11話 新生活2日目
朝食の席でギルベルトに気に入られている事を知ったり、セリーナから突然の告白を受けたりと、色々あったがセラ王妃はやはり笑顔で一連のやりとりを見ているのみだった。
表情が変わらないところがこの人の怖いところである。
一体何を考えているのか分からないな。
しかし何を感じ取ったのかセラは僕に対し今日初めて言葉を発した。
「私の事が気になりますか? カルタさん」
「⁉︎ ……え、ええまあ。不思議な雰囲気の方だと思います」
おかしいな、少ししか目線は向けなかった。それも何気なくだ。
この人本当に分からない!怖い!
「フフフ、別に取って食べようだなんて思っていませんよ」
この会話を聞いたギルベルトとセリーナは爆笑中だった。
ヒドくないですか?
「アッハッハ、安心したまえカルタ君。セラは珍しく他人に興味を持っただけだ」
「そうよ、お母様に気に入られる人はなかなかいないわ。良かったわね!」
これはどういうリアクションをとれば良いのか分からないな。喜べばいいのか?
まだ2日じゃこの世界に慣れないということか。
そんなこんなで食事を終え自室に戻った。
「早くも疲れた〜。早々にこの環境に順応したいよ」
昨日1日が長く感じたのは新しい刺激がたくさんあったからなのだろう。今後慣れるまではある意味退屈しないな。
退屈と言っても飽きるわけじゃなくて、小学生の時は1年が長く感じた様に自分の知らない世界、刺激ある世界は長く感じるらしいと本で読んだことがある。
さあ書物塔に行きますか。
ちなみに書物塔というのはこの城で数多の本が蔵書されている塔の事だとさっきセリーナに教えてもらった。
勉強は嫌いだが、人間必要になると勉強も苦にならないみたいだ。要はゲームの攻略本を見るような感覚と同じかな。
んじゃ、とりあえずレッツゴー!
「……」
さて、どうしようか。
「……」
マジでどうしよう。迷った。ついつい冒険心が疼いてしまった結果、見事なまでに迷子となっちった。
仕方ない、近くの使用人に聞くしかないな。このまま探検、じゃなくて書庫探しをしてもいいのだが時間を無駄にするわけにもいかない。
「うん? あの道は…」
僕はふと見覚えのある通路を見つけた。
ここは地下牢があった道だったはずだ。ならばイグナーツさんがいるかも知れない。牢屋を出てからまだ会いに行ってなかったし、ちょっと寄って行こう。
地下牢への下り階段前には警備の兵士が2人いたのでイグナーツさんがいるかどうか聞いてみた。
「イグナーツですか? いますよ。ご案内しましょうか?」
「いいえ、自分で行きます。ありがとうございました」
場所を教えてもらい、階段を下りていく。
改めて地下牢を見てみると自分がどういった場所にいたのかが分かる。空間の冷たさやカビ臭さが孤独感を生んでいる。
洒落にならん冗談をやってくれていたな、国王様!
イグナーツさんがいなきゃ鬱になってたわ。たぶん普通の人ならこれは耐えられんな。
上級者向けの冗談は危険だと言うことがよーく分かった。というかほんとは爺さんのこと嫌いなんじゃないかと思う。友だちってまだあんまり分からないな。
そんなことを考えながらウロウロしていると前方にイグナーツさんを見つけた。相変わらず椅子に座って暇そうにしている。
「イグナーツさーん。顔出しに来ましたよ」
「おう "お客様" じゃねーですか! てーのは冗談だ。どうだボウズ、順調か?」
ここも相変わらずだ。まるで親戚の叔父さんの様 ―僕には親戚がいないので分からないし、いたとしても会ったことがないのでただのイメージだが― な人だ。
「はい、おかげさまで怖いほど順調ですよ」
僕はイグナーツさんにここを出てから今までの話をした。
「人気者だなおめーさん。この国は本当に優しい。優しいが故に危うさもある。ボウズも優しい人間だが気を付けろよ」
イグナーツさんが言いたいのは以前国が滅びかけた出来事の様にならないために警告していのだろう。意外と重い返しが来たな。
「分かってるつもりです。優しいだけでは生きていけない」
それは身に染みて知っている。優しいだけでは相手にもされない。しかし日常的に無駄な気遣いするのが日本人の特性だ。
「忘れるなよボウズ」
「はい」
大事な話を頂いたが、場所も場所なだけに暗くなったので、僕は以前の約束を話題に出した。
「そういえばちゃんと覚えていますか、あの約束」
「あったりメーよ!アレだろアレ。ちゃんと覚えているさ、アレだろー」
そのドヤ顔、ムカつくわ!
