「……うっ……」
今の声は――。
私は声の主の方を見ると――。
「……お兄……」
弱々しい声で凛さんは愛する人……ゼロの事をそう呼ぶ。
どうして……凛さんは死んだ筈じゃ……。
「アルシア、神の加護を使って凛を治療するんだ!」
そう言いフィーユさんはアルシアに命令する。
「うんっ!」
アルシアは嬉しそう言うと、涙を拭い凛さんの治療し始める。
「私は凛さんの血を氷で止めるよ!」
そう言いメロディアも神の加護を使い、凛さんの血を止める作業に入る。
「力を貸して! 治癒の精霊!」
アルシアは治癒の精霊の力を借りて、凛さんの治療をしていた。
メロディアが凛さんの血を、氷で止めながらこう言う。
「どうして、凛さんは生きていたの? 確かに心臓を貫かれて、死んだ筈なのに」
「さぁな、何が起きたのか分からんが、凛は生きてる。今はそれだけで十分だ。それに、暴走したゼローグを、どうにかしないといけないしな」
フィーユさんは立ち上がりそう言う。
すると、ウロボロス・ドラゴンの放った炎が此方に向かって来た!
フィーユさんは刀を取り出し抜刀すると、炎を防ぐ構えを取る。
あの炎を一人で受け止めるつもりなんだ!
フィーユさんの名前を呼ぼうとした時、フィーユさんの前に、見た事のある三人が颯爽と現れた! ……そう、その人物は……魔王サタンと魔王レヴィアタン、そして、魔王メフィストフェレスだった!
三人の魔王の力で炎は消え去り、フィーユさんも無傷ですんだ。それにしても、どうして魔王がここに……。
「ったく! ゼローグの野郎、見事に暴走しやがってっ!」
魔王サタンが毒づきながら言う。
「仕方ないよ、ゼロにとって彼女はそれだけ大事な人なんだからさ」
魔王レヴィアタンは優しい声音でそう言う。
「そんな事よりも先ずは、ゼロの暴走を止めなくては」
魔王メフィストフェレスは腰に左手を当てて言う。
すると、魔王サタンが目にも止まらぬ速さで、ウロボロス・ドラゴンとなって暴走しているゼロに近づくと、ウロボロス・ドラゴンの顔に右拳のストレートを容赦なく叩き込んだ。
ウロボロス・ドラゴンは一瞬体制を崩すが、直ぐに立て直し魔王サタンに向けてさっき放った時よりも、比べ物にならないくらいの火力の炎を吐き出した!
魔王サタンとウロボロス・ドラゴンとなり暴走したゼロの戦いが始まった――。




