狼の挑発
夜、寝る時に二人に叱られた時の服を着替え直していた芽衣。翌日ランスが作った朝食を食べる為、下に行ったら再び怒られた。
チッと小さな舌打ちをすると更に女がする事じゃないと、二人に叱られる。男女差別だと訴えてみたが、差別では無く当たり前の事とブラストとランスは言う。
この世界の当たり前は芽衣にとって迷惑なものらしい。
「王子様早く歩いて下さい」
「ねえメイ。何であの男もついて来るの?」
未だ口調が優しそうな感じに変と思っていたら、どうやら狼のランスが一緒に来ているようだ。芽衣が知るわけがないから、自分で聞くよう勧めれば凄く嫌そうな顔をした。
気になるなら自分で聞いて欲しいと呟きながら、後ろにいるランスに声をかけた。
「ランスさん何故ついて来るのでしょうか」
「暇潰し」
「だ、そうです。理由がわかりましたよ」
聞こえてるにも関わらず面倒だと思いながらも、ブラストに伝える。案の定余計に不機嫌になったブラストに、芽衣は更なる面倒事が起こりそうだと予感した。
旅の内容までは知らないランス、だから妖精探しは伏せて危険な旅だと伝えたのがいけなかった。正体は狼だ、危険な旅なら益々行きたいと自ら率先して行きたがる。
芽衣の余計な一言で、ブラストは顔はニコニコしているが機嫌が悪くなる。ランスは獣の血が疼くのか、どうしても行きたいと芽衣に頼む。
右は王子ブラストの不機嫌とわかる顔、左は狼ランスの旅を一緒にしたいとわくわくした顔。数分後には二人に挟まれ、同行は駄目と訴えるブラストと同行させろと訴えるランス。
男の癖に自分達で意見を言わず、芽衣に耳打ちで伝えろという二人いや、一人と一匹にだんだんイライラとしてきた。芽衣は正直、どっちでもいいからだ。
「二人ともそこに座って下さい」
「・・・メイ?ここ雪の上、座ると冷たいよ」
「黙って座る」
芽衣の仕事用スマイルにブラストもランスも黙って従う。
「なあメイ、座ったけど」
「良いですか?私は今からしばらく、独りになります」
「「はっ!?」」
「ですから、その間に二人で存分に意見を言い合って下さい」
芽衣がいなくなった方向をじっと見ている二人。いつまで座ってるつもりなんだとランスが問い、ブラストが笑顔で君が先に立てばと微笑んでいる。
「で、俺も同行していいんだろ?」
「やだなぁ、聞いてなかったメイの話。危険な旅だってこと」
「十分わかってるさ、それに俺の方が土地勘は詳しい」
ぼそっとブラストが自意識過剰だという。それに対し耳の良い狼のランスは、聞こえているとブラストを軽く突く。何するんだと今度は、ブラストがランスを突く。
まるでじゃれ合っているみたいにみえ、二人がギリギリ見える位置の遠くから芽衣は仲良くなったと、のほほんとしていた。
「チッ、とにかく俺は付いて行く」
「駄目」
「なんで!?」
「危険だから(お前がいると、素に戻れねーだろ)」
ブラストの心の声を読み取ったみたいに、ランスがお前の正体は知ってるんだからなと叫び、駄々を捏ね始めた。そんな態度にブラストは素に戻りたい気持ちを抑え、笑顔で答える。
「正体ってなに?やだな、ランス君も僕の事王子様だと勘違いしてるのかな」
「気持ちわりー顔だな、お前がメルフォン国末王子だって事知ってるんだよ」
「・・・違うよ」
「はっ!左右違うその瞳の色、お前知らないのか?この国では有名だぞ」
国民の噂の的も知らないのかと馬鹿にされ、ブラストは素に戻りたくても我慢した。いや、我慢はしたが素には戻れないのだ。何故か芽衣の前でしか自分をさらけ出せれない。
