Prologue 「日常」
『「縁」とは予期しない偶然性である』 源 豊宗 (日本美術史家)
■2028年12月25日 18:00■
「今年もクリスマスだねー」
「あぁ――気がつくともう終わりやな…」
春一と夏雫は、外にシンシンと降り続く雪を見ながら話している。
「いい雰囲気やな…早くくっつけばいいのに……」
「そうそう…何でくっつかないんだろうね?」
そんな二人の様子を見て、秋希と冬佳が冷かしている。
「だからそんなんじゃ…ないって!」
慌てて否定する春一に追随するように夏雫も、
「そうそう!春一とはただの腐れ縁だよ!」
必死になって否定する二人に、琴夏がとどめを刺す。
「必死すぎるでしょ……」
「「だって…!!」」
「反応も同じにしなくてもいいのに……」
「「…………」」
冷静に紡がれた言葉に言い返せず、ついに黙ってしまった。
今年は、例年より雪が降って数十センチにも積もっている。
その雪の上に更に雪が降り積もる。
この時、誰もが疑いはしなかった。
いや、誰もが明日を迎えられる事に疑いを持ってはいないはずだ。
その当たり前が続く限り…だが…。
■2028年12月31日 23:59■
『今年も残すところ60秒を切ってしまいました…』
テレビからは、新年のカウントダウンが始まっている。
「みんな、今年も本当にありがとう!」
「こちらこそ!」
「まぁ、お前らが年内にくっつかんかったのは心残りやけどな…」
「そうそう…年明けちゃうよ?」
「「だから!!」」
「反応もよくそこまで合わせられるわね……」
「「…………」」
琴夏の一言でいつも言い返せず、そうこうしている間に10秒前。
『10・9・8・7……』
テレビからカウントダウンする声が流れている。
「「「「「5・4・3・2・1……おめでとう!!」」」」」
全員でカウントダウンして、2029年が始まった。
■2029年1月1日 11:30■
「ちょっと……押さないでよ!」
「だって、こんだけ人がいるんだから仕方ないだろ!」
春一達は、新年の初詣に桜神社を訪れていた。
桜神社…は誰がつけたのか、本来は「春坂神社」という。
桜神社の由来はおそらく、大きな手弱女桜の木があるからだろう。
余談だが、この街には桜にちなんだ地名が多い。
その流れを受け継いだのか、この当りの人は手弱女桜を指して、
親しみをこめて「桜神社」と呼んでいる。
「そんなにくっつきたいのか? それなら……」
そう前置きをして、秋希が春一の体をポンと軽く押した。
本来なら何気ない行動だが、今は距離がかなり詰まっている。
春一はこらえ切れず、夏雫に抱き着く姿勢になってしまう。
「ごめん…!」
「きゃっ!」
春一は直ぐに離れるが、二人とも頬がほんのり赤くなっている。
「秋希……やるわね!」
冬佳が親指を突き出すと、秋希も同じく親指を突き出している。
「よかったわね…二人とも…」
琴夏がささやか賞賛をあげると、夏雫は更に頬を赤くしてしまった。
■2029年1月8日 10:50■
「事前に言っていた通り、明日から実力テストがあります。
ですので、明日も午前までとなりますので注意して下さい」
担任から明日の伝達事項が伝えられ、今日は解散となる。
「春一! 今日テスト勉強一緒にしよー」
「あぁ――みんな呼ぶのか?」
「うん!」
「……わかった、じゃあ12:30に俺の家で」
「うん!」
そう言って、夏雫は準備をするために家に先に帰ってしまった。
みんなに連絡しようとスマホを取り出すと、後ろから肩を叩かれた。
「お前もなかなか…報われねぇな?」
「うるせぇ……」
秋希が労いの言葉を春一に掛けると、その後ろには冬佳も居た。
「早く告っちゃえばいいのに!」
「お前はしゃべるな」
「えぇー」
少し遅れて、琴夏も春一の教室に入ってきた。
「で……いつ告白するの?」
「はっ?!」
「冬佳がそう言ってたけど……」
そう言って琴夏はスマホを春一に見せる。
「冬佳……お前なぁ……」
「だって、いつまでも煮え切らないんだもん!」
「俺だって……」
「俺だって?」
春一はこの状況を打破すべく、そうそうに打ち切る事にした。
「あぁ! じゃあ、12時30分に俺の家に集合な…お先!」
そう言って脱兎のごとく教室を後にした。
「「「…………」」」
「あれだけ丸わかりな態度なのに、何でくっつかないんだ?」
「さぁ…単に優柔不断なだけでしょ?」
「と言うよりも……言う勇気が出ないだけじゃない…?」
琴夏が締めくくり、三人もカバンを持って教室を後にした。
まだ冬の存在を示す冷たい冷気が、街行く人を追い上げる。
そして、春の訪れを待ちわびている……そんな毎日だ。
こうして過ごす暖かさを保ちながら、季節は2月になった。
改めまして、作者のSHIRANEです。
寒い日が続いておりますが、いかがお過ごしですか?
さて、ずっと書きたいと思っていた”恋愛要素”を含んだ作品。
恋愛?のカテゴライズで良かったのか…少し疑問ですが、
後々そんな内容を入れていきたいという期待を込めて!
当たり前に続く時間に、「今」を忘れがちではないでしょうか。
私事ですが、昨年生徒会でお世話になった先輩が亡くなりました。
私と2つも変わらない人で、卒業後会う機会がなかったのが残念です…。
そんなこともありまして、「時間」をモチーフに作品を書いています。
どの様に映るのか分かりませんが、ゆっくり進めていきたいと思います。
さて今後の更新の予定ですが、アマオトの1話かな?
若しかしたら、”僕役””護衛艦奮闘記”かも…。
まだどれも手を付けていないので、気分次第です(笑)
いずれにせよ、読んでよかったと思って頂ける作品を…
これからも目標に頑張っていきたいと思いますので、宜しくお願いします。
それでは…次回の更新で!
平成26年2月8日 SHIRANE