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五日間の逃走  作者:
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泥棒

初めまして。初めての投稿です。文に変な部分が多々あると思いますが、よろしくお願いします。できるだけ毎日更新できるよう頑張りたいと思います。

 ――今日は、とても月が綺麗だ。

 そう思いながら、窓から空を見上げる。月はいつもよりも大きくて、雲一つもかかっていない。そういえば、今日は昼から快晴だった。

 ……いや、月に見惚れている場合じゃないだろう。気を取り直して、引き出しの中を探る。

 ここは失敗だったようだ。金目の物は無くて、日記帳や写真などしか入っていない。金目の物は大切だから、もっと奥の部屋に隠されているのだろうか?

 ゆっくりと歩き、奥の寝室に向かう。今日はここの主人は旅行中らしいので、帰ってくる心配はないのだが、一応念のため。隣近所に怪しまれたりしたら色々と面倒くさい。俺は面倒くさいことが嫌いだった。

 寝室のベッドの横にあるドレッサーの引き出しを開ける。だが、やっぱり金目の物は無くて、化粧品ばかりが入っている。

 はぁ。小さくため息を吐くと、俺は入ってきた窓の枠に座った。やっぱりここは失敗だったか。あいつめ、嘘の情報を教えやがって。

 だが、あいつの情報を信じてしまった俺も悪い。これからは自分で調べて自分で忍び込もうと決めた。

 窓を開け、素早く出ると、庭に着地した。フードを被り、塀から外に出る。

 外には誰もいない。近くのコンビニには調子に乗っている不良は屯っていなく、コンビニの中も客はあまりいないようだ。

 今日は、ラッキーだな。

 そんなことを考えながら、この家から五十メートル先ぐらいに置いておいたバイクの元へ歩く。

 バイクのところに行くも、誰ともすれ違わなかった。別にどうでもいいことなのだが、なんだか妙に気になってくる。まぁ、どうでもいいか。

 ヘルメットを被ると、バイクのキーを挿してエンジンを入れた。

 ブオォォンッ、ブオォォォンッ。

 夜の道路をバイクで走るのには慣れたので怖くないのだが、人が少ないことには少しビビる。

 エンジンの音を大きめに鳴らせながら、俺は家に帰った。




 家に帰ると、もう午前三時になろうとしていた。

 この職業に就いてから、俺の生活はガラリと変わった。昼と夜が逆転している。夜は普通に起きているが、昼は昼の三時ぐらいまで寝ている。飯も一日二食になりつつある。

 俺は五階建てのマンションに住んでいる。意外とここのマンションは家賃が安くて、助かっている。部屋も広いし。まぁ、仕事から帰って来たときに少し目立つということが欠点だが。

 俺の階は一階の一番端である。鍵を開けて中に入ると、入ってすぐに七畳半ぐらいの部屋。それと、トイレと風呂場が付いている。マンションといっても小さめだから、部屋も小さめだ。まぁ、俺にとってはこれぐらいが十分だ。

 靴を脱いで部屋に入ると、冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを取り出し、一気に半分まで飲み干した。

 ペットボトルを冷蔵庫の中に戻してから、暑苦しい黒いパーカを脱ぐ。六月に分厚い生地でだぼだぼの黒いパーカはさすがに暑い。夜の六月は蒸し暑いので、黒いパーカの中はサウナ状態と化していた。

 暑苦しいパーカを洗濯機に入れると、シャワーを浴びるために風呂場に入った。

 シャー、と温い湯を頭から被る。ふと鏡の自分を見ると、前よりか痩せたな、と思った。これもこの職業に就いてからである。何せ、一日二食で間食は無しだ。そりゃあ痩せるだろう。

 軽くシャワーを浴び、さっぱりしてから着替え、やっと床に座った。

 携帯を操作して、あいつの番号を探し出す。普通ならこの時間に電話をするのは非常識だが、あいつのことだろうから、今の時間は起きているだろう。

 電話をかけると、あいつはワンコールで出た。

『……はい、もしもし。』

「俺。」

『ああ、君ね。どうしたの、こんな時間に。』

「………」

 お前の情報通りに家に忍び込んだけど何も収穫が無かったんだよくそが! とは言えない。一応、情報をくれたんだから、そこは感謝しないといけないだろう。……いや、待て。情報は貰ったけどいい情報じゃなかったし、ていうか行かなきゃよかったという気持ちが多いのだが、こういうときはどうするべきなんだろうか。

 そんなくだらないことを考えていると、通話口の向こうから大きなあくびが聞こえた。

「……寝てた?」

『ん? ああ、ちょっと寝かけてた。』

「珍しいな、こんな時間にお前が寝るとか。」

『この頃肌の調子が悪いんでね。早寝早起を習慣にしようと思って。』

「ふーん。」

 ……って! 俺は何を呑気に世間話をしているんだ!

