旅と迷子と狼さん
仏頂面ででブラストの前にいる芽衣。
「何?メイは、可笑しな事言うよね。僕の口調そんなに気持ち悪いのかな」
「はい、とっても気持ち悪いです。ですから、普通に、簡潔に、先程の、意見を、お聞かせ下さい」
一言、一言区切りさぁどうぞの言葉に、流石のブラストも引いてしまう。さあ、さあの言葉にブラストも観念したのか、妖精探しに行くと口に出した。その言葉に、直ぐ仏頂面は消え会社独自で決められた最後に、必ず『ありがとうございます』と、ブラストに言った。
「何が、ありがとうございますだよ・・」
ブラストの小さい声など誰も聞いていなく、ブラストはどっと疲れが出て来た。思わず妖精探しに行き、謝ると言ったがそんなつもりもない。そう思わせといて城を出た瞬間、芽衣を何処かに放置してやると考えていた。アーネスト達には、芽衣とはぐれてしまい見つけた頃には死んでいたと言うつもりだ。そんな考えを持ってるとは知らない皆は、特にアーネストだけが大喜び。
妖精探しなどしなくとも、ブラストが呼び寄せればいいのだが、妖精は怒ったせいでブラストの呼びかけは完全無視している。こうして、思いも寄らぬ二人の旅が始まる。
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「では一応、王子様と妖精探しに行ってきます」
「メイ様気をつけて下さいね」
「本当は、私達もお供したい所ですが人数が多いと、妖精も警戒してしまい」
アルの心配な言葉に、アンの行きたいが行けない説明に芽衣は問題ないと答える。魔法の使える王子様がいるんだから、何も心配はないと、アンとアルを安心させる。
「メイ、どうか王子を宜しくお願いします。これは、昨日老人の所から受け取った物です」
中身を確認すれば、この世界に来た時の服だ。服と言えるほどでも無く、下着に近い状態だから正直言って必要ない。しかし、渡された以上は無駄な荷物に加えなくてはいけなく、芽衣は荷物が増えて溜息を気付かれない様に吐いた。
「では先程も言いましたが、王子様と行ってきます」
良い旅路をと、アーネストの声が遠くから響いたが王子も芽衣もお互い無言のまま無視した。暫く歩けば、初めてこの世界に来た時の様に、雪が降って辺り一面真っ白だった。
「うわー、さむ。やっぱ城に居た方が良かった」
「何、我儘言ってるんですか。それに、何で私と居る時だけ口調が変わるのです」
「何でって、何でか知らないけどメイがいると素に戻る」
(本性は、アーネストさん達も知っていると思うけど)
芽衣の前だけ、口調が素に戻るとブラストは言う。腹黒なのか二重人格なのか、芽衣にはわからないがブラストと一緒にさっさと、春の妖精を探し謝って自分の世界に帰りたいと思った。
命の危険とかでは無く、ブラスト自身が面倒な人で疲れるからだ。
「寒い、寒い、寒い」
「暑いと言えば暑くなるんじゃないですか。それに、王子様は魔法が使えるのでしょ?」
魔法で、温かくする事ぐらいすればいいのにと芽衣は、煩いブラストを見る。
「魔法で雪が止まれば、春も来るだろ。それと、一々堅苦しい口調やめろ」
「堅苦しいですか?いつも仕事ではこんな感じなのですが」
「短い付き合いだろうが、仕方ないから許可してやる」
「何偉そうに言ってるのです?私は、このままの方が楽なので、このままでいいです。」
ブラストが許可しようと、芽衣は自分は敬語が楽だと普通に話さなかった。それが、気に入らないのかブラストは、また文句を言う。
「お前、普通でいいと俺が言ってるだろ!」
「一々、文句ばっか言うの良くないですよ」
「メイ、俺の事王子だって思ってるか?」
「優しくない、腹黒、そんな人は王子様に思えないです」
ずばっと切り捨てる言い方に、ブラストは腹が立つ。魔法で脅してやろうと思ったがそろそろ、芽衣とはぐれた振りして数日は何処かに隠れようか悩み、ちょっとの間立ち止まる。そして、いざ実行しようとした時、芽衣の姿は居なくなっていた。
「はぐれた振りするって思ったら、勝手にあいつから消えた。ムカつく」
***
「王子さまー・・・迷子になるとは、あの人もいい加減にしてほしいな」
無機質にブラストの名前を呼ぶが、何も聞こえないので仕方なく来た道を戻る事にする。幸い、足跡はまだ残っていて、自分の足跡を辿り戻った。足跡が残ってる所まで戻ったが、ブラスト本人も何もいない。芽衣は溜息を吐き、どうでもいいかと考え直し再び進む。
(魔法使えるし、野垂れ死にする事はないはず)
ブラストの心配などする気も無い芽衣。地図を見ながら、今夜泊まる予定の目的の場所へ進もうとするが何せ、初めての異世界に芽衣自身も迷子になってしまった。ブラストには内緒にしていたが、アンが持たせてくれたお守りが役に立って、少しは体が温かいので寒さは凌げている。誰か居ないだろうか、周りを見ても道を尋ねる相手がいない。
「流石にやばいかも」
