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アマオト  作者: SHIRANE
4/4

Section2 「邂逅」

『後悔は、自分が自分に下した判決である』 喜劇作家 メナンドロス


12年前のあの日、僕は初めて”彼女”と出会った。

近所に住んでいる事は知っていたけれど、実際に会うのは初めてだった。

ちょっとした事にも全力を傾ける……そんな子だった。

明るくて、周りからも好かれている。

そんな”彼女”が、僕はいつから「好き」だったのだろうか。

そんなことさえ、僕はもう思い出せないのかもしれない。


■2029年3月17日 19:00■

日本では、毎年60万件以上の交通事故が発生している。

その内、24時間以内に死亡する人は約0.005%。

つまり、1%に遥かに満たないのである。

夏雫は、この1%以下に含まれてしまった。

救急病院に搬送されて2時間、治療の甲斐なく夏雫はこの世を去った。

人の命がこんなに呆気なく失われるのか。

春一は、ただ頭を抱えるだけでこの現実を理解できなかった。

「 (夏雫が……どうして……) 」

偶然あの信号に居合わせ、その偶然に巻き込まれて夏雫は死んだ。

あと少し、時間がずれていれば結果は変わったかもしれない。

「 (俺があの時、夏雫に告白していれば……あの場所には……) 」

悔やんでも悔やみきれない後悔の波が、春一を苛んでいた。


■2029年3月21日 18:30■

4日後、夏雫の葬儀が執り行われた。

夏雫と特に仲の良かったメンバーは参列している。

春一らもお互い会話はなく、冬佳のすすり泣く声が会場に響く。

祭壇には、夏雫の満面の笑顔が飾られた。

夏雫をよく表した写真だろう。

事故の衝撃の割に、夏雫はきれいだった。

本当に、打ち所が悪かっただけだ。

目を閉じたままの夏雫と、春一は最後の対面をする。

止まっていた涙が、一筋……春一の頬に伝う。

春一の中で混濁していた思いが、やっと1つの結論に達した。

「 (僕の好きだった夏雫は……死んだんだ) 」

頭では理解しているはずだが、心がまだついて行かない。

そして、その気持ちを整理できないまま新学期を迎え、

夏雫のいない――新たな4月が始まった。


■2029年4月9日 8:50■

いつもの平日、いつもの様に学校へ向かう。

しかし、いつもいた存在が近くにいない。

その現実を、春一はまだ受け止められていなかった。

新学期になっても、クラス替えは行われない。

この学校で長く続く伝統の1つらしいが、今の春一には辛かった。

担任の先生が教卓に立ち、新学期の挨拶を始める。

「えー、皆さんに残念なお知らせをしなければなりません。

 クラスメートの西寺さんが、3月に交通事故の為亡くなりました。

 西寺さんの分も、皆さん一生懸命頑張っていきましょう。

 それでは今日の連絡をします。この後……」

他のクラスメートからすれば、それほど重要な出来事ではないかもしれない。

しかし、春一の中には承服しがたい気持ちが渦巻いていた。

「 (夏雫が死んだのに、それだけ……なのかよ……) 」

先生にしてみれば、十分な責務は果たしているのだろう。

人が本当に死ぬ時はいつか?

