03 死ぬ気で修行です!
早朝、俺は王立フィリナ学園の学長室のソファーに、ナナと一緒に座っていた。
この学園の地下闘技場まで、案内してくれる生徒を待っていたのだ。
学長先生が案内してくれれば直ぐなのだが、学長先生は仕事で忙しいと言う事で、生徒に案内してもらうことになった。
学長先生はとても美人で、業務中に髪を耳にかける仕草は、大人の女性の色気を感じるのだが、案内してくれると言う女生徒は、一時間程待っても来る気配が全然しないのだ。
「遅いな」
「準備に手間取っているんじゃないでしょうか? まだ来ないようですし、今のうちに、この服に着替えて下さい」
ナナは神器の入った袋を取り出した時の様に、手元に魔法陣の様なものを展開してそこから服を取り出してそれを俺に渡してくれる。
渡された服は黒い長袖に黒いズボンで腰にはマントがついている、腰マントと言うやつだ。
更にその上からロングコートを着て、全身黒ずくめの完成だ。
着替え終えてソファーに座った直後、ドアが勢い良く開かれて、一人の女生徒が入ってくる。
「遅れてごめんなさい!」
「随分遅かったけど、何かあったのか?」
「準備に手間どってしまって、本当ごめんなさい!」
ナナの言っていたとおり、準備に手間どっていたようだ。
「来て早々悪いが彼等を、地下闘技場まで案内してくれるか」
「わかりました。付いて来てください。私レティーシャ・フェアフィールドって言います。よろしくお願いします」
レティーシャと名乗った少女は金髪の縦ロールに王立フィリナ学園の制服を着ていた。
一通りの自己紹介を終え、レティーシャの後について地下闘技場へと向かう。
階段を一階まで降りた後、階段の左にある扉の中に入って、また階段を降りるとまた扉があり、その扉を開けると中は広大な闘技場となっていた。
レティーシャの話によると、端から端まで一キロもあるらしい。
「私はこれで失礼します」
「案内してくれてありがとうな」
レティーシャは一礼して、闘技場から出て行く。
「十二種類もある神器どれから修行するの? ゼロ」
「急に敬語が抜けた上に、名前で呼ぶなんてどうしたの?」
「ゼロが二人きりの時ぐらいは、敬語は使わなくていいって言うから」
顔を赤くしてモジモジしながらそう言うナナ。
こういう姿は可愛いの一言に尽きる。
「最初に修行する神器の話だったよな」
「うん」
「最初に修行するのは時空だよ」
「何で時空なの?」
「時空は時間や空間を自在に操れる神器なんだろ、だとしたら今俺等が居る空間から隔離された空間を作り出して、その中の時間を極端に早くすればいいじゃないかと思って」
我ながら完璧な作戦だと思う。
「なるほど。でもそんな簡単にはいかないと思うけどな」
ナナはまた手元に、魔法陣の様なものを展開して、そこから神器の入った袋を取り出す。
「ずっと気になってたんだけど、その物を取り出すのってどうやってんの?」
「魔法で遠くにある物を、ここから取り出しているんだよ」
遠くにある物って事は、俺の神器や服は何処か遠い所に有るって事だよな。
奪われたりしないのかナナに聞くと、神器は俺の屋敷の保管庫に、厳重に保管してるらしい。
ナナは袋の中から時空を取り出して俺に渡してくれる。
腕輪型になっていて、真ん中には青い宝石が埋め込まれて、それを左腕に付ける。
「先ずは神器を解放する所からね。使い方は身体が覚えてるいるはずだよ」
目を瞑り集中すると、その言葉は直ぐに出てきた。
「神器解放、時空」
そう言うと腕輪に埋め込まれた宝石が、青く光輝きだした。宝石の光か輝き終えるが、変化が見当たらない。
「これでいいの?」
そう言ってナナの方を向くと、一発で成功したの事に驚いている様だった。
「それじゃあ今度は隔離された空間を作ってみて」
「隔離空間」
神器を解放する時と同様に、その言葉は直ぐに出た。
神器の使い方を、身体が覚えていると言うのは、どうやら本当らしい。
後はこの空間の時間を、早くする事ができれば、俺の完璧な作戦が成功する。
「一つ気づきいたんだけど、俺がこの空間で修行してる間の飯はどうしたらいいだ?」
「今更気づいたの?」
「気づいてるなら言ってくれよ」
「ゼロが死ぬ気で修行すれば済む話でしょ」
死ぬ気で修行って事は、早く神器を使いこなせるようにならないと、あの空間の中で死ぬって事だよな。
「以外にスパルタなんだな。まぁ俺が神器を死ぬ前に使いこなせる様になれば済む話だしな」
神器の入った袋を受け取った後今度は俺を中心に、正方形の隔離された空間を作りその中の時間を早くする。外での一日をこの空間の中では一ヶ月位にしておこう。広さは端から端まで五十メートルほどの隔離された空間を作った。
この空間内で一日また一日と、時間が過ぎていく中、梨沙達四人もこの地下闘技場に来て、俺の修行している姿を見に来ている様だった。
三週間程経った時俺はある変化に気づく、その変化とは見たものを全て記憶していたのだ、それだけじゃなく傷ついた身体は、直ぐに再生されると言う不思議現象が起こっていたのだ。
修行が終わったらナナ達に聞いてみよう。
*****
修行するのに夢中になっていたらあっという間に一ヶ月が過ぎていた。
髪の毛は腰ほどの長さまで伸びている。
俺は隔離空間を解除して、ナナ達の方に行こうとしたが、一ヶ月間断食していた為に、その場で倒れそうになるが、それに気づいたのか五人は、一斉にこっちにやって来て俺を支えてくれた。
というか一ヶ月間断食したのに、死んでない俺って凄くね!
「随分無茶をしましたねご主人様」
「そんな事より腹減った」
俺のお腹からは凄い音で腹の虫が泣いている。
「でしたら直ぐに屋敷に戻りましょう」
「でもその前に学長先生にお礼言わないと」
そう言い新たに取得した時空の新技を使って、学長先生が居るだろう学長室に移動する。
そこには俺の予想どうり、学長先生が業務をしていた。
俺以外の皆は何が起きたのか、全く分からないと言う顔をしていた。学長先生はそれほど驚いていないみたいだ。
「私達さっきまで闘技場に、居たはずなのになんで、学長室にいるの?」
「それは俺が新たに取得した、時空の新技、空間移動を使ったからさ、これで何処にいても直ぐに移動が出来るんだ」
まぁ、新たに習得と言っても、以前の俺は既に習得してただろうけど……。
「凄い」
「学長先生、地下闘技場貸してくれてありがとうな」
「また使いたくなったら、何時でも言ってね!」
そう言って、ウインクをしてくれる学長先生。
「それじゃあ、俺等急いでるからもう行くよ。じゃあな」
そう言い空間移動を使って、今度は俺の屋敷の前に移動する、我ながら便利な技だ。
こうして俺達六人は屋敷の中に入り、俺は昼食を一ヶ月分食べたのだった。