14話 地獄の正体
あーたーらしーいーあーさが来た、なんちって。
久しぶりにラジオ体操してみようかな?
ま、そんなことよりも体が痛いです。案の定筋肉痛で体を起こせない。
これじゃあ特訓どころじゃなくてご飯さえ食えないじゃん。
コンコン
動けずうーうー言っていると扉がノックされる。
「もしもし、 起きてる?」
「セリーナ、かい? どうぞ」
体が痛くて起きれないので寝たまま出迎える。
「そのー大丈夫? には見えないねー」
「いままで、適度な、運動は、していたけど、いきなり、過剰、もとい、無茶しかない、運動すりゃあ、こうなるよ……」
腹筋を酷使して話せば文の区切りが多くなる。
僕の大丈夫でない姿にセリーナは苦笑いになる。
「本当に大変そうだね……。そんな貴方に!」
「ん? こんなワタクシメに?」
「自己治癒力を高める回復魔法が付与されたペンダントだよ! これがあれば痛みもマシになるから安心して」
ほほう、それは便利だな。
ただ、自慢げに話すのはいいけどそのペンダントはどこにあるのかな?
「お姫様? その、ペンダントは、どちらに?」
「それはもちろんポケットにーーあれ?」
セリーナはアタフタしながら探し始める。
「あ、あれ? ない。こっちに入れたっけ? いやこっちだっけ? ポケットに入れたはず……」
うん、だいたい察した。この子はこういう子だったね。
「大丈夫、かい? セリーナ」
「へ? いや、そ、そのー、あはは……ごめんなさい」
「構わないさ。あるには、あるんだよね?」
「うん。部屋に忘れちゃったみたい。すぐ取ってくるから待ってて!」
「ああ。急がなくて、いいから、よろしく、頼むよ」
待てと言われても動けないから待つしかないのよ、お姫様。
数分後、肩で息をするように戻ってきた。
「急がなくて、いいって、言った、のに」
「はぁはぁ、だって、辛そうだから、はぁはぁ、早く、良くなって欲しいもん」
100点! 可愛い! 許しちゃう!
いやいや、100点って何だよ。我ながらよく分からん。
まぁ可愛いは正義っていうからね。しょうがないね。
落ち着いたところで例のペンダントを掛けてもらった。
黄緑色で楕円型の宝石と控えめの装飾が施されたこのペンダントは、効果が発動したのか宝石が淡く光る。
そして体がじんわり暖かくなって、さっきより痛みが引いてきた。
これは凄いな! 回復魔法ってこんな感じなんだな。確かに回復してるって感じがする。
「体が温まってきて痛みも引いてきたよ。ありがとう」
「本当に! 良かった〜。そうそう、ペンダントだけじゃあ回復は遅いから私からも回復魔法掛けておくね」
「回復魔法使えるんだ。凄いね、それに羨ましい」
「え、そうかな? でも確かに回復魔法を使える人は多くないから重宝されるってお父様が言ってた」
セリーナは僕の胸の辺りに両手をかざすとペンダントのように黄緑色に淡く光った。淡くと言ってもペンダントよりも美しく強く光る。
効果も心身ともに穏やかに包まれるように温かみを感じる。やはり道具よりも実際に人から掛けられる方が効果は強いようだ。しかし、人なら熟練度や技術、道具なら素材や出来栄えなどが影響すると魔法に関する本に書かれていた。
セリーナのおかげでなんとか体を動かせるようになった。体が動かせるって素晴らしい!
「本当にありがとう。着替えるから外で待っていてくれるか?」
「うん、分かったわ」
てとてとと部屋の外へ出ていく姿は可愛らしい。年相応の仕草が僕を和ませてくれる。親ってこんな感じに思ってるのかな?
僕は着替えながら今までのことを考えていた。
こっちの世界に来てから多くの人に助けられていて、特にセリーナには沢山助けられている。今もそうだし、昨日までだって色々と助けてくれた。この恩に報いるためにも戦えるだけの力をつけて彼女を守らなければ。
もちろん、この世界に来た目的も果たすけどね。
着替えを終え朝食を済ませた後、書物塔へ向かった。ついでにセリーナもついて来た。
「ついて来て大丈夫なのか?」
「うん、午前中は大丈夫。はぁ、退屈なお勉強はこりごりだよ〜」
「気持ちは分かる」
「でしょう? 早く旅に出たいよー」
「でも歴史とか好きだし、異世界ならなおさら面白いからね。好きな事なら勉強も苦じゃないぜ」
「そういうものかな? よく分からないなぁ〜」
「そのうち分かるさ、っと着いたよ」
およそ2メートル程の木製扉を開いた先には、本独特の香りが漂ってくる、長細い書物の塔になっている。
改めて見上げれば、側壁にビッシリ本が並んでいる。1階中央では、相変わらず読書に耽るシュゾルフの姿がある。
周りを見れば書物が無造作に置かれた区画が見える。僕が使わせてもらっている本たちだ。
「さて、やりますか。それが一通り終わりさえすれば剣の方に集中できるし頑張ろう!」
「応援してるよ。あ、お茶淹れて上げましょう」
「美味しいのをお願いします、とか言っちゃったりして」
「いいよ、いいよ。それくらいできるし、暇だし」
そうですか、それならここはお言葉に甘えるとしましょうか。
こうして午前中丸々使い、美味しいお茶を飲みながら勉強という名の情報収集に一区切りをつけた僕は、午後から地獄の特訓をさせられる羽目になるのであった。
「筋肉痛で休みたい? バカ言え、動けるならやるに決まってんだろうが。安心しろ、動けなくなったらうちの腕の良い治療班で懇切丁寧に全回復させてやる」
この人鬼どころじゃなかった! 本物の悪魔だよ!
