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異世界ファンタジー×アイドル伝(仮)  作者: こゅぁん、
チェリ
9/26

ゴリゴール・ファイト


■小国リェイボゥ ロザリヌ村近郊の荒れ地




 というわけで、カミュ、ジフ、ホリィ、チェリの四人にゴリゴール・ゴルゴーリ(通称ゴリさん)を加えて5人編成となったパーティは、ロザリヌ村近くの祠を目指してのんびり歩いていた。

 一応泊まりの用意は最低限だけは持ってきているが、いろいろな余裕を見ても日帰りで十分な距離である。


「ピクニックみたいなもんだと思えば、怖くないでしょ」


 ホリィは気安く言う。彼女はこの世界にやってきた序盤にこそゴブリンの集団に襲われて、それこそ生きるか死ぬかの状況を潜り抜けた経験を持つ。が、本当に命の危機に晒されたのはその一回こっきりだ。それ以降は生死をかけた闘いは経験していない。

 逆にそれがアクセントとなって、それ以外の生ぬるい――そう感じられるのはカミュやジフの奮闘のおかげではあるのだが――戦闘に対してはさほど緊張も恐怖も感じずに対処することができている。

 そもそもにしてホリィは生来どちらかというと図太い性格の持ち主だったりする。


 チェリは、


「そんなこと言ったって……。

 怖いモノは怖いわ」


 と、必要以上に周囲を警戒しながら、ゴリさんの大きな背中の陰に隠れつつ、恐々(こわごわ)ついて行っている状態だ。


「いやあ、チェリさん。あっしが護りますって。

 心配せずともチェリさんには指一本触れさせません」


 ゴリゴールは、気安く応じるが、それでもなかなかチェリの心はほぐれない。

 彼女にとっては、異世界に飛ばされてから魔物に襲われた経験が完全にトラウマになって払拭できずにいたのだ。

 まあ、一人で孤独に逃げることしかできなかったのだから当然と言えば当然かもしれない。


 そんな中……、


「いや~!!」


 突然チェリが叫び声を上げる。


 それには先頭を行っていたカミュとジフも立ち止まり、


「どうした!?」


 と問いかける。

 彼らからしたら、面倒であり厄介でしかないビビりの同伴者だが、召喚巫女として呼びだされた可能性が高く、今後のことを考えるとどうしても魔物の跋扈する世界に慣れて貰わなければならない。

 なのでできるだけ丁重に扱い、あわよくば魔物ってそんなに怖がるほどのものでもないんだよ、怖がらなくていいんだよという事実を教えて、実際に経験させることで徐々にでも慣れて行ってほしい。

 そのためには、なるたけお客さん対応を心掛けている。ゴリさんまで雇ったのだし。


「くるわ~、魔物がくるわ~」


 歩くことすらままならないといったふうにチェリはその場に崩れ落ち、頭を抱えながらしゃがみこんでしまった。

 ぶるぶると震えている。


「そういわれてもねえ……」


 ジフが、若干警戒しながら周りを見渡すも、魔物の姿どころか気配も感じない。

 半ば強引に話を進めて無理やりに引っ張り出したことによって、精神的な錯乱を起こしたのでは? とさえ疑ってしまいそうになる。


 それはカミュにしろ、ゴリさんにしろ、ホリィにとっても同様だった。


「ねえ、チェリ。

 怖いと思ってるから必要以上に過敏になっちゃってるんじゃない?

