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異世界ファンタジー×アイドル伝(仮)  作者: こゅぁん、
チェリ
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チェリ


■■小国リェイボゥ リーラァ村とロザリヌ村を繋ぐ街道




「それにしても……」


 剣を納めながらカミュが呟く。


 その意図は、ジフには伝わったようだ。


「そうだね、やけに魔物と遭遇するね。それもマッドアントばっかり。

 まあ幸いなことに数が多い集団じゃなかったから、面倒だけど苦戦はしなかったし。

 単純に多少でも稼げて良かったってことになるんだけど」


「ギルドではなんにも聞いていないよな?」


 カミュは魔物の異常発生、あるいは目撃多数のような情報が他でも流れてないかというのを確認する。


「うん、特には。

 でも次の村で一報入れといたほうがいいかもね」


 この辺りの話になるとホリィにはまったくついていけない。

 魔物との遭遇頻度、遭遇率なんて普段がどうとかさっぱりわからないし、口を突っ込んでもまぜっかえすだけだ。

 ジフであれば懇切丁寧に説明してくれるのであろうが、あえてその手間をかけさせるのも悪いような気がしていたりもする。

 なので黙って聞いていると、


「ホリィ、カミュに回復しておいてくれる?」


 言われてはっと気づく。

 自分にできることは回復だけというのは重々承知していたのだが――実際に戦闘では後衛に位置しているジフのさらに後衛という非常にお客さん扱いのポジションを取らせてもらっている――、何度も出会ったマッドアントは低級の冒険者であるカミュとジフにとってしてもそれほどの難敵ではない。

 というか、ゴブリンに比しても御しやすい相手だ。

 ジフは無傷で乗り切っており、さらには前衛として戦うカミュもそれほどダメージを受けるというわけではない。


 それでも細かな傷が積み重なり、加えて言えば体力的な部分でもある程度消耗しているだろう。


「あっ、気づかなくって。

 ごめんなさい、今やります」


 そういってホリィは歌いだした。


「戦闘時の範囲エリア逐次インスタント回復と、通常時の回復か……」


「すごい便利だよね。特に戦闘時のほう」


 ジフは何気なく言ったのだが、カミュはそれに苦い顔をする。

 それくらいならヒリシスだって……と言いかけて口をつぐむ。言っても詮無い話であるし、ジフだってそれくらいはわかって、なおホリィを受け入れるべく論調を探っているのだろう。


 だが……、カミュにはやはり割り切れないものがある。

 もちろんジフにもあるのだが、それを隠して自分の中に留めておけるジフとは違い、カミュは口に出すことで靄を晴らそうとするのであった。


「だが、伝説の歌唱巫女……。

 確かにホリィの歌は凄い。ゴブリンとの戦闘ではあれがなかったら成り立たなかったというのもわかっている。

 でもこれだけで世界を救う力になれるなんて考えられるか?

 回復力はあるが範囲は狭く、それこそ1パーティに対して使えるのがやっとってところだ。

 確かに戦線の一角だけを保持する力はあったとしても、あまりにも……」


「うーん、僕はホリィも未だ発展途上の段階にあると思ってるけど?

 それに、仲間が増えたら新しい力が得られるってこともあるんじゃない?」


「ジフは楽観的なんだな」


「まあね。それが僕の信条だから」


 もちろん二人の会話は歌に夢中のホリィには聞こえていない。

 さすがに聞かせらえる内容でもないので声を潜めて話していた。


 二人がこそこそ話しているのはホリィの視界にももちろん入っており、なんとなく阻害感を感じたが、自分にできるのは歌うことと割り切って見て見ぬふり、そもそもにして内容までは聞こえてないが聞かぬふりをする。

 そもそも、普通に歌うのとは違い、回復歌唱を使うには相当の集中力が要るのだ。

 しかも一度歌い出したらキャンセルできそうにないという謎の制約があるようで、回復が終了したからとて途中で辞めることもできないようだった。




 夕刻も近くなり、一向はロザリヌ村へとたどり着く。


 つい今朝後にしたリーラァ村とさして変わりばえのしないのどかな村のようだった。


「じゃあ、時間も時間だし、宿に直行しようか?

 ギルドに行くのは明日の朝でもいいよね?」


「ああ」


「お任せします」


 ということで、村の入り口からほど近い一軒の宿を目指す。

 小さな村の事。普段から宿屋として営業しているのはその一軒だけだった。

 来客が増えたら、村民の自宅で部屋を貸すというようなこともするようなのだが、そもそもそれほど客が来るわけでもない。


 はたしてたどり着いたのは宿屋というよりも商店であり、実際のところ雑貨店も兼用している店だった。

 時間も時間であるからか、宿屋用に設けられていると思われるカウンターにも、雑貨店の会計場にも人の姿は見えなかった。


「すまん。宿をとりたいのだがな」


 カミュが無人の店内に声を掛ける。大声ではなくギリギリ中に聞こえるかどうかという程度の声で。


「はーい、少々お待ちを……」


 と中から若い声が聞こえてくる。


 ぱたぱたという足音とともに現れた人物を見てホリィの目が見開かれる。


 それは……、旧知の人物であり……。


「チェリ!? チェリだよね!?」


「あ、くー……ホリィ?」


 それは、店から現れた少女も同様で、二人は一瞬戸惑いから沈黙するが、やがてホリィが、


「なにしてんの? こんなとこで?」


 と、チェリに至極抑揚のない声で尋ねた。


「そっちこそ……」


 答える少女の姿は顔立ちや肌の色、髪色こそこの世界で一般的であるコーカソイドのそれではなかったが、服装は質素なメイド服ともいうもので場になじんでいた。


「知り合いか?」


「知り合いっていうか……」


 答えながらもホリィはチェリの手首に目をやる。

 どうやら自分と同じく手首にフィットする腕輪をはめている。チェリのイメージカラーである桃色の宝石がはめられているのまで見て取れた。


「話せば長くなりそうで……。

 いや、そんなでもないか……」

 

