7話 父と娘
新たな友人を手に入れ、浮かれ、じゃなくて感動を噛み締めつつセリーナに国王ギルベルトの自室へ案内される。
しかし扉は開かれない。
「セリーナ?」
「……」
心配事が増えてしまったようだ。
着いてからのセリーナは急に顔が真っ青になって扉の前でブツブツと不安を垂れ流していた。
「お父様絶対怒ってる。今回は何時間かかるかしら? ああ神よ、私に救いを…」
結構重症のようだ。
こ、こういう時こそ『友だち』が励ますべきだよな!
そうだよ、友だちだもの。
友だちは支え合うものだろ?
僕はセリーナの前に立ち、呼びかける。
「セリーナ」
呼びかけられたセリーナがゆっくり僕の顔を見る。
もう既に泣きそうになってるのが分かる。
「セリーナ、僕が一緒に居るし頑張って!」
どうだ? こんな感じで良いのか?
頑張って、て言うのは良くなかったかな?
余計なことを言うべきじゃなかったかな?
ヤバイ、不安が移ってきた。
しかしそれは思い過ごしだったみたいだ。
「ありがとう。なんか頑張れそうな気がして来た!」
良かった、効果はあったみたいだ。
青かった顔が逆に少々赤くなる。
そして何故か一瞬目を逸らされた。
人前でああいうところを見られるのって恥ずかしいよね!
たぶんそういうこと、だよね?
元気が出たセリーナは扉にノックをする。
「お父様、セリーナです」
少し声が震えていた。
……
「入りなさい」
扉越しに分かるくらい怒っておられるようだ。
静かに扉を開けセリーナが入る。
僕も続いて入る。
「カルタです、失礼します」
予期せぬ来客にギルベルトはセリーナを見る。
セリーナはヒッと顔が引きつらせて僕の袖を掴む。
ゴメン、今のはちょっとキュンと来たよ。
袖を掴むとか、可愛いな。
などと今の緊張感に欠けることを考えてしまった。
でもまぁ男としては、ねぇ〜
何とかしてあげたくなるよね!
「僕の為にお時間を割いていただいたので早めにお伝えしようと思った矢先にセリーナ姫に偶然お会いしまして案内してくださると言うのでご好意に甘えた次第です」
ずっと見られているセリーナが必死に明後日の方向に目線を向けて平然を装っている。
ギルベルトは一度目を閉じ何か考えたあと、僕を見て言った。
「そうか、分かった。では今回は特別に説教は止めておくとしよう。客人が居る前でまた叱るのも見苦しいからな」
「良かったですね、セリーナ姫」
「うん、ありがとう、カルタ」
「さて、それでは本題に入ろう。ついでにセリーナ、カルタくんに聞きたいことがあれば聞くといい」
良いかな、と確認を取るギルベルト。
「喜んで質問にお答えします」
「さあ改めて問おう。カルタ・サギリくん、君の欲するもの、願いは何だ」
「僕が欲しいのは」
「この世界の知識と旅に出る為に必要な技術を学ばせて下さい」
「本当に、それでいいのか? こんなことを私から言うのもおかしいが、セリーナが欲しいと言われるのかと思ったのだが、いや、そうでなくともこう、な? セリーナ」
そんなに驚くようなことかな?