「はいはい、そういうボケいらないので」
「ケッ連れねーなボウズ。わあったよ、村を紹介すれば良いんだろ。忘れねーよ」
「今度お暇なときに連れて行ってくださいね」
「ああ分かった、必ず満足させてやるよ!」
僕は話したいことはだいたい話せたので、そろそろ戻ると言いイグナーツさんと別れ地下牢を後にした。
廊下を適当に歩いて近くにいたメイドさんに書物塔へ案内を頼んだら快く受けてくれた。
「ありがとうございます。助かりました」
「困った事があれば何なりとお申し付けください。それではごゆっくり」
お城の使用人の服装には国のシンボルカラーなのかワンポイントに緑のラインが入っている。結構僕好みの制服なのでより一層美しく見える。
使用人ってなんか良いよね。業務は一日中大忙しで大変なんだろうけど憧れるなぁ。
寄り道、迷子、遠回りをしつつやっと目的の書物塔に着いた。
場所が城の端にある塔だけあって、広さと高さが凄く本はとても沢山貯蔵されている。塔の中心にはメガネを掛けた一人の男性が読書をしている。円いテーブルに本が山積みになっているようだ。
話しかけづらいし適当に見繕って読むとするか。
どこにどの本があるか分からないのでとりあえず歩き回ってみるしかない。
「少年、ここは初めてか?」
「あ、はい! カルタです。故あって世界の文化や歴史を調べる為に伺った次第です」
「そうか… 私はここで蔵書の管理をしているシュゾルフだ。要するに暇人さ。所望の本を出してあげよう」
意外と優しそうな人だったし声が渋くて良い声をしている。
シュゾルフは魔法で本を召喚出来るみたいで、ポンポン本が出て来る。
「少年、これだけあれば十分調べられるはずだ。他に必要な本や気になる本があれば言ってくれ。仕事柄ここにあるものは全て把握している」
「ありがとうございます。助かりました。一人じゃここまで揃えるのに相当時間が掛かったと思います。何かあれば頼らせて頂きます」
ほんとに沢山の文献を集めてくれた。ここの人が言うのだから想定した以上の情報が得られるはずだ。
でも名前では呼んでくれないんですね。ここには当分お世話になると思うし覚えてくれると嬉しいんだけどなぁ。
本を出してくれてからシュゾルフさんは静かにさっき読んでた本を再び読んでいる。
僕は邪魔にならないように借りた本を近くのテーブルに積んで、事前に用意した自室にあったメモ用紙をポケットから取り出し、文献から必要な事柄を書き出す作業に入った。
文献の一冊一冊がとても興味深く面白い。やはりギルベルトから連絡が来ていたからか、モンスター図鑑や植物図鑑なども用意されていた。
僕は黙々と文献と睨めっこをしている。まるで大学生になって卒業論文を作っているような気分だ。
――あれから何時間経っただろうか。気が付けばもう窓から夕陽が見えている。午後から騎士団に行こうと思っていたのに昼食を食べることすら忘れるほど集中していたみたいだ。意識するとお腹が空いてきた。
進捗は、やっと3分の1程度だろう。どの文献も太さがあるのでなかなか進まない。ついでに読むことに夢中になってしまって進まないこともあったのは仕方ないと思う。
そろそろ戻るか。もうお腹空きすぎてつらいわー。
「あの、シュゾルフさん。明日も来ますのでこの文献を置いておいてもらっていいですか?」
「別に構わない。必要なくなったら言ってくれ。そのときは本棚に戻すから」
「分かりました」
僕は書物塔を出て帰ろうとするがやはり帰り道が分からず使用人に案内してもらう。
そして朝のように食事をしながら会話をする。あとは風呂に入り就寝する。
あれ、随分と贅沢な暮らしをしていないか?
あ、風呂ではテンプレラッキースケベイベントは発生しなかった。いや、しなくて良かった。そんなことがあれば僕の首が飛ぶだろう。あえて誰にとは言わないがな。
明日こそ騎士団に挨拶しに行かなければ、国王の好意を無駄にしてしまうし、個人的に早く会いたい。
コツコツと自分が出来ることからやっていくのって大事ですよねー
え? 僕はノリと勢いで後先考えない派ですけどね。
イグナーツさんの村紹介は番外編的なのを書こうと思うのでそこで出すかもです(予定)
次回、カルタが騎士見習いになる? かも…
ま、どうなるかは今の時点では何も分からないんだけどね。