「まあとにかく先に宿の手配を頼む。

 後で時間がとれるなら、話をしたいが?」


 とカミュがチェリに向かって言う。


「えっと……それは……。

 おやじさんにきいてみないと……。

 でも多分大丈夫だと……」


「なら、まずは部屋を用意してくれ。

 二人部屋と一人部屋。

 夕食も可能なら頼む。3人分だ」


「はい、少々お待ちを」


 と、チェリは手慣れた……とは言えないまでも着々と手続きを進めていく。

 三人の名前を宿帳に記載させて――これはジフが代表して行った、冒険者カードも確認する。

 ちなみに、ほとんどの宿屋では冒険者であれば宿代が割引になるという制度があるのだ。


「やあ、いらっしゃい。こんな寂れた村へわざわざどうも……」


 奥から恰幅のよい中年男性が出てきて頭を下げる。


「失礼ですが、この宿のご主人で?」


 カミュの問いには、


「まあ、宿というか雑貨店も含めて一応の経営者です」


 と丁寧な返答が返ってくる。


「そちらのチェリさん、と言ったか?」


 チェリが頷き、カミュは話を続ける。


「少しお話を聞かせて貰いたいことがあり、お時間を戴きたいのだが……」


「そうだね、一緒に夕食食べられるんならそれでもいいし」


 ジフの言葉に主人は一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに、


「ああ、そういうことで。

 こちらは別にかまいませんよ」


 と気安く応じてくれた。




 というわけで、四人掛けの食卓にはカミュ、ジフが並んで座り、向い側にホリィとチェリが座っている。

 部屋に行っての荷ほどきなどで、ホリィとチェリが顔を会わせるのは来店依頼となる。


 運ばれてきた食事は何の変哲もない家庭料理だった。スープに肉料理、サラダ、それに中央に大きな籠が置かれて数種類のパンが詰め込まれていた。

 給仕は先ほどの主人の妻であるおかみさんという人物が行っている。


「さてと……。

 いきなりだけど、チェリちゃんも歌唱巫女なのかな?」


 ジフはいきなり核心を付いた。


 が、当のチェリは『?』を浮かべて黙ってしまう。


「多分言ってもわかんないと思います。あたしもそうだったから」


 とホリィが助け舟を出す。


 そこで、どういう経緯でチェリがこの宿に居たのか? という根本のところからの話を聞くことになった。




「というわけで、この村に辿り着いて、ふらふらしてたというか、この店に入って宿もやってるみたいだったから、でもお金もないしで迷ってたら声を掛けてもらったんです。

 行くとこもないし、しばらく働きながら置いてもらえることになって……」


 チェリの話を纏めるとこうだ。


 まずはこことは違う世界でホリィらと一緒にレッスンを受けていたことを簡単に説明した。


 で、そこからが自身にも経緯はわからないのだがチェリも気が付けば祠の中に居た。


 混乱しつつも、祠を出ると、そこはどうやら小高い山というか丘の上のような場所だった。

 余談ではあるがそれはカミュたちが目指す祠と一致していると思われる。


 深く考えもせず適当に散策していると、巨大な蟻に出くわし、無我夢中で逃げ出した。

 日も暮れ、魔物からは逃げおおせたものの途方に暮れていると、夕闇に包まれかけた風景の中に光の灯る一角を見つけてそちらを目指すと、この村に辿り着いたということである。


「よくそんな走って逃げられたよね?」


 とのホリィの問いには、


「まあ、下り坂だったし走ったというか途中からは転がり落ちたみたいなもんだし……」


 とチェリが袖をまくって青痣だらけの腕を見せた。

 それなりに苦労はしたようだが、命の危険が間近に迫っていたホリィ自身と比べると多少は温い状況のようだった。


 とはいえ、チェリはチェリで運次第では命を落としていたかもしれない。

 彼女らが何物かに召喚されたのだとして。

 周辺の魔物の速度とスタミナに依存するかなりリスキーな喚びだしであり、喚ばれた二人からすればいい加減にしてほしいというのは共通意見だろう。


「で、祠の中に石版みたいなのなかった?」


 話を進めるためにホリィが尋ねる。


「うん? なかったと思うけど……。

 ちゃんと見てないからわかんないわ」


「じゃあ、そこで歌ったりしてないよね?」


「歌? 歌は歩く途中で歌ったかもしれないけど……」


 どうにも話が通じない。


 理解が追いつかず、会話を黙って聞いていたカミュとジフに気付いてホリィが補足する。


「あの、あたしの場合、最初の時には祠の中に石版みたいなのが無くって、二回目に入った時にはあったんですよ。

 それに触れたというか読んで歌を歌った時に、癒しの歌の力を得たというかそれに気づいたというか……」


 いいながら、ホリィはチェリの顔を見て様子を伺うが、チェリは首を傾げるばかりだ。


「チェリちゃんはその手続き、儀式を終えてないってことになるのかな?」


「多分……そうなんだと思います。」


「一緒に連れてくか……」


 カミュはぼそりと呟き、ジフも、


「そうだね。それがいいというかそれしかないと思う」


 と同意するのだが、


「えっ!? 無理無理、無理ですよ! 村から出るなんて!

 あんな怖いとこ二度と行きたくないわ!」


 と猛烈なチェリの拒絶、反発に合うのだった。

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