ミスキャスト白雪姫《スノーホワイト》
笑ってくれたら嬉しいな
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?」
「マリリン・モ〇ロー」
「まぁ、白雪姫ですって?」
「はぁ?話聞けよ!?」
「照れなくてもいいのよ。分かるわ。あの子可愛いものね。でも、私の娘は渡さないわよ!」
「いや。だから話を聞いてくれよ!!」
鏡の言うことを聞いた継母は怒ってしまいます。
月の無いある晩のことでした。
鏡と喧嘩した継母は白雪姫の顔にとあるものを塗ってやることにしました。
そして、明日の白雪姫の反応を思い浮かべてニヤニヤします。
次の日の朝、起きた時にそのことに気が付いた白雪姫は顔を触り、鏡を見て呆然としてしまいました。
「お肌ぷるっぷるや」
ほっぺをプニプニしながら呆然とする白雪姫の部屋に継母が入ってきました。
「ふふふ、驚いたかしら。貴方が寝ている間に化粧水を塗ってマッサージしてやったのよ!」
「いや、ちゃうねん……なにしてくれてんねん……」
白雪姫をさらに美人にしてどうすんのよ……と白雪姫は思います。
「ここで重要なのは『顔になにか塗ること』じゃ無くて、『嫌がらせをすること』なんだけどね?」
ストーリーから外れんなよ……そう思いつつも、白雪姫は捨てきれない僅かな期待をもって継母を見やります。
原作通りならば、このあとは……!
「ふふん、もちろん分かってるわよ!今から貴方を森に連れていきますわ!
狩人に案内させましょう。
お弁当は玄関で執事が持ってるわ。
……夕飯までには帰るのよ?」
「護衛付きのただのピクニックじゃねーか!」
駄目でした。
僅かな期待も粉々に砕かれてしまいました。それでも、お城からでれそうなだけまだマシになったほうなのでしょう。
「気を確かに持つんだ、スノー。」
いつの間にか隣に来ていた狩人が、諦めきった表情で白雪姫の肩を叩くきます。
その目は正しく、死んだ魚のような白濁した目でした。
そこで白雪姫は気が付きました。化粧水の用意をさせられたのは彼なのでしょう。
女性のお店に一人で入り化粧水を買わされた彼の苦労を思うと涙が出てきそうになりました。
お互いを労るような目で見やった、その時。
ガーンっ!
白雪姫の頭の上から銀のタライとゲームオーバーの文字が出てきました。
あと、「お願いだからストーリーなぞって」の文字も。
そのタライは白雪姫の脳天に見事命中して、白雪姫は頭から血を流して死んでしまいました。
それと同時に、世界が止まります。水一滴すらも動かない停止した世界。
白雪姫はむくりとおきあがり言います。
「またゲームオーバーじゃん……」
狩人も、タオルで白雪姫の血を拭ってあげながら言います。
「魔法鏡の時点でアウトだろ。」
魔法の鏡から若い男が出てきて言います。
「意地でもスノーが一番可愛いなんて言いたくねぇ」
継母は赤い糸の通った裁縫道具を片手に言います。
「あら、私の可愛いスノーを馬鹿にする口はこの口かしら。そんなに縫い合わせてほしいの?」
ドアを開けて入ってきた王子が言います。
「あの、私……僕もそろそろ出番が欲しいので進んでください」
クローゼットから事の流れを見ていた小人たちが言います。
「私の気持ち分かる?!小人役に加えて、1人7役だよ!?」
小人が足りないので、彼女を除いた六人は彼女と全く同じ動きをします。
「いつ見てもウケる」
「幼稚園児のお遊戯会みたいだな」
「人形劇ってこんな感じだったかしら」
誰のセリフかは、言うまでもないでしょう。
童話『白雪姫』の世界に引き込まれてしまった六人の役者達。
白雪姫(女)
性格:ツッコミ気質
継母(女)
性格:白雪姫love
魔法の鏡(中の人=男)
性格:めんどくさがりや
狩人(男)
性格:苦労人、死んだ魚の目
王子(女)
性格:イケメン、可哀想な人
七人の小人(女)
性格:ツンデレ、悪役?
