13.5話 騎士団 おまけ
お負け
石と材木で作られた建屋。
20人程が余裕で入ることの出来る湯船。
およそ40度弱で芯まで暖かくなるお湯。
--ああ、疲れた体に滲みる〜。お湯に浸かってじっとしてたら眠たくなるよね〜。
僕は今、騎士団用の大浴場で地獄の特訓の疲れを癒していた。特訓を終えた後騎士団の皆さんが誘ってくれたのでその厚意に応じることにした。
今日は昨日や一昨日以上に体を動かし疲弊したのでいつにも増して癒される。
はぁ、絶対明日には体のあちこち筋肉痛で悶え苦しむことになるに違いない。
アレは地獄だった……いやいや、これを乗り越えてこそ強くなれるはずさ!
全ては身を守るためだし、踏ん張らねば!
騎士団の方々は、普段鎧で隠れて分からないがこの場でよく見ると凄くムキムキだ。
「それにしても、さすが毎日鍛えているだけあって皆さん筋肉凄いですね」
「当然さ、訓練なんて余裕さ。でもこの国を守るためだから楽はしないよ」
「そうそう、団長達だけが強いと思われたくないからな」
「いっそ団長より強くなっちまうか、なんてな。アッハッハ」
セリフだけ見ればイケメンだが、実際イケメンが多い。しかも20代だけでなく30代・40代のイケメンさだけでなく渋さがあってカッコいい。
でもそんなセリフ言ってて大丈夫なのだろうか?
案の定彼らの後ろから悪魔の笑みを浮かべたユーフリートが現れる。
「ふむふむ、俺より強くなるとかと言い張るなんて、いい度胸してるじゃないか。そんなに普段の訓練は楽なら遠慮なく増やしてやろう」
「「「な、なんだってーー⁉︎」」」
お、団結力もバッチリのようだ。
団長ユーフリートの言葉の後、先ほどと打って変わって彼らの一挙一動が情けないなる。
大の大人の男が泣きながら訓練メニューの維持を懇願したり、余計な発言をした者を批判したり、神に祈りだしたり、面白い--じゃなくてご愁傷様です。
「団長〜これ以上増やされたら死んじまいます。お願いですから現状維持で思いとどまって下さい〜」
「テメーあんなこと言いっちまいやがって。オレ死にたくないよぅ」
「神よ、我をお救い下さい」
あ〜あ、さっきのカッコいいセリフが文字通り台無しだな。
ユーフリートはまだ悪魔のような笑みを浮かべている。
ヨハンさんは相変わらず笑みを絶やさず、なぜか隅っこで座っている。この場面だけ見たらただのボッチにしか見えない。
あ、顔だけこっち見た。怖ぇーーー。
うわ! こっち来た。早ぇーーー。
「カルタ君、今失礼な事考えませんでした? 1人で可哀想だとか思いましたよね。慕われてないわけじゃないですから」
知りたくない一面を見てしまった。
そこから僕は部屋に戻るまでヨハンさんが隣にいて何かと語りかけてくる。
悪いとは言わないし、ボッチの気持ちは分かるけど、なんか隣に居られるのか嫌だ。
そんな時だった。
「それでねーカルタが……」
この声は、セリーナ?
聞こえてきた声のする方へ顔を向けると湯船のある壁の向こうからだった。
確かに隣は女性風呂だ。壁の上が少し空いていてそこから聞こえているようだ。
彼女らの声に気がついた男性陣全員の目つきが鋭くなる。
男風呂はまるで誰もいないかのように静まり返る。
え、何これ。ここでお約束?
修学旅行でよくある風呂に入ったら考えつくNO・ZO・KIってヤツですか。
とか思っていたらみんな静かに壁の方へ行き、耳をそば立てる。
「「「「………」」」」
「あ、あの何をーー⁉︎」
(静かにしろ、聞こえねーだろ)
(まさか覗きをするつもりですか!)
(は? 何言ってんだ、俺たちは……んまぁいい、とりあえず静かに聴いとけ。それとお前意外とスケベだな)
違うんです。漫画文化のせいなんです。
(ち、違います!」
(おい! 聞こえるだろ)
(あ、すみません?)
何やってんだろう。まぁ覗きじゃないし良い、のかな?
ちなみにヨハンさんはこの時だけ知らぬふりでボッチを貫いていた。よく分からないけど止めて下さいよ!