危機感など感じない態度に、芽衣は忘れていたブラストを思い出す。探しとけば良かったかな?と、自分の迷子に困ってしまい今更ながらに、ブラストを探し始めようとした。すると、ザクザク後ろから雪を踏み進み、こちらに近づいて来る気配がした。
「王子様?」
そこに居たのは、ブラストでも無く人間でも無かった。真っ白で碧眼の狼、芽衣のいた世界と少し違い、大きさが違う。明らかに巨大と言うのは大袈裟だが、ゾウぐらいの大きさの白い狼だ。
「あなたも迷子?」
普通に考え、大きな狼が自分の前に居たら驚くか、怖がる。だが、やはり少し変わってる芽衣は目の前の狼を怖がらないで、道を尋ねていた。
「大きな犬さん。迷子じゃないなら、道わかるかな?此処に行きたいの」
狼なのだが、犬と勘違いしていた芽衣。狼に地図を見せた所で、道がわかるわけがない。しかし、狼が襲い掛かって来ない大人しいと思った芽衣は、物は試しと地図を見せてみた。不思議そうに地図を見る姿に、格好良さの中に可愛さがあると、きゅんとなってしまう。
(あー、なんか可愛い。ずっと王子様の相手してたから、癒されるかも)
大人しい狼に、さり気無く頬?の所を撫でる。しかし、見た目と違い触り心地が想像していた感触と違って、残念に思った。ふわふわしてると思いきや、猫とは違って少し堅めの毛質だった。狼に地図を見せても分かるはずはずも無く、芽衣は地図を懐に仕舞い歩こうとした。
しかし、狼がそっちではないと言うかのように道を塞ぎ、こっちに来いと言う様な瞳で少し歩き立ち止まる。
「ついて来いって言ってるのかな?彷徨うよりマシか」
芽衣は、狼に誘われ後ろをはぐれない様について行った。後ろを付いて行けば勿論、狼のお尻が見える。お尻というより、尻尾が左右にふさふさ動いているので思わず、ぎゅっと握りたくなってしまう。芽衣は思いっきり、ジャンプして狼の尻尾を全体重をかけ掴む。
「ぎゅっっーー」
「あっ、ごめん」
ぱっと手を離せば、尻尾は小さくなり大きかった狼は、仔犬の様な小さな姿になって倒れていた。
「何する、尻尾をいきなり掴む女が何処にいる」
「えーと・・・此処にいます」
自分の顔を指し、大きな犬は何処に行ったのだろうかと思いながら、目の前で怒っている喋る狼に答える。狼は立ち上がって大きな溜息を大袈裟にしながら、芽衣の方をじっと見る。
「お前、さっきの狼は何処行ったかって思っただろう」
「いえ、狼では無く大きな犬と思いました」
「真面目な顔で言うな!犬じゃなく狼だ、わかったか?」
大きな狼は格好良かったが、小柄になって吠えている姿は可愛い。喋るのが余計だが、芽衣は自分の腕に抱き寄せて小さな狼を撫で始める。
「聞いてるのか?俺は純潔の魔力を持った狼だ」
「はいはい。聞いてますよ、可愛い狼さんですね」
「誰が可愛いだ!強く尻尾を掴んだせいで魔力が分散して、こんなみっともない姿に」
「どうでもいいですけど、寒くないですか?何か着る物を」
いくら狼でも寒いだろうと、生まれたての動物は母親が温めてあげるので、何か着た方が良いのではと掛ける物を探す。しかし、狼は芽衣の腕の中でもがいて抜け出す。
「俺は狼だから服など着ない。ガキ扱いするな」
「小さい姿では寒くないのですか?」
「魔力を少し使えば、寒くはない」
自信満々に言われても芽衣にとっては、問題だと気付いてくれない。だって、小さな狼が何か着ている姿など可愛いのだから。どうしたら、わかってもらえるのだろうかと悩んでしまいとりあえず、話を変えてみる事にした。
「そういえば、なんで道案内してくれようとしたのですか?」
「うん?何か変わった匂いがするから来てみればお前がいた。ただの気まぐれだ」
「そうですか・・・では、気まぐれで服を着てみては」
そんな事を狼に訴えている最中、上から何かが叫ぶ声がしながら落ちてきた。
「なんだ?」
「なんでしょう」
狼と芽衣は、落ちた所をじっとみる。狼は敵かもしれないと小さき姿だが、良く見れば牙が剥き出しで威嚇体制に入っている。小さな姿で牙を剥き出ししているのは、可愛過ぎてちょっと興奮している呑気な芽衣に気付かない狼は、芽衣を護ろうとしていた。
「あ、狼さん王子様です」
「王子って何処の王子だよ」
敵では無いですよと、芽衣はブラストの所まで駆け寄る。近くまで寄ったところで、雪の中からブラストの腕が飛び出て芽衣の腕を掴み、反動で芽衣は雪の中に顔を埋める事に。
「ふざけんなよ!勝手に迷子になりやがって俺の計画台無しだ」
「王子様が勝手に迷子になったのでしょ。人のせいにしないで下さい」
「はあ?メイは何でそんなに反抗的なんだ」
「元からの性格です。それより、王子様紹介しますね。さっき出会った狼さんです」
後ろにいた小さき姿の狼を、芽衣はブラストに紹介した。すると気付いた途端、面白いぐらいに態度が変わるブラスト。
(動物にまで態度変わるなんて本当、面倒じゃないのかな?)
「メイこの人は誰かな?どう見ても、狼では無く人間にしか見えないよ。お馬鹿さんなんだから」
「何言ってるんですか?王子様、どう見ても狼さん・・・じゃない」
後ろを振り向けば小さな狼姿では無く、二十四、五才の男性が立っていた。