性格どころか性別まで間違いだらけの配役で、彼らは無事物語を終わらせて元の世界に帰ることは出来るのでしょうか。
「だから『世界で一番美しいのは白雪姫です』って言うだけでいいの!」
「うわ、お前それ『○○がいちばんかわぃいの♥』とか言ってるぶりっ子と同類だぞ」
「うわ、お前の言い方きもっ」
「あぁ?なんだ、やんのか!?」
「いいとも、戦争だ!」
「「ふははは!!」」
少なくとも、この二人が和解するまでは無理ですね。はい。
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「はいやくへんこう?」
「その馬鹿っぽい言い方をなんとかしろ。配役変更だ。」
「まぁまぁ落ち着いて。実は僕達を引き込んだ存在が流石にこれじゃダメだと思ったらしい。ほら、ここにあるくじ引き。」
その話を聞いて白雪姫は飛び上がってしまいます。
「……えっくじ引きで決めるの?」
問答無用とばかりにポツリとくじ引きの箱が置いてあります。
残念ながら引かないという選択肢は用意されていないのでしょう。
仕方が無いので適当に並んでくじを引いていきました。
王子
元白雪姫
白雪姫
元魔法の鏡
七人の小人
元継母
継母
元狩人
狩人
王子
魔法の鏡
元七人の小人
「オーマイガッ」
「嘘だろぉ……」
「継母とかまじかー、スノーちゃんごめんねー」
期待を裏切らない2人でした。そして、期待を裏切らないくじ引き結果でした。
「鏡にはお似合いだよ!」
「黙れよクソ白雪!」
「今は君が白雪だよ?」
「あら、可愛くない白雪姫ね」
「鏡と小人の二択ってなんだよコンチクショー!」
怒った白雪姫が立ち上がった時、ゲームオーバーのタライが降ってきました。
元白雪と違い、運動神経のよかった白雪姫は見事避けました。
ビリッ!
その途端、なにかが敗れたような音がします。そして、王子様は内股になり座り込んでしまいました。
その顔は真っ赤です。
「どうしたんだ?」
「スノーちゃん!?風邪でも引いたの!?」
「大丈夫?」
折角ですのでこの機会に紹介しましょう。この世界にはいくつかルールがあります。
その中で白雪姫に該当するものは
ひとつ、王子のキスを拒んではならない。
ふたつ、タライを防いではならない。
みっつ、暴力反対
さいご、ルールを破ると白雪のパンツも破れます。
「なんで私のパンツが破れんだよっっ!白雪は鏡だろ!?」
「はっ、男の恥じらいとか誰得だよ」
「パンツはどうでもいいんだよ!鏡の尻拭いをするのが私というのが気に食わないの!」
「いや、どうでも良くないよな?それに今重要なのはキスのところでは?」
「たらいを防ぐのと私のファーストキスは同列かよっっ!」
確かにうら若き乙女にこれは失礼かもしれませんね。すみません。
それではまたお話を、1から進めましょうか。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだれ?」
「もっちろん白雪姫よぉ。あは、ふふふ、とーっても美人さんなのぉ」
「クソッなんで俺がこんな屈辱を……!」
握りこぶしを作り震えている白雪姫(男)。元イケメンの彼は女装も似合うのでした。
「ごめんね、白雪君。じゃあ、森に行ってらっしゃい」
「あぁ……はぁぁ」
全ての苦労を物語る深い深いため息をつくと、白雪姫は狩人と森へ行きました。
狩人は白雪姫を殺さずに、肩を叩いてやりました。
「ようやく来たわね!遅いわよ!スノーじゃないんだから、さっさと働く!」
「こんっのクソババア……」
「なんかいったか?あぁ?」
悪態をついた白雪姫をドスをきかせた声で睨む七人の小人。
しぶしぶ白雪姫は家を掃除しました。
「白雪君ー遊びに来たよーりんご食べてぇー」
「紫かよっっ!」
継母の化けた魔女が持ってきたりんごは紫色でした。
ちょっと食欲の失せた白雪姫は明日食べることにしたのです。
「……そういえば、スノーはどこいったんだ?」
「確かに……スノーちゃんが紫リンゴに突っ込まない筈ないよな」
白雪姫はとても嫌な予感がしてしまいます。
自分には関係の無いこと、そう割り切りたいのに割り切れない。
その心の中の感情に見ない振りをして、蓋をして。
どうせこの物語の中だけの事なんだ。情を移せば、きっと辛くなる。
今までなら動かなかった。それでいい。それでいいはずだ。それでいいはずなのに。
「くそっ」
「白雪君!?」
白雪姫は走り出しました。王子様がいる場所は隣の国のお城です。
でも白雪姫には、王子様が大人しくそのお城にいるとは思えませんでした。
向かう場所はただ一つ。全ての始まりの、白雪姫の、お城に。
ぎぃぃぃっと音を立てて重い扉を開きます。NPCが一人もいないなんてことはもう気にしていられませんでした。
急がないと王子様が、彼女が、消えてしまう気がしていたのです。
大広間から外れた所にある白雪姫の私室。
ドンドン!ガチャガチャ!
