33 一歩前進
二人が屋敷に来て一ヶ月くらい経った。
二人の少女の名は、ロングヘアの子が、ヴェオーラ・フィン・リーディエット。
ショートヘアの子が、ヴェオーラ・ネヴァン・エスフィール。リーディエットが姉でエスフィールが妹だ。
二人が屋敷に来てから、二階の空き部屋を二人の部屋にしたが、二人はベッドも使わず部屋の隅で、二人並んで体育座りをしている。一ヶ月経った今でも二人は部屋の隅で、体育座りをして生活していた。まぁ、ご飯を食べる時は広間に来て、一緒に食べているんだけどね。
俺は一ヶ月間二人に話しかけ続けていたが、自分達の名前の事以外は、何も言わなかった。二人の頭を撫でて見たり、頬を突いてみたりしたが、何の反応も無く一向に口を閉したままだ。
そして、今日もまた二人の部屋に訪れ、二人に話しかけようとしたが、一ヶ月も話しかけても何の反応もないんだから、何か方法を変えてみる事にした。何がいいかなぁ? ……うーん……暫く考えていると、我ながら良い方法を思いついた。
その名も! 押してダメなら引いてみよう作戦だっ! ――と言う訳で俺は部屋の隅で、体育座りをしている二人の隣に行き、同じ様に体育座りをする。リーディエットの隣に座ると二人は、不思議そうな顔をしていた。
まぁ、当然だろうな、一ヶ月間話しかけていた奴が、急に隣に座ったのだから。
十分程経った時、リーディエットが突然話しかけて来た。どうやら、俺の作戦は成功した様だ。流石俺!
「どうして……今まで話しかけていたのに、今日は話しかけて来ないんですか?」
そう言って、首を傾げるリーディエット。
「押してダメなら引いてみよう作戦さ! 一ヶ月間も話してダメなら、今日は話さないで側に居れば、話してくれるかなって思ってさ……」
「そうですか……」
俯いて言うリーディエット。
「自分達の過去を話すのは怖いか?」
「……はい」
リーディエットは俯いた状態で、俺の質問に答える。妹のエスフィールも、リーディエットと同様に俯いている。余程、過去を話すのが怖いんだろう。
「そっか……なら、二人が自分達の過去を話しても良いって思える日まで俺は待つよ」
顔を上げたリーディエットと、エスフィールは驚きの表情となっていた。俺は立ち上がって二人の頭に手を乗せ、優しく撫でると二人は安心したのか、穏やかな表情で声を揃えて言う。
「「ありがとうございます」」
「あぁ。……俺はもう行くよ」
そう言った後俺は二人の頭から手を離し、二人の部屋を後にした。もしかしたら、二人が自分達の過去を話してくれるのは、そんなに長い時間は掛からないんじゃないかなぁ。
その時が楽しみだ! 俺がその時を楽しみにしてると、中に居るルイーザが話しかけてきた。
『随分と嬉しそうだな。ゼローグよ』
そりゃあ嬉しいさ! あんな可愛い子に感謝されたんだからなぁ! 嬉しくない訳がないさ!
『お前は相変わらず可愛い娘が、本当に好きなんだな』
そりゃあそうさ! 可愛い女の子が嫌いな男なんて居ないぜ! 男は皆、可愛い女の子が大好きなのさ!
『……だが、まぁ、確かに、一ヶ月間も無口だった娘の、あんな穏やかな表情を見れたのは私も嬉しいかな』
だろ?
ルイーザと話していると、屋敷の広間の前に着き広間の中に入る。広間にはリーディエットとエスフィール以外の面々が、ソファーで寛いでいた。
「今日はどうでしたか? ご主人様」
ナナは俺にリーディエットとエスフィールの反応を聞いてくる。
「一歩前進さ」
俺が凛と唯の間に座り、ナナの質問に答えると、アルシアが嬉しそうにして俺に言う。
「良かったね! ゼロちゃん!」
「あぁ」
俺が答えるとオリヴィアが、不思議そうにして俺に言う。
「どんな手を使ったんだい? ゼロ」
「押してダメなら引いてみろ作戦」
オリヴィアの質問に答えると。凛が首を傾げてこう言ってきた。
「つまりどういう事でありんす?」
凛は普段から可愛いけど、首を傾げて不思議そうにしてるのも、堪らなく可愛いと思いつつ凛達に言う。
「一ヶ月間話しかけもダメだったからな、リーディエットとエスフィールみたいに、二人の隣に体育座りをしたのさ。そしたら、十分後くらいにリーディエットが、話しかけてきたんだよ」
どういう手を使ったのか、作戦の内容を皆に説明すると、オリヴィアが声を漏らす。
「なるほど、それで、押してダメなら引いてみろ作戦って訳か……」
「やっぱり、二人は自分達の過去を話すのが怖いみたいだよ」
俺が言うと広間の扉が開かれる。扉の方に視線を移すと、そこにはリーディエットとエスフィールが居た。どうしたんだろう?
全員が訝しげにしていると、リーディエットが前に出て言う。
「ゼローグさん、さっき言ってくれましたよね。自分達の過去を話しても良いって思える日まで待つって」
もしかして……自分達の過去を話してくれるのか?
『話してくれるんじゃないか? そういう雰囲気だし』
長い時間は掛からないだろうと思ってたけど、本当に話してくれるのだろうか。
――と思いつつリーディエットに言う。
「あぁ。言ったよ」
リーディエットは覚悟を決めた、という顔で俺達に言ってくる。
「今からお話します私達の過去を、過去に何があったのかを……」




