18話 恐怖の先に 中編
先週更新しなかったこと、誠に申し訳ない。
魔法陣が半分に割れ、土人形であるバトルウルフが少しずつ崩れていった。
「勝ったぞーーーー! ユーフリート、どうだ!」
彼に向ってVサインとドヤ顔を見せてやった。
「さすがだな。よくやったぞ、カルタ。しかしまぁ我が弟子にしては及第点、といったところだな」
クソ〜僕は全くの素人だったんだ。むしろもっと褒めるべきだろうに。
ユーフリートが僕の勝利を宣言しようとした時だった。
「さて、勝者は―――⁉」
うぐっ⁉
頭が、痛い。
この感覚は、さっきの……。
いつの間にか目の前で消えかけていた土人形のバトルウルフが、さっきと違う赤く禍々しい魔法陣によって再構築されようとしていた。
また、フィールドのみを淡い緑色の幕の様なものがドーム状に包んでいた。
ユーフリートはこの幕が何なのかを感じたらしく状況を教えてくれる。
「これは、結界だ! とてつもない力で守られている。これはおそらく我々の中で破れるものはいないだろう! クソッ」
「えっマジですか! ちょっと、何とかしてくれよ」
そんな戯言を言っていても打開策がない今、状況は変わらない。
目の前のバトルウルフだった『それ』は徐々に姿を現す。
焦げた様な黒い身体。
凶悪な三つ首。
メラメラと燃える炎の様な目。
そして何より、禍々しく醜いオーラみたいな力が溢れている。
「これって、もしかして……」
どこかで見た事がある姿。
実際に見たわけではないが、神話などで語られたり、ゲームなどでも出てくるアイツに似ている。
「気をつけろ! そいつは……」
ユーフリートもコイツを知っているようだ。
「「ケルベロスだ‼︎」」
冥界の番犬ケルベロス。
この世界に冥界があるのかはまだ分からないが、ケルベロスという名のモンスターとして存在しているという事実に変わりない。
とにかく、こういう時こそユーフリートに助言を仰ごう。
「僕はどうしたらいい? 何か案は無いのかよ?」
しかし、帰ってきた言葉は当てにできないみたいだ。
「くっ済まん! 今回ばかりは打つ手なしだ。とにかく死ぬな! 倒せとは言わんが出来そうなら奴を消耗させろ!」
そんな無茶な!
「この結界さえ何とか出来ればソイツを粉微塵にしてやれるんだが……」
これでは結界の外からの救援は期待出来そうにないな。
どうすればさっきとは別格のバケモノから生きて逃げられるだろうか?
まず闘って勝てる訳がない。
目の前のケルベロスは、さっきのバトルウルフより感情が豊かな様で、見るからに僕の事を馬鹿にした笑みを浮かべている。
クソッ頭痛ぇ。
この頭痛の感覚は、さっきの女性の声が聞こえた時と同じだ。
そんなことより今はどう生き残るかだ。
目の前のバケモノがいつ襲ってくるか分からない。
おそらくパワーもさっきとは桁外れの強さを持っていると思う。
炎を吐くことが出来るかもしれないし、巨体の割に素早いかもしれない。
敵については滅茶苦茶強いってこと以外分からないが、状況としてはどの道今は助けなど来ないって事と僕は奴に勝てないって事だけが分かっている。
ーーーーウフフフ、貴方には闘って勝つしか生きる術はないの。ほら、頑張ってごらん、坊や。
この声は!
「まさか、このバケモノを作ったのは、貴女ですか。声の主よ。」
やはり何もいないが自分の周りに語りかける。
ーーーーそうよ。坊やには強くなって【英雄】として活躍して欲しいもの。それが私の願いであり、楽しみなのよ。あの頃の『彼』の様に、ね。
あの頃? 彼?
誰のことを言っているんだ?
ーーーーさぁ見せてちょうだい、目の前の愛玩動物を狩って見せなさい。“期待”しているわ。
突然頭痛がなくなり体が軽くなる。
一体あの声の主は誰なのか。
いやそれよりも、一番驚いたのは、
「……アレが愛玩動物なんて、馬鹿げてる」
頭痛がなくなってからケルベロスは姿勢を低くし、まるで戦闘態勢に入ったと言わんばかりに三つの顔から鋭い視線を感じる。
僕は恐れ慄き、体を強張らせてガタガタと震えているーーーーと思っていた。
さっき闘った時はあんなにも恐ろしかったのに、それ以上の強敵を相手にしていながら逃げ出したいほど強いと思っていなかった。
「はは、何だよ。どうやって逃げようとか、勝てるわけないとか、今さっきまでそう思っていたのにな。確かに怖いし震えるし勝てないだろうけど、何故だかやる気で満ち溢れてやがる!」
きっと恐ろし過ぎて、現実から目を背けて、おかしくなったのかもしれない。
そう言えばユーフリートの訓練の2日目辺りからこんな感じだった様な気がする。
鏡はないがたぶん僕もあのミツ首の犬コロと同じように笑っていると思う。
「かかって来いやぁ! 汚ねぇ犬コロ野郎!」
あ、もう完全に心と身体の制御が出来てないわ〜。
頭の中はいたって冷静なんだけど、身体の方はイカレちまったらしい。
そうそう、ひとつ訂正だ。
訓練の時は記憶が曖昧だったけど、今回は意識がはっきりしているけど体が先に動いてるわ。
要するに……
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
ケルベロスの真正面に立ち、剣を右手に構えながら全速力で走り、左の手のひらを後ろに叫んだ。
「【ワインド】‼︎」
凄まじい速度で僕はケルベロスに突っ込んでいく。
だが手や体がブレるので、魔法陣を狙ったつもりだったのに左の首の方へ向って行った。
さすがのケルベロスでも予想打にしない攻撃だったのか首を後ろに引いた。
「狙った場所じゃないけど、その首貰った!」
タイミングを合わせ剣を振る。
上手いこと刃が入り、首は真っ二つに分かれた。
生々しい感触が剣を伝って感じる。
肉を、骨を、生物を切っている感触。
はっきり言って気持ち悪い。
バトルウルフを刺した時はサンドバッグのようだったが、このケルベロスは中身まで忠実に作られているようだ。
「クソッ悪趣味、つーかイカレてやがる……」
だが自分自身も狂っているので他人事ではないぞ、と頭ではそう思っているけど体の方にその言葉は届かないらしい。
首を切った後も勢いは抑え切れず、僕は壁に頭から激突し落下した。
「いてぇーー! だ、だがどうだ! 本物の生物なら致命傷なんだけど……」
リアルな造りのケルベロスには痛覚も再現されているみたいなので、後ろで悲鳴が聞こえる。
「GUuAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa⁉︎」
カミナリにも似た悲鳴だった。
体を強く打ったけどフラフラと立ち上がる。
興奮し切った僕はだんだんと痛みを失い、何故か強くなったのだと錯覚し始める。
頭の中の僕はただ見ていることしかできないし、体の方は調子に乗っている。
完全に勝利を確信していた。
さっきも勝てたんだ、余裕だ、と。
「案外簡単に倒せるかもーーー」
いつの間にか目のは前は、地面だった。
マジ スミマセン デシタ
オムレット です。
バイトの疲れなどから体調が優れなくて(言い訳)
さ、さて次回。
カルタは一体どうなったのか⁉︎
ケルベロスを倒せるのか⁉︎
乞うご期待!