引きこもり拉致られる
僕は引きこもりだった。学校で容姿をからかわれ、不登校、引きこもりのコンボ。だが今はいい時代だ。家に居ても、ネットで沢山の冒険が僕を待っていてくれる。ネット世界は、年齢も性別も家柄も勿論ルックスも関係ない僕にとっての理想郷だ。
食事は一日三回母さんが部屋の前に運んで来てくれる。将来のこと?お金だったら問題ない。いざとなったらネットで稼ぐつもりだ。ブロガーやユーチューバになってお金を稼ぐつもりだ。そんなセルフ洗脳を日々実施。遮光カーテンを引き、ネットリア充を決め込んでいた僕に、ある日悲劇が訪れた。
予兆はあった。部屋の前に置かれる料理が店屋物になった。それも一度ならず。時にはカロリーメイトだったことも。ただ、母さんが忙しかっただけかとも思って僕は壁を足蹴にして穴を開けただけだ。
運命の日、昼夜逆転している僕が朝に寝床につこうとするところを襲われた。轟音とともに部屋のドアが突然破られ、武装勢力が突入してきたのだ。寝こみを襲われた僕は悲鳴をあげる間もなく布団で簀巻にされてしまった。
「それではお母様息子さんは確かにお預かりします」
「よろしくお願いします」とかなんとか聞こえてくる。図られた!留守にしてたのはこの為か。自立塾に相談しやがったな!全身を怒りが駆け抜けたが簀巻状態の僕はかろうじて指先が動かせる程度で殆ど何も出来ない!!今思えばよく窒息死なかったものだ。
拉致られた僕はそのまま車に載せられ、やがて船に積み替えられた。しばらくして船酔いでリバース寸前の僕の戒めがとかれた。
「弁護士に電話させろ、僕には権利がある」中指を突き立てながら僕はマトリックスの真似をした。それを観た眼鏡の女性は意外そうな顔をして、こう言った。
「態度次第では、君にはまた簀巻に戻ってもらうがー」ペチンと指を鳴らすと、部屋に屈強な男たちが雪崩れ込んで来る。
「ごめんなさい、冗談でした」僕は小声でつぶやいた。
「それでいい。君は電話を貸して欲しいと言ったね?君には電話をかける相手が居るの?」
「110番」
「なるほど、使うが良い」女は僕にケータイを放って寄こす。上手くキャッチ出来ずに布団の上に落ちたケータイを拾い上げて電源ボタンを押すと。
「残念、圏外でした」そう言ってケタケタと笑う。このアマ!
「この船は離島に向かっているわ。そこではケータイ電話もインターネットも使えない」
「!?」
「太陽の光を浴びて引きこもりを直すのよ」
「するとやはりあんた方は自立塾の人なのか?」
「そう、我々はメイド自立塾。ご主人様には引きこもりを直していただきまーす」そう言って呼び鈴をチリンと鳴らすと別のメイドが静々とティーセットを運んできた。
メイド自立塾とか意味がわからない。しかし、目の前の女性がメイド服を着ている理由はわかった。
「どうぞ」紅茶が振る舞われる。
「大丈夫、何も入っていないわ」カップを取り、一口紅茶を口に含む。朝から一口も水分を取っていなかった事もあって今までで一番美味しい紅茶だった。
「飲んだわね」僕は慌ててメイドの顔とカップの中身を確かめる。
「その紅茶を飲んだってことはあなたはメイド自立塾への入塾を承諾したってことだから」最初から居たメガネのメイドが高笑いする。
「学園長少しハシタナイ。まるでSMの女王様」
「お黙りっ」
こうして僕はメイド自立塾に入塾させられたようです。