それは――「みんなから忘れられた時」なのだ。

言葉にして吐き出せたらどれだけ楽だろう。

春一は、それほど器用な人間ではなかった。

気持ちとして吐き出せない思いが、吐き気として返ってくる。

朝礼が終わってから、春一は何回も吐いた。


■2029年4月9日 12:30■

春一は、帰宅しようとした所を冬佳に止められた。

連れられて向かったのは、普段は入ることのない屋上だった。

春の風が屋上を吹き抜け、桜の花が舞い散っていく。

背を向けて歩いていた冬佳は振り向くと、平手を春一の左頬に入れた。

「春一、あんた夏雫に告白したの?」

勘のいい冬佳は、気付いたのだろう。

どうして一緒に居たはずの春一が無傷で、夏雫が死んだのか。

「出来なかった……」

その返事とほぼ同時に、再び左頬に平手が入る。

「あんたが告白していればきっと――夏雫は……」

そう、あの場に居合わせなかったかもしれない。

春一も分かっている。だから、冬佳に言い返すことが出来ない。

「冬佳の言う通りだ。俺が告白していれば……」

「わかっているなら、何でしなかったのよ!!」

冬佳の行き場のない怒りが、再び春一の頬に向かう。

春一はそのままの姿勢で目を閉じた。

しかし、先程の様な衝撃が頬に来ない。

目を開くと、秋希が冬佳の手首を掴んでいた。

「もう、その辺でいいだろ。春一を責めても仕方ない」

「だけど!」

「春一だって辛いんだ。わかってやってくれ!」

普段はムードメーカーの秋希が、声を荒げた。

屋上の入口の方に目を遣ると、琴夏がこちらの方を見ている。

暫く黙って俯いていた冬佳は、顔を上げると春一を睨みつけた。

「私は絶対許さないから!!」

そう言い残すと、秋希の手を振り払って階段を駆け下りて行った。

立ち尽くしていた春一に、秋希と琴夏が声を掛ける。

「今は冬佳も整理が付かないんだ。許してやってくれ」

「私からもお願い……」

琴夏が丁寧なお辞儀をする。

「いや、俺が何かを言える立場にはないから……」

そう言うと、足元に落ちた鞄を手に取って階段を下りて行った。

屋上に取り残された秋希と琴夏。

「今度は、かなり尾を引くかもしれんな……」

「うん。冬佳も暫く引っ込みがつかないと思う……」

春の暖かい風のはずなのに、4人はとても冷たく感じた。


■2029年4月11日 17:30■

あれから2日、春一は体調を崩し学校を休んだ。

冬佳との事もあるが、体と心の限界を超えていたのだろう。

眠っていても見るのは、あの時の鮮明な光景。

悔やんでも悔やみきれない、後悔の波が引くことはない。

夕方になって、琴夏が学校のプリントを届けに来てくれた。

玄関で済ませようと思ったら、家の中まで入ってきた。

いつもはこう言った事がないので、どこか不思議な感じだ。

部屋の中に入り、春一がベッドに腰かけると琴夏が話し始めた。

「少しは整理が……付いた?

「うん、大体は」

「そう……」

プリントを受け取ると、一緒に1冊の本を渡された。

「これは?」

「それ……遺品として受け取ったの。よかったら……」

外側のカバーは何度も読み返したのか、ヨレヨレになっている。

本を開くと、見知った名前がそこにあった。

「ありがとう……」

軽く頷くと、そのまま琴夏は帰って行った。

何度も同じ本を読んだはずなのに、それは重さが違った。

「最後に読んだのは、母さんが死んで以来かな……」

春一の母「桜希」は、13歳の時に死別している。

その時の原因も交通事故だった。

桜希と春一が旅行の為に乗っていたバスが対向車と正面衝突、

桜希は即死で、春一も頭を数針縫った。

あれから4年が経ち、父は再婚した。

桜希の生前からよくしてくれた人で、再婚にも賛成した。

けれど、やはり母は母でも少し違う。

未だに「母さん」と呼べないのも、そのせいもある。

「 (結局……俺は1つも成長できていないんだな……) 」

本を枕元に置き、少し眠る事にした。


■2029年4月11日 22:30■

春一は夢を見た。

行った事はないが、春一は法廷に立っていた。

見た事もない人たちに囲まれ、何か話している。

聞き慣れない言葉でよくわからないが、春一がどうやら不利の様だ。

その時、鋭い声が法廷に響いた。

「芽桜 春一! しっかりしなさい!」

聞いたことのない声だが、その言葉に春一がハッとする。

そこから何を話したか記憶にないが、気が付くと閉廷していた。

春一がその声の主を見ようとした時、夢から覚めた。

「何だった……あの夢」

思い出そうとしても、鮮明には思い出せない。

しかし、あの声だけがとても鮮明に残っている。

「誰だったんだろう……」

もやもやした気持ちを抱えながら、再び寝付くのは少し無理だった。

春一の視界にあるのは、琴夏が置いて行ったあの本。

手に取ると、ゆっくりとした手つきでページをめくる。

『アマオト』。生前作者だった桜希の代表作だ。

雨音には、想い人を甦らせることが出来る一定の音階があり、

主人公は事故で無くした幼馴染を蘇らせようとする物語だ。

こういった話では珍しく、彼女は最終的に帰ってこなかった。

奇しくも、桜希も事故によって亡くなったのであるが。

「何か、今の俺らみたいだな……」

本の上に、1粒……2粒と水の粒が落ちる。

「あれ、どうして泣いてるんだろう……」

気が付くと、目から涙が溢れていた。

押し殺した泣き声に一層、自分の心が締め付けられた。

【どうしてそんなに後悔しているんじゃ、若者よ?】

春一は、何か変な声が聞こえた気がした。

しかし、この部屋には春一しかいないはずだ。

「誰だかわからないが、来るなら明日にしてくれ……」

何で、春一は返事をしているのかよくわからないが、

今はそうしたモノの相手をする余裕はなかった。

【わかった。なら明日、また来るからの……】

そう言い残すと、それっきり声は聞こえなかった。

「ついに幻聴まで聞こえて来たのか……寝よう」

本を閉じると、春一は再び眠りについた。

外は春風が吹き抜け、月明かりが部屋を照らす。

春一はさっきの返事が、この後の運命を左右するとは、

露にも思わず自然な返事をしたことだろう。

ここから、運命は奇しくも動かされることになるのだ。

そのことを、春一はまだ――知らない。

皆様、連日お会いできて私も幸せです。

作者のSHIRANEです。

続けて更新するのは、本当に久しぶりです(笑)

こんなに文章が書けるのも、調子がいいのか悪いのか(笑)


さて、『アマオト』は私、初めて"恋愛"色が濃い作品です。

今までが自衛隊や警察・消防を取り上げたり、

生徒会ものを書いていたので、初めての試みです。

皆さんにとってどんな作品なのか?

手探りで、不安な部分は非常に多いです。

ですので、感想とか意見とか頂けるとありがたいです。

意見や感想は、積極的に採用しようと考えています。

ぜひ、お寄せいただけますと幸いです。


さて、今後の更新ですが……わかりません(笑)

続きを書けそうなものから順番に書いていきますが、

こんなに早く書けるとは思っていませんでしたので……。

恐らく、『護衛艦奮闘記』が早いかな?

何にしても、読んで頂いる読者の皆様をお待たせして申し訳ないです。

今しばらく、お待ちいただきますよようお願いします。


毎度毎度ながながとスミマセン。

では、また次回の更新でお会いするのを楽しみにしています。

それでは……


2014年7月19日 SHIRANE

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