いくら押しても叩いてみても、内側から鍵がかかっているようで開きません。
「おいっ、ここを開けろ!いるんだろスノー!!」
「……ゃだ。……に……なぃ。」
扉越しに僅かに聞こえる声。白雪姫が、いや、鏡が初めて聞く『白雪姫』の弱気な声でした。
動揺しつつも鏡は静かにして耳を済まします。
「いやだ。まだ、私は死にたくないっっ」
「……は?おい、どういう事だよ?なんで死に繋がるんだ、おい、聞いてるんだろ!開けろ!」
いくら言っても聞こえてくるのは涙を堪えたような嗚咽ばかりで。
「開けてくれよ……スノー」
鏡は、白雪姫の名前を知らないことを心の底から後悔しました。
本当に届けたい時に、名前を呼ぶことすらできない。
そのことが、自分達のこの世界だけの関係を示しているようで嫌になりました。
がちゃり。
静かに、ドアが開きました。奥では驚愕した目で『白雪姫』がこちらを見ていました。
誰が開けたのかは分かりません。
そんなのは関係ないのです。
「スノー」
名前を呼んだだけなのに、身を竦めて縮こまる彼女が小さな声で言いました。
「ごめんなさい……でも、終わりたくない。別れたくない。…………死にたくないよ」
鏡はその小さな小さな体を抱きしめました。怒って殴り返してくるのを期待していたのに、帰ってきた反応は震えた手で弱々しく押し返そうとして、それっきりでした。
鏡は白雪姫が落ち着くまでずっと背中をさすり続けていました。
少し落ち着いたのか、ぽつり、ぽつりと彼女は話し始めました。
「私ね、末期のガンだったの。もう、余命宣告もされててね。
家族しか知らなかった。死ぬなら、日常の中で笑って死にたいと思ってた。
お医者さんにね、もう、そろそろですって言われたから、家を片付けてたんだ。
そしたら、見つけたの。この本を。『白雪姫』を。昔、ガンだったおばあちゃんが病院でよく読んでくれた本なんだ。
遺伝の可能性も、伝えられてたから覚悟はしてた。
死ぬ、覚悟をしたのに。本に引きずり込まれてね、出逢ってしまったんだよ。
私のことが大好きな継母に女なのに王子様をやってる人、苦労人の狩人さんにツンデレの七人の小人。
口が悪くて、いっつもお話通りに進めてくれないくせに、いなくなった私を探してくれる魔法の鏡。
出逢っちゃったんだから、もう離れたくないよ。嫌だよ。別れたくないっ!」
鏡はその話を静かにただ静かに、最後まで聞いていました。
「なら、逆らえばいいじゃねーか」
「……え?」
「余命宣告?確定じゃねえんだろ?俺の知ってるスノーは、余命宣告なんか吹き飛ばしてドヤ顔して笑うような馬鹿だ。別れたくない?別れなきゃいい。また、出逢えばいい。何度でも、何度だって見つけてやる。だから、その、なんだ。泣くな。」
言ってから恥ずかしくなった鏡は照れてそっぽを向いてしまいました。
そんな鏡をみて白雪姫は笑います。
何を私は弱気になっていたんだろう。周りの憐れむような瞳や慰めの言葉よりも、何よりも勇気になる言葉。
『王子様』は『白雪姫』にキスをしました。キスは魔法を解く合図。
死に際の少女が見た夢は終わりました。
全ての役者達が目覚め、現に帰る時間がやってきました。
白雪姫は泣き笑いみたいな表情で言います。
「ヒント」
「は?」
「ヒントを教えて。鏡だけに探させるなんてフェアじゃないでしょ。私も、アンタのことを探すから。」
そんな言葉に鏡もまた、泣き笑いみたいな表情で言い返すのです。
「白雪姫。パスワードのヒントは世界で一番美しいのはだあれ?」
世界が、崩れていきます。
「ちょっと!分かりにくすぎるわよ!」
「大丈夫。スノーなら、わかるから」
そう言って微笑んだ鏡の笑みは幸せそうでいて、これからに思いを馳せていました。
「……ばか。ぜったい死んでなんかやるものか。見つけて、文句言ってやる。パンツ弁償しろって!」
