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 うなだれる俺とうめくおっさんを見て、奥さんはコロコロと笑った。

「義父様はお言葉の少ないお方ですものね。さぁ、どうぞお入りになってください。ディナーの用意ができておりますわ」



 奥さんにうながされておっさんは、いや、おやっさんの親父さんは俺を抱いたまま屋敷に入る。

う~ん、やっぱややこしいな……強面親父でいいか。

そのまま俺たちは応接間へと案内され、ウェルカムドリンクを出された。



 おやっさんちとはいえ、しばらく寝泊りして見知った屋敷と見知った人を前にして、俺の緊張はほど……けなかった。

だってこの強面親父、いまだに俺を膝にのせてソファに座ってやがるんだもの。


「うふふ…クランちゃんがお気に召したようですわね」

そんな俺たちを見て、奥さんが口に手を当てて優雅に微笑む。

可憐ながらもいつものママンとは違った、奥方様と呼ぶのがふさわしい姿だった。

うん、この清楚な感じもいいね!


 そんなことを考えている俺の頭上から、重苦しい声がふってきた。

「うむ。わしを見ても泣かないのだ。なかなか見所がある…」


 あぁ、強面親父。あんた自分の顔が怖いって自覚はあったんだな。

俺はすこし優しく接しようと思った。

ただ、アンタは少しでも打ち解けるように努力しろよ!



「あの…そろそろ、どういうことか教えていただいても?」


 おそるおそる訊くと、俺の頭上で二人が顔を見合わせたのが気配でわかった。



「うむ、ライオネルが最近女の子を保護したと聞いてな。しかも傭兵団で働いていると聞いて興味を引かれたのだ」


 俺は顔の血の気が引くのを感じた。

国家魔導士に見つかりたくない俺は、本来目立ってはいけない存在なのだ。

おやっさん絡みとはいえ、国の中枢にいるような人物に興味を引かれるのはとてもまずいのだ。

冷や汗ダラダラの俺などおかまいなしに、強面親父の話は続く。


「しかもアネストの奴が、自分の領地に来た傭兵団にいる少女を、ひ孫のように可愛がったとわざわざ書面にしたためて送ってきおったのだ。羨ましいだろうと書いておったのだ!」


 …おい、きっかけはアネスト卿の手紙かよ。

しかもアンタ、もしかしてアネスト卿に張り合って俺を誘拐したってか?



 なんか膝の上で脱力してしまった俺を、さっきからゴリゴリと頭を撫でる手がいたい。

なんで撫でてるのにゴリゴリいうんだよ。


「アネストの言うとおり、なかなか気概のあるよい娘だ。わしの孫たちはこのくらいのときはわしを見るたびに泣いておったからな」


 言っちゃ悪いがトラウマものだろ。


「うふふ、それでね」

奥さんが内緒話のように俺に教えてくれたのは、強面親父と奥さんのちょっとしたイタズラだった。


 強面親父は、なかなか実家に顔を見せないおやっさんを不満に思っていた。

そして自分が知らないのに、息子の傭兵団にいる俺のことをアネスト卿が自慢げに手紙をよこしたことで、奥さんに相談したと。

奥さんはそこで強面親父に提案をした。


1.俺を傭兵団から連れ出す。

2.俺と強面親父の二人でお茶を楽しむ。(奥さん、この時点でかなり無謀じゃないですか?)

3.俺を実家に連れて行かれたと勘違いしたおやっさんが実家に飛び込み、寂しがっていたおやっさんのお袋さんとのんびり過ごす。

4.おやっさんちで皆が合流。

5.さあ、皆でディナーを楽しみましょう!


な流れらしい。っていうか、今回のこれって奥さんの計画かよ!

わざわざおやっさんちに移動してのディナーにしたのは、超上流貴族の実家に行って俺が緊張しないようにと奥さんの気遣いらしい。


 だったらこの強面親父と二人きりにするのも気を使ってほしかったぜ…。


 そうこうしているうちにお袋さんと一緒におやっさんが馬車で到着したらしい。

奥さんがお袋さんをソファへ案内し、お茶の手配をしている。

自分ちに帰ってきたというのに、おやっさんは強面親父を見て緊張していた。


 おやっさんは強面親父の座るソファへ近づき、ピシッと直立した。


「お久しぶりでございます、お父上。なかなかご挨拶に伺うことができず、申し訳もございません」

そう言っておやっさんは頭をさげた。


「うむ」

強面親父はそう言ったきり黙りこくる。

何だか応接間の温度が下がったような気がした。

ったく、しょうがねえなぁ。



「パパ、おじいちゃまは寂しかったんだって! パパを待っているのになかなか来てくれないから、おじいちゃまから会いに来たんだって!」


「むむ!」

「おい、クラ…ンお前!」


 今の俺は幼女だ。

誰がなんと言おうと、無邪気な幼女は最強なんだぜ?


「うふふふ」

「おっほっほっほ! まぁ、おかしいわ!」

お袋さんと奥さんが口元を押さえて笑っている。

やっぱり女が強いようだ。

おやっさんと強面親父は決まり悪げに顔を見合わせていた。



「皆様方、ディナーのご用意ができました」

いいタイミングで執事の……おっちゃんが応接間に呼びにきた。


 そこで俺たちは食堂に移動した。

もちろんと言うべきか、俺は強面親父に抱き上げられたままでだ。


 

 

 そして、その夜は楽しいディナーを過ごした。

特に強面親父はご満悦だった。


「ふっ、アネストのヤツに自慢してやるわ!」


 おい、自慢合戦に俺をつかうんじゃねえ!

 

 

 それから、強面親父の驚愕事実を知った。

この親父、軍人かと思いきや体術も剣術もからっきし駄目な頭脳派大臣らしい。

その肉体と強面と威圧感で頭脳派かよ!!

いろいろと心中で突っ込んでいた俺に、強面親父はしみじみと語った。


 本の虫で不健康だった若りし頃の強面親父は、ある日学生時代からのライバルであり武人なアネスト卿にからかわれたことで闘志を燃やして身体を鍛えだしたらしい。

そしてとてつもない覇気を身につけ、人の上にたつ大臣になったそうな。

んなアホな。


 ちなみに頬の傷は、徹夜で本を読んだあとに階段でよろけて転げ落ちる途中でざっくりと切ってしまった痕らしい。


 んなアホな!

 


  いろいろと、衝撃的な一日であった。



ツンデレでドジっ子なじい様のお話でした。

存在をおおっぴらにできないクランのことを、アネスト卿が手紙で国の大臣である友達に送るわけないな、というのが没にした理由でした。

ジジイ話が書きたかったので満足です。

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