小さい頃から末王子として生きていき、唯一の魔法が使え更に若い。時期王様候補にもなるのではないかと、兄王子に仕えていた者達が暗殺しようとしたり寝返ったりしてきたからだ。
そんな暮らしをする事でブラストは穏便に、笑顔で対応し始めた。
「じゃあ、何故お気楽な王子と旅をしたいの?」
「お前とじゃない。メイがいるし、退屈してたからな」
「僕達はただ、旅をするのではないんだよ」
「わかってる。妖精探しだろ?」
何で知ってるんだとブラストが少し驚く顔に、ランスは答えた。
「俺だけ知ってるのは不公平だからな、教えてやる。俺は狼だ」
「狼?」
少し怪訝な顔をするブラストにランスは続けて話す。
「俺は百年生き、魔力を得た狼で人間にもなれる」
魔力を得たおかげで耳も更によくなって、昨晩の芽衣とブラストがこっそり妖精探しの話をしてる所を、聞き耳立てていた。
「悪趣味」
「なんとでも言え、どうだ魔力の持った狼は役に立つぞ」
自信満々にいうランスに、それでも駄目と言い放ち芽衣を探す。ギャーギャー騒いで付いて来るランスに、ブラストは心の中で鬱陶しいと心底嫌がった。
「何でだよ、どうせメイと離れた振りして城に帰ろうとしてるだろ」
「・・・」
「お前みたいな性悪男、メイも嫌だろうな」
「何がいいたいの?」
図星を当てられランスの勝手な言い分に、ブラストは顔を無理やり引きつり笑う。引っ掛かったと喜ぶランスに、完全にはめられてしまう。
「いくら強力な魔法が使えるからってメイ一人守れなきゃな」
「誰が守れないって?」
「軟弱王子は城でしか生きれないもんな」
楽しそうにランスはブラストを挑発する。顔は穏やかな顔をしてるが、野生の狼ランスには本能がある。ブラストの怒ってる空気がわかり、怖い怖いと益々挑発する。
まんまと、はめられたブラストは力任せに球体の光を両手に出し、ランスに向かって投げる。それをすいすい避ける為、笑顔の癖に怒ってるブラストは巨大な光を作り出す。
「ちょ、それ反則だろ!」
「こんなのも受け止められなきゃ、ついて来ちゃ駄目だよ」
ランスに巨大な光の球を投げて、今度は本当の心からの笑顔で笑っていた。ランスに向かって投げられた球は、ランスに当たると光は消え辺りの雪が強い衝撃で、目の前が何も見えない吹雪の様な状態に一瞬なった。
「ランス君ごめんね」
ランスが今どんな状態でいるかも知らず、雪のせいで視界が見えにくく怪我しただろうと、心にもない言葉を言うブラスト。
だんだん視界が見えやすくなると、人間の姿をしていたはずのランスでは無く、本来の姿である狼になっていた。
「いやー謝ってもらって悪いけど俺、丈夫なんだ」
「な、いくらなんでもあれ程の魔法なら・・・」
「俺、魔力を持ってるって言ったよな?王子様みたいな強力じゃないけど、戦闘能力は抜群」
狼の姿に戻れば、多少の戦闘なら生身で受け止めるほどの防衛力があるようだ。そして、にたーっと笑うランスは言う。
「受け止めたんだから約束通り、ついて行くぜ」
「約束はしてない」
「ダメダメ、こんなのも受け止められなきゃ、ついて来ちゃ駄目だよっていったの王子様!」
いつの間にか人間の姿になったランスは、鼻歌交じりで芽衣のいる場所へ向かって行った。その後ろで、悔しがるブラストは心の中で叫ばずにはいられなかった。
予約忘れで初のスマホ投稿。書いたのは、PCですが…久々投稿で設定ぐちゃぐちゃ。王子のキャラ面倒と今更後悔する私でした(。-_-。)