 魔物の姿なんてどこにも見えないよ?」


 とのホリィの声掛けに、


「だって、あたしには感じるわ。近づいて来てるのよ。

 あっちのほうからくるわ!」


 と頭を抱え込んでいた片手で指さす。


 その方向の先は小高い丘になっているが、そこまでの間には魔物らしき姿はない。

 またその先は隠れていて見とおせない。


「少し上れば見えそうだな。

 ちょっと偵察にいってみるか」


 と、宥めすかして歩くことを促すのも無理っぽそうなチェリに愛想をつかすでもなく、ただ仕方なしにという感情を含めながらカミュが提案する。


 行って問題なしとの報告を届ければ、チェリの不安も解消するだろうという安易な気持ちである。


「じゃあ、僕らはここで待ってるよ。

 気を付けてね」


 とジフが言ったそばから、あっっとホリィの声が上がる。

 異世界平均と比べてさして視力もよくないホリィだったが、なんとなくカミュの行先を眺めていて第一発見者としての機会を得たのだ。


 その声に全員(チェリを除く)の顔が同じ方向を向く。


「多いな……」


 ぼそりと呟いたのはカミュ。彼のみならずそれは他の面子の視界にも捉えられていた。

 マッドアントが……、その数は群れと呼ぶにふさわしいだろう。

 さして巣をつついたというほどの数ではないのはせめてもの救いか。


 おおよそ10をようやく超える数。

 しかし、これまで対してきた同じ魔物の頭数と比べれば圧倒的に多い。


「予想外だけど、想定内だね。

 少々厳しいけど相手できないってほどじゃない。

 こうなるとゴリさんについて来てもらって良かったってことになる」


 などとジフは一切の悲壮感をにじませずに気楽に話し、


「任せてくださいな。

 お嬢さんたちには一本の足先も触れさせませんから」


 とゴリゴールも気合を入れる。


「数が多いし、徐々に横に広がっているな。

 今から移動しても会敵予想地点では戦いにくい。

 ここで迎え撃つか」


 とカミュから指示が出る。


「じゃあ、僕は少し下がらせてもらって……。

 ホリィとチェリはもう少し後ろで。

 ゴリさん、二人をお願い」


「承知しました」


「ほら、チェリ。下がるよ。

 ここに居たら危ないから」


 そう言われると、さすがのチェリも立ち上がって移動する。


 そうこうしているうちに、蟻の戦闘とカミュとの距離はどんどん縮まり、ついに近接戦闘の間合いへ。


 が、


「火弾!!」


 先頭を行く一匹は、ジフの放った魔法によって頭が吹き飛ばされて、一瞬で絶命に至る。


「すごい魔法の威力ですなあ」


 となにやらゴリゴールが関心しているが、葬れたのはたったの一匹。

 ジフの次弾にはチャージが必要なため、ここからはカミュの奮闘に期待が集まるところではある。


 しかし、ことは思惑どおりには進まない。


「くっ! こいつら、俺を無視して……」


 2~3匹の泥蟻マッドアントと剣を交えながらもカミュが吐き出す。


 先陣を切って蟻を食い止めるべく剣を振るうカミュだったが、足止めできるのはせいぜい数匹。

 それ以外の魔物たちは、カミュを視界の外に置いているかのように、その行進をめはしなかった。続々と後衛として控えるジフへ、あるいはさらにその後ろに位置どるゴリゴールへと向かってくる。


「ジフさんも、あっしの後ろへ!!」


 対応策を出したのはゴリゴールだった。

 ジフにとっては言われるまでもないことではある。


 格闘能力を持たない彼は、カミュが突破されたとみるや、自身も最後尾に陣取るホリィ達と合流するべくすでに決心を固めていた。

 いわばゴリゴールを盾にするという男の子としてはやや情けない恰好にはなるが、そこは本職が魔法使いのジフである。

 今までもずっとそうして壁役の背後に控えてきたし、戦略上致し方なしということで特に負い目も感じない。


 問題があるとすれば、ゴリゴールがどれだけの力量で魔物を食い止めてブロックしてくれるのか? という一点である。

 カミュのように数匹しか引きつけられないのであれば、残りの魔物はジフやホリィ達に殺到してくる可能性もぬぐいきれない。

 その際には、さすがのジフも体を張って対処するつもりである。


 が、ジフの覚悟は結果として無駄に終わる。


 カミュをすりぬけた蟻達はまるで親――彼らにとっては女王蟻か?――の仇にでも出会ったかのようにゴリゴールに群がってくる。


 ゴリゴールは巨大なハンマーを振るい、周囲に居る蟻達を吹き飛ばしていくが、ド派手な見かけによらず致命傷にはなっていないようだ。

 飛ばされた蟻は体制を立て直してまたゴリゴールへと向かっていく。

 そうこうしているうちに蟻は隙を見ては巨大な顎でもってゴリゴールへと噛みつくが、鋼の肉体を持つゴリゴールの皮膚は多少食いちぎられる程度で鋭い顎を跳ね返し、その間にまたハンマーを叩き込む。