ヨハンさん以外の男性陣が女性風呂側の壁に耳をそば立てる、謎の現象に困惑しながら僕は雰囲気に流され、同じように耳を傾ける。
「……それからねカルタったら、そよかぜ亭の定食を食べた時に変な美味しさの表現をしたの。『爽やかななんちゃらかんちゃら』って。あの時はさすがの私も驚いちゃった」
「へぇそうなんですか。フフフッ」
「ちょっと、なんで笑うのよ?」
「なんでってさっきから姫様はカルタ様のお話ばかりなさるのですもの。よほど気に入っておられるのですね」
「ち、違うもん! カルタが変だから勝手に思い出しちゃうの! 好きとか…そんなんじゃないもん」
「好きなんですか?」
「ちーちっ違う、違う、違う。今のは言葉の綾で。で、でも嫌いとかでもくて…」
「うふふ、姫様がカルタ様を大層気に入っておられることは、十〜分わかりましたわ」
「っもう! からかってるでしょ!」
「「「「…………」」」」
えっと、何これ?
聴いてはいけない会話だったのではないでしょうか。
そしてこの空気……。
((((じーー……))))
何で皆さん僕を睨むのですかね〜。あ、はい、分かってますよ。
「やあやあカルタ少年。ちょっとオトナのオニーサン達とオハナシしようか」
「そうそう、我々からちょっっっと大事なオハナシがあるだけさ」
「えーと、またの機会にしませんか?」
「いやいや、僕らは"今"オハナシしたいんだ。僕らは仲間だろう? 分かってくれるよな」
「君と私たちはもう"仲間"だもんな。付き合ってくれるよな?」
「君と我らの仲ではないか。な?」
「……は、はい。喜んで」
僕は20〜30分間程お馴染みの質問攻めに食らっていた。
着替えが終わり脱衣所から出たところで丁度セリーナや女性騎士の方達も出てきた。
「あぁいいお湯だったわ〜ってカルタ大丈夫? 凄くゲッソリしてない?」
「キンニク、コワイ……あ、ああ、いや大丈夫、大丈夫」
「本当に? のぼせたんじゃないの」
ある意味のぼせたと言える。筋肉であんなに蒸されるとは思わなかった。
ひっ! 突き刺さるいくつかの視線と悪寒を感じるぞ!
それにしてもセリーナは風呂上がりで濡れた金の髪が光の加減でより一層美しく見えますなぁ。
きっと浴衣とか着物も似合うだろうな。
おかげで元気が出てきたぜ!
「どうかした? なんか付いてる?」
「あ〜何でもない。そういえば騎士団って女性も多いですよね」
おっとあぶない、あぶない。とりあえず話題を振って誤魔化そう。
でも自分が思ってた以上に女性が所属していて驚いた。
「誤魔化されたような気がしたけど、まあいっか」
うっ気付かれてるじゃん。
「うちの騎士団は女性騎士が多いよ、よく気がついたね。他国に比べたら、どこぞの女性主義国家じゃない限りこんなに女性が入団出来る国は少ないんだって」
「へぇ〜」
「ちなみに女性が働ける職業の中で人気なのが騎士と冒険者なの。うちの国の場合は、だけどね。騎士になれば待遇は良いし給料も良いんだって。冒険者は自由な所が良いってさ」
「女性も大変なんだね」
騎士が人気って、ここの女性は勇ましい方が多いようですな。さすがに男性より多くはないけど、騎士団内の3分の1は女性を占めているそうな。
やはり男女格差も大きいようだ。種族差別や奴隷制度などこの世界の暗い部分が時々垣間見えるな。
こっちの世界もこっちで大変だなぁ。
プニーッ
急に頬が痛くなり気づくと目の前でセリーナが僕の頬をつねっていた。
「ひたいでふ。ひゃめへくへまへんか?」
「だって、ククッ、難しい顔、ククッ、してるから、クハハハ」
頬から手が離れた。
「なんで笑ってるのさ?」
「だってつねってたのに喋るから、それがおかしくて、プハハハ」
そんなに面白かったのかな?
「さ、部屋に戻ろっか! つっかれたーーー」
「そうだね、お腹も空いてきたしもう少ししたら夕食だよ」
こうして、風呂でも大変だったが今日も楽しい1日だった。
初のおまけ回
風呂と筋肉とその他なんやかんやでした。
次回は、ちょっとダイジェスト?