可笑しな手紙
今日も一日、苦情対応窓口での仕事を終えた立花芽衣二十一才。毎日が同じ事の繰り返しでつまらない日々を過ごしている。たまに違うとすれば着々と齢を重ね大人の階段へと上って行き、二十代になってからは親からのお見合い写真が送られてくるだけ。そんな変わり映えのない退屈な毎日に、とても飽きていた。
「立花が担当させていただきます」
今日も可笑しな苦情を言う人間に対し、心を無にして対応する。一々気にしながら対応していては、この仕事は務まらないからだ。なるべくマニュアル本通りに接し、それでも通用しない相手には二年間鍛えられた話術で回避する。そして今日も一日仕事をして帰宅、郵便受けを覗いてチラシばかりの中にたまに請求書が入っている書類物を取り出した。家に着くなりシャワーを浴びて上半身裸で下は短パンの状態で、ビールを冷蔵庫から取り出して書類物を確認した。
一つだけ手紙のような封筒がある。差出人は不明、芽衣だけの名前が書かれていた。不思議に思いながら、悪戯と思い中身を確認する事も無く捨てた。しかし次の日も同じように手紙が届き、また捨てる。そして次の日も、またその次の日も手紙が届くので仕方なく中身を開けた。中身を確認すると、そこには短い文章で『あなたにお似合いの職業あります』そう、書かれている。馬鹿らしいと、直ぐに捨てれば次の日から手紙は来なくなった。ただの悪戯と気にしないで過ごし、数日で手紙の事を忘れた。
「はい、立花が担当させていただきます」
珍しく暇な日だった、芽衣のデスクの電話が鳴る。携帯電話で掛けているのだろうか、少し電波が悪い場所なのか声が途切れている。
「お客様、電波の良い場所に移動お願いします」
ぶつぶつと何やら話しているが、電波が悪いせいか何も聞き取れない。何度も話し掛けるが、相手も聞こえていないのか意味がない。仕方ないので、此処は一旦切らせてもらう事にした。どうしても苦情が言いたければ、もう一回掛けて来るだろう。その後、切ってしまった相手から電話が来る事もなく一日を過ごし、珍しく暇だった仕事業務が終了。芽衣にとって特別、退屈で時間が長く感じた一日だった。
ピロピロ、何とも寂しい携帯の着信音がなった。芽衣の鞄から振動と共に流れる着信、初期設定のままの状態で二年間寂しく過ごす。しかし二年間で着信が鳴ったのは両手で数える程、実家もしくは職場だけしか登録されていないので二つだけしか着信履歴はない。他は全て実家の住所と番号で登録していて、直接誰かから芽衣の携帯に掛けて来る事はない。なので、全て着信拒否している芽衣は、確認もしないで電話に出た。
「もしもし」
ノイズのような音がするが、何も声は聞こえない。知らない番号は必ず着信拒否のはずなのに、可笑しいと思いながら暫く待ってみた。しかしノイズの音だけがずっとしていて、何も話さないので諦めて切ろうとした瞬間。『あなたにお似合いの職業あります』その言葉だけ発し、電話は切れた。履歴を確認するが、先程の通話履歴がない。あまりにも使わないせいで壊れてしまったのだろうか?デジャブのような言葉に、今日は一体何なんだと早々に帰宅して眠る事に決めた。
郵便受けを確認すると、あの悪戯の手紙が入っていた。本来なら直ぐ捨てるところだが、気が向いて中身を確認する。そこには短い文章で『我が世界へ招待します』以前とは違う言葉が、書かれており芽衣は馬鹿らしくて捨ててしまった。
プロローグみたいな感じです。
初めての異世界トリップ作品です。温かい目で読んでいただければ幸いです