 その模様はある意味で神々しくもあり、美しき肉体美を存分に披露した見るものによっては価値のある戦闘シーンであったが残念ながらホリィの琴線には触れなかった。

 ただ、ごついおっさんが、ゴリゴリと肉弾しているぐらいの感想である。

 チェリに至っては、完全に目を伏せそむけているために、視界にとらえてすらいなかった。


「あの人なんか蟻に恨まれるようなことでも……」


 安全圏から呑気な感想を呟くホリィだったが、はたと、そんなことを言っている場合でもないということに気が付く。


「ジフさん、歌うよ! いいよね!?」


 同意を求めたのは、事前に彼女の持つ力をなるたけ秘匿していこうというジフやカミュからの提案があったから。

 それでもこの場で歌うことを決意したのは、カミュはともかくゴリゴールが見る間に傷だらけになっていっている現状を目の当たりにしたから。


 魔法でゴリゴールに集まる蟻を狙おうとし、余りにも乱戦で狙いの付けようがなく断念したジフが、


「この状況じゃしょうがないね」


 と肯定の意を表する。

 カミュは未だ離れた位置で蟻と剣戟を繰り広げている最中であり、ゴリゴールの加勢に向えるだけの余裕はない。

 カミュとジフは距離が離れすぎており、援護もできない。するためにはジフが移動しなければならないが、そうすればホリィ達を無防備にしてしまう。


 この状況ではゴリゴールの頑張りが生命線であり、少しずつでも蟻達の体力を削って葬ってくれる、あるいはカミュが合流できる状況を作るまでの我慢比べである。

 持久戦となれば、補給、つまりは回復というのが非常に重要になるのである。


 許可を得たホリィは、足を開きすうっと背筋を伸ばす。


 相変わらず頭を抱えてしゃがみこんでいるチェリがそっと顔を上げて様子を伺うが、ホリィの意識は既に歌うこと、それだけに占有されていた。


 ホリィが右足で軽くリズムを踏み始めると、彼女の体が淡く輝き、その光が天に昇り、やがて円形となって地表に降り注ぐ。

 それはやや離れたところに居るカミュまでを包み込む光のドーム。

 さっそく天井差し込む光がカミュとゴリゴールへと降り注ぐ。


「これって回復魔法ですかい!?」


 ちらりと上空へ視線を向けながらゴリゴールが驚きの声を上げた。


「似たようなもんだよ。

 受けた傷や体力は逐一回復するけど……。

 そんなに長く続くものじゃないから楽観はしないで」


 ジフは歌に専念し答えることのできないホリィに代ってそう言い、チェリが、


「これって……、わたしたちの歌……?

 これがホリィの力……」


 と驚きの表情でホリィを見つめる。


「ありがてえ! 力が沸いてくるようでさあ!」


 それは体力が回復したことを実感した言葉であったのか。

 それとも精神的な支えが気力の向上をもたらしたのか。


 ゴリゴールの振るうハンマーの威力が多少なりとも上昇したようだ。

 既に一定時間戦闘を繰り広げ、ダメージを蓄積させていたこともその一因だろう。


 ようやくハンマーで打ち据えられて飛ばされた一匹のマッドアントが立ち上がることなく消滅していく。


 それをきっかけにしてゴリゴールは時間はかかるものの蟻を逐次片づけていき、ようやく合流を果たしたカミュと共に、全滅に追いやることができた。


 時間にしてホリィの歌2曲分。10分弱の戦闘がここに終結したのであった。

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