セリーナも話を振られて戸惑う。
「まぁでもカルタらしいと思います」
セリーナがまだ短い付き合いのになんでこんなに自信満々にそんなことが言えるのだろう。
「セリーナよ、いつの間にそこまで仲良くなったのだ?良い事だがな」
僕はもう国王ギルベルトをただのお父さんにしか見えない。
セリーナも普通の年頃の女の子にしか見えない。
「失礼だと思いますが、王族っていう感じがあまりしませんね」
本当に失礼な奴だな自分。
他国なら首が飛んでただろうなぁ。
僕の言葉に2人は笑い出す。
「はっはっは、よく言われるよ。国民からはそれが親しみやすいと言われるが、他国からはもっと威厳を持った振舞いをしろと良い顔はされないよ」
セリーナも自覚しているらしい。
「私も町の子ども達の友達は多いよ。けど同年代の王子や姫には馴れ馴れしいって嫌がられるわ」
セリーナは国王と違って接しにづらいけどね。
何て本人には言えないけど、積極性が強過ぎるから慣れてない王家の人からするとなぁ。
「君の望みは確かに承った。旅立つまで書庫などの施設の使用を許可しよう。騎士団に稽古をつけてもらえるようにも伝えておこう。他に必要なことがあればある程度は許可するよ」
国王からの全面サポートだぁ。
こんなこと普通味わえないぜ?
上手く行ってることが不安だなぁ。
死なないよね、僕。
何気なくセリーナを見たら何か言いたげだった。
すごく分かりやすい。
前は国王しか見てなかったし、あんなことになるとは思わなかったけど、今は友達という立場でもあるから気が付けたんだ。
「どうしたの? セリーナ、姫」
危なかった。気が緩み過ぎて呼び捨てしそうになった。
「お父様、カルタ、お願いがあるのだけども」
真剣な話のようだ。
「話してみなさい」
「私ももう15歳を迎えました。あとは旅立ちの試練に挑むだけです。私の旅の仲間にカルタを最初に選びたいのです。出来れば試練にもカルタを連れて行きたいです!」
僕を、セリーナの仲間に?
なぜ、どうして?
「どうして僕なの?正直僕は役には立たないよ」
何もかも初心者だからね
「セリーナよ、カルタくんを連れて行くならこの世界に不慣れな彼の分も何とかしなければならないぞ」
ギルベルトの言う通り、要はお荷物だ。
僕も仲間は今後必要になるとは思っていたけど、誘われるとは思っていなかった。
「カルタは旅に出たいのでしょう? 私も旅に出るから一緒に行けば良いじゃない? それに1人じゃ危ないし、2人の方が楽しい旅になるよ」
何この人、天使ですか?
笑顔が眩しい!
自分には勿体無いほど良い友達だなぁ。
「まだお前は冒険者ではないがそこは問題ではない。お前が本当にそれで良いのなら止めはしない。あとはカルタくんに許可が得られたら試練の同行も認めよう」
国王ギルベルトはセリーナに自分の判断に任せた。
僕はどうしたら良いだろう? 確かにセリーナの誘いはとても魅力的だ。でも本当にこのお誘いに応じても良いのだろうか? 友達だからこそ足手まといにはなりたくない。
「少し、時間を下さい。セリーナ姫の誘いは嬉しいけど足手まといにはなりたくありません。自分がどれだけできるのか知る必要があると思うのです」
軽々しく返事はできない。
最悪断るかもしれないな。
セリーナの旅を台無しには出来ない。
それに僕の旅はある意味、旅行のようなものだ。爺さんからよく聞いたあのおとぎ話を見に行くことが僕の目的だ。
でもセリーナは?
人生に関わる大事な旅になるはず。
落ち込むセリーナは残念そうに言う。
「そっか、そうだね。カルタはカルタの為にここへ来たんだもんね」
うう、心が痛む。
しかしセリーナは諦めきれないようだ。
「それじゃあ、私と勝負しましょう。剣でも何でもいいわ」
「それはさすがに無理!戦い方を習った経験の差が出すぎる。付け焼き刃の力じゃ意味が無いと思う」
勝てるわけ無いじゃん! 悪魔か! この人容赦ねーな。
呆れた顔をした国王は提案を出してくれた。
「旅に出る為の技術は戦闘能力のみにあらず! 勝負で戦うのではなく、自ら体験しなさい」
「「…え?」」
と言うのとは、どういう事?
う〜ん
どうしても深く掘り下げられないな
次回、王国で生活するの巻、であります!
あと数話で二人目のヒロインが出ます。
(たぶん予定だと10話辺りで登場するかも)