6話 望むもの
国王ギルベルトとの朝食を終え、客室に案内された。
まずは自分の荷物を確認した。
別に疑っているわけではないが自分でも確かめたかったのだ。
それからベッドに横になった。
食事兼対談のときは始めこそ緊張したものの途中から緊張はなくなった。
さすがは国王。
それに、この国特有なのか国王を含め、ここまでで会った人たちはみんな親しみやすい。
もっと早く会いたかったな、と思ってしまう。
はぁ、疲れた。
初めてあんなに…思い出しただけで恥ずかしい。
それにしてもあの子はちょっと合わないかもしれないな。
僕はさっきの朝食兼対談会を思い出していた。
食事中、ギルベルトの計らいで王妃様と姫様は顔合わせ程度で終わらせるつもりだったらしい。
これには理由があって、僕が緊張していたこともあるが、姫様はとても好奇心が強く喋り出すと止まらない性格であったため、止めていたそうなのだ。
結果的に我慢が爆発し、僕は質問の濁流に呑まれた。
こんな感じにね。
「僕の今欲しいものは…」
ドン!
ビックリした僕は、いやその場にいたみんながひとりに注目している。
原因の人物は僕からすれば以外な人だった。
「セリーナ!」
ギルベルトが自分の娘を呼ぶ。
姫様は僕を凝視している。
唖然としていた僕はふと我に返りその目線に恥かしくなって目を逸らした。
「んーんもう我慢出来ない!」
あ、あの目の輝きは、まさか……
見覚えがあるこの感じ、嫌な予感がする。
ヤバい寒気がしてきた。
「ねぇねぇ、どんなところから来たの?」
「どうやって来たの?」
「どんな人がいるの?」
「魔法が無いって本当?」
「どうやって生活しているの?」
「おじ様と友達って本当?」
「おじ様はどんな人だった?」
おおおっ!
こ、ここの人は夢中になると怖いな!
質問されても答えられないスピードで次の質問が出る。
「えっと、あの、その、それは、えっと、だから…」
ニンゲン、コワイ、オウチ、カエリタイ
ギルベルトは攻め続けるセリーナを止めるため立ち上がろうとしたが、視界に怒れる国王を見たセリーナが我に返って「は!」と両手で口を塞ぎ静かに座った。
「ご、こめん! お父様には、せめてあなたが自室に着いてから許可を取るよう言われていたのに、我慢できなくて……」
何とか正気に戻って良かった。
僕のメンタルが崩壊するところだった。
「落ち着かれたのならそれで良かったです、セリーナ姫。もしよろしければ、後で先ほどの質問にお答えします。」
何とか言葉を絞り出し、また別のところで質問攻めにならないよう提案する。
「ありがとう、気遣いが上手ね」
国王は相当ご立腹のようだ。
「重ね重ね申し訳ない。娘が客人に失礼なことを。分かっているな、セリーナ! 後で私の自室に来なさい」
大丈夫ですよ、と返した。
でもこうして今の国王とセリーナ姫の会話を聞いていると普通の親子にしかみえない。
「……」
羨ましくなんかないからね?
目にまつ毛が刺さっただけなんだからね!
叱る国王と叱られる姫は静かに涙を流す誰かに気付く。
「か、カルタくん⁉︎ どうしたんだ?」
「大丈夫? ごめんなさい、ごめんなさい!」
すごく心配されてるし、すごく謝られてる。
こんなに心配されたりするのって初めてで、なんかこう、胸の奥からこみ上げてくるんだよ!
泣くななんて言われても止まらないよ、コンチクショウ!
「だ、大丈夫でずぅ。ぎに、じないで、ぐだざぃ」
落ち着きたいけどなかなか治らない。
今まで一言も話さなかった王妃がここで初めて喋った。
「カルタさん、お疲れでしょう?一度お部屋でひと息つかれてはいかがですか?」
カオスな雰囲気だった空間がその柔らかな一言で騒がしかった3人がピタッと静かになる。
不思議と涙や気持ちが治まってきた。
「すまんな、もう落ち着いたよ」
「お母様、ありがとうございます」
2人とも随分落ち着いたみたいだ。
「ありがとうございます、王妃様。不思議と気持ちが落ち着きますね」
もしかしたらこの人はただほんわかしているだけではないのかもしれない。改めて考えると何を考えているか分からない感じが僕の心に小さな不安を感じさせる。
こうして僕は執事さんに案内してもらい、客室に着いたのだった。
人前で、しかも国王たちの前で号泣するとか、黒歴史が増えてしまった。
国王は「君も後で私の自室に来て欲しい。まだ君の願いを聞いてないからね」と言っていたので、そのうち呼ばれるだろうからそれまでゆっくりしようかな。
コンコン
以外とすぐに来たな。
こういう時はたしか――
「どうぞ」
返事で返し、ベッドに座りながら待つ。
「ちょっといいかな?」
あれ?
そこに現れたのは使用人ではなくセリーナ姫だった。
さっきのことがあって反射的に身構えてしまう。
「安心して、また質問攻めにはしないから。その、君にお願いがあって来たの」
そ、そうか、良かったぁ
はてさて、お願いとはなにかな。
「ぼ、僕で良ければ喜んで」
やはり警戒心が解けないが、悟られないよう笑顔で接する。
姫様に立ち話させるのも悪いので部屋に入ってもらった。
ベッドに腰掛けたセリーナ姫は僕に隣に座るよう促した。
僕はとりあえずベッドに腰掛けたが少し間を空けた。
「まず私のことはセリーナでいいわ! それが一つ目のお願い。もう一つは… 一緒にお父様の部屋について来て欲しいの!お父様は怒ると怖いから」
そう言われても、なぁ。いきなり呼び捨てとか普通の人でもできないのに、姫様に向かってなれなれしく呼び捨てとかしたら命知らずにも程がある。
「僕も後で国王に呼ばれると思うので良いですけど、姫様を呼び捨てには恐れ多くてできないですよ」
しかし姫は諦めていないようだ。
「じゃあさ、じゃあさ、せめて私と話しているときだけ! それだったら良いでしょ?」
う〜ん、このまま否定しても引き下がらないよなぁ。
悩む僕に何を思ってかこんなことを言った。
「私は君と友達になりたいの!」
友 ! 達 !
友達か、そっか、それならいいかなぁ。
「分かりました。じゃあよろしく、セ、セリーナ」
「うんうん!よろしく、カルタ!」
こうして カルタ は あたらしい トモダチ が ふえた。
同年代の友達がやっとできたよ、爺さん!
主人公がヒロイン!
ただのヒロインではない!
チョロインですよ
始めはこんな感じじゃなかったのにどうしてチョロインになっちまったのか?
誰のせいだ!
私だった!
それでは次回、やっとカルタくんの望みが明らかに⁉︎