「体も心も持たないよ。壊れるわ!」
「ふん、この程度で根を上げるとはお前もその程度だということさ」
訓練のメニューも鬼畜だが教官は鬼畜どころじゃなかった。これなら勉強している方がマシだよ。
この事を知っているかわからないがセリーナが今ここにいなくて良かったと思った。
「言っとくがお前には時間がないんだ。なんならこの方法のさらに上の方法でも良かったんだぜ」
やめてくれーー死んじまうよーー。
良くこんなの耐えられるよな、騎士団の人は……。
「し、死ぬー。家に帰りたいー」
「ああ…あ…ああ……っは! そうだ、訓練中だった」
……全然耐えられてない!
僕がユーフリートに抗議をしていたらヨハンさんが来た。
「カルタ君、君の今やっている訓練は私が受けたものより随分優しいよ」
「これで、ですか?」
「そうさ、さっき彼も言っていただろう? これより上の段階があると。簡単に説明するとね、通称ゾンビ法と呼ばれた世界大戦時に主流だった訓練法なんだ」
聞くからに怪しい訓練法だな。
「今の君のみたいな兵士に身体回復はもちろんのこと、精神に高揚・興奮といった気持ちの昂りを意図的に高めて、まさにゾンビのように訓練を続ける方法さ」
「……」
「そうだね、確かに引くよ、当たり前さ。君は正しい、正しいけどあの時は戦争中だったから、誰でも即戦力に出来るためこの方法が支持されてしまった、というのが経緯なんだよ。酷い方法さ」
「ヨハンさんはそれを受けられたんですか?」
「うん、あれは二度とやりたくないね。でも、実際に強力な兵が生産されるし、この方法のせいで統率力も高い」
「さすがにそれはやりたくないです」
「ああでも安心して。ここでは違法なのでやらないよ。まぁ今の訓練は違法スレスレなんだけど、でも別に強制はしてない。あくまで自主参加で団長には特別な権限があるからこの訓練が出来るんだよ」
僕は強制参加なんですがそれはどう説明してくれるんです?
でもさっき言われたように僕には時間がない。セリーナについて行こうと決めたは良いが戦力にならないと話にならない。もちろん、戦うことが目的でなく、主に自衛のためだ。今は一刻も早く身を守れるだけの力をつけないと!
改めて覚悟を決めた僕は、ユーフリートに向かい合った。
「確かにユーフリートの言う通りだった。続けよう、早く力をつけないと」
「いやぁ待て待て! 時間がないとは言ったが焦りもするな。こんな強引な方法で力をつけても、結局は付け焼刃に過ぎない」
「でも!」
「慌てるなって、お前は強くなる。確実にだ! 俺が保証する。俺に任せろって」
これまた強引で確証のない保証だけど、なぜか彼の言う通りになる気がしてくる。
「分かった。頼んだぜ、団長!」
「神竜に乗ったつもりで任せとけ!」
と言っても要は超絶スパルタ訓練法で、死ぬ思いをするとことに違いはない。でもさっきと違うのは、やる気が満ち溢れているからだろう。僕はそれから訓練最終日まで弱音を吐かなかった。
最近セリーナがアホの子みたいになってきたような気がする。気のせいだよね?
今回のメインは地獄の訓練についてでしたけど、「世界大戦」というのは若かりし国王の話辺りの事でおよそ数十年ほど続きました。ユーフリートとヨハンは訓練を受けていた当時は10代でしたが、その時は子供も戦争に参加させられていました。詳しくは述べませんがまぁ二人も大変な人生なのです。
当時のウィルドン王国は色々あって戦争には途中から参加していません。
豆知識:神竜に乗ったつもりで
大船が神竜になっただけですが、神竜はかなり上位の存在で捉え方次第では人生を捧げてでも、となります。
さぁて次回は試験!