そう言って白雪姫は笑いました。どんな青空よりも澄み渡る美しい笑顔でした。
もう、絵本の中で時を止める必要はありませんね。
どうか幸せに、可愛い可愛い私の白雪姫。可愛い可愛い、私の、孫娘。
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「……くひ!……白姫!」
「あっ、ごめん。ぼーっとしてた」
「もー、ちゃんと聞いてよね!」
「はいはい。何の話だって」
「だから、アクターズの鏡様のライブが発表されたの!題名は『白雪姫』でサブタイトルは『パスワードは──?』」
その言葉を聞いて飛び上がる。は、はくひ?と戸惑い気なナツメの声が聞こえたが、私の頭はそれどころじゃなかった。
「ナツメ!お願い、そのライブ私も行かせて!お金は払うから!」
「も、勿論いいけど……」
アクターズとは5人の男性アイドルグループ。イケメンイケボ揃いで一世を風靡する大人気アイドル。
あの、不可思議な体験から一年。
『奇跡的』に回復した私は、誰にも何も言うことなくただのインフルエンザだったと言って復学していた。
鏡、いや、鏡サマだっけ。ようやく、見つけた。
アイドルに興味の無い私の反応にナツメは戸惑っていた。
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「キャー!」
ライブが終わった。問題はどうやって鏡に接近するか。
あんにゃろ、有名になりすぎだぞバカめ。分かったのに話せないじゃないか。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは──」
幕引きの言葉だろうか。懐かしく感じる質問だ。
私は無意識のうちに、こう答えてた。
「マリリン・モ〇ロー、だったっけ。」
「ちょっと、はくひ!鏡様がこっち見てるよ!」
その声でハッとする。めっちゃ見とるー……。
「……見つけた」
舞台から降りて、こちらへ。どうしよう、すごく逃げてしまいたい。主にファンの目が痛い。
目を逸らして口笛を含まねをしてたら、いきなり浮遊感に襲われた。
「わ、わっ!て、ちょっとおおお!?」
お察しの通り、鏡にお姫様抱っこされていた。
「スカート、スカートだから今日!」
「大丈夫、見えないように抱いてるから」
「ちげーんだよ気が付けや!!」
イメージを守るために小声でやりあうが、私の顔は真っ赤だろう。
「その子?わっ、可愛いー!」
「たしかに。鏡がぞっこんなのもうなずけるな」
そのまま舞台裏まで戻った鏡と、そさくさと退場してきて私をのぞき込むメンバー達。
「にしてもお前スカートなんて履くんだな」
「失敬な。これが初めてだバカめ。」
「はっ、女子力死んでんな」
「悪いか女装野郎」
「男装王子に言われたくねーよ」
「おぉ……!鏡かが素で女子と会話してる」
「女の子も外見から予想のできない口の悪さ!」
懐かしいこのやり取りがやけに楽しい。
「名前、は」
ちょっと掠れた声で。
そこには、教えてもらえなかったらどうしようと言う怯えが入ってる。
本当にバカだなぁ。嫌だったらわざわざ来ないっての。
「白姫。鷺ノ宮白姫。あなたの白雪姫ですよ、王子様。」
そう言ってキスをする。こんなの最後なんだからね。
「あぁ、そうだな。会いたかった、俺の姫。俺の、スノーホワイト。」
そうして、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
「ねぇ、まま!マリリンってだれ?」
「そうだね、有名な人だよ。」
「ねぇ、まま。ままにとっての王子様は?」
「ふふ、ぱぱに決まってるでしょ?ね、旦那様、魔法の鏡、さん。」
「……うっせー」
いつまでも、いつまでも、幸せに暮らしましたとさ。
一日で書きました。暇潰しです(๑>•̀๑)テヘペロ