『何か用があるんだろ? 早く言ってよ。』

「……お前の情報通り、行ってきたぞ。」

『ほう。で、どうだった?』

「何も無かった。金目の物なんてどこにも無かったぞ!」

 怒鳴ると、通話口の向こうで小さく「うるせえ」という声が聞こえた。

 ……ん? あいつの声とは少し違う。低くて、ていうか、男の声で……。

「……お前、今、誰といるんだ?」

『友達。』

「……何の友達?」

『プライベートだからノーコメント。』

「……あっそ。」

『今寝起きで機嫌悪いから、怒鳴るんだったら昼間にしてくれない?』

 迷惑そうな声に苛々する。

 今、俺はあいつに苛々しているというのに。こいつと喋っていると、苛々の上にさらに苛々が重なって、俺はいつも苛々してしまう。

 怒りっぽい性格というわけではない。全てはこいつが悪いのだ。

『うーん、おかしいね? 情報は確かなものだよ。』

「赤い屋根の家だろ? 白い車が停まってて。」

『は?』

「え?」

『……君、間違ってる。白じゃなくて黒だよ。』

「は? 嘘だろ!?」

『本当だよ。まさか間違えて入ったとか? うわ、それはお疲れ様。良かったねえ、間違って入った家に誰もいなくて。』

「………」

 自分の間違えだったということに気づき、何も言えなくなってしまった。

 くそ、負けたみたいで何か悔しい……。やっぱりあいつの情報は確かだったのか。これは謝っておいたほうがいいのか?

 いや、あいつに謝るなんて死んでも嫌だ。もしも今、俺が誰かから「死ぬ」か「あいつに謝る」という二択を迫られたら、俺は即答で死を選ぶだろう。

『何? 勘違いで怒られたってわけ? うわー、それは無いよ。』

「………」

『黙ってないで何か言ったら?』

「……ん。」

『え? 何て?』

 あいつはちゃんと聞こえていたはずだ。あいつの声、必死で笑いをこらえているようだから。このくそS……。

 くそ、謝るなんて死を選んだのと同じだっつうの……。

 しかし、ここで謝らなければいけない。そういう空気が作られてしまった。その空気を破ることはできるが、後からねちねちと言われるのは面倒だ。

 俺はすうっと息を吸うと、通話口に向かって深夜だということを忘れて思いっきり怒鳴った。


「悪かったな、すみませんでした!!」


 少ししてから、電話口から不満そうな声が聞こえた。

『……耳痛いんだけど。』

「知るか。」

 言ってから、はぁ、とため息を吐く。

 屈辱だ。

 何で俺が謝らなくちゃいけないんだ。いや、俺が悪かったんだけども。

『あー、耳痛い。じゃあ、明日も会おうか。明日は何時からならいける?』

「……昼からだったらいつでも。」

『じゃあ昼二時に駅前のファーストフード店ね。おやすみ~。』

 俺がおやすみを言う前に奴は電話を切った。

 プー、プー、プー。

 空しい音が狭い俺の部屋に響く。今すぐに携帯を床に投げつけたい衝動に駆られるが、一応ここはマンションである。大きな音がしたら近所迷惑だ。いや、さっきの俺の怒鳴り声も十分近所迷惑か。

 ゆっくりと立ち上がると、冷蔵庫から飲みかけのお茶を取り出し、残りを一気に飲み干した。適当に近くにあったゴミ袋にペットボトルを放り投げ、ソファーに寝転んだ。

 寝転ぶと、何だか眠くなってきて、視界がぼやけてくる。大きなあくびが出た。

 明日の約束は、二時からだっけか。

 うとうととしてきて、クッションに顔を埋めると、案外早く眠気は俺を包み込み、俺はすぐに眠りについた。





 朝起きると、時刻はもう正午を回っていた。

 待ち合わせの時間まではまだまだ時間はあるが、起きて用意をしておこうと思って、ソファーから起き上がった。

 あくびを噛み殺し、洗面所で顔を洗ったり歯を磨いたりをしてから、適当に服を着替えた。

 オシャレなんてどうでもいい、と思っている俺は、無難なTシャツにジーンズを着ると、ソファーに座ってからテレビをつけた。

 ちょうどニュース番組をやっており、殺人事件のことについてアナウンサーが機械のように原稿を読んでいた。


『昨日、夜中二時半頃、××町の住宅地で殺人事件が起こりました。被害者は豪邸に住む五十三歳の女性で、刃物で身体の数箇所を刺されたような後が残っており――。』


 物騒な事件だな。それよりも、こっちの豪邸に侵入すればよかった、と思う俺がいる。考え方も昔とはガラリと変わった。まぁ、そういう考えじゃないと生活ができなくなるから。




 ――俺の職業は世間的には良くない部類に入るものである。

 夜中にこっそりと無人の家に忍び込み、金目の物を目当てに家の中を荒らして、金目の物だけを取って出ていく。

 そう、俺は泥棒だ。

 一応今年で二年目だ。

 俺がなぜ泥棒になったのかは、そんなに深い事情はない。両親が亡くなってしまってから俺は高二から一人暮らしで、いいバイト先はないだろうか、と友達に相談したところ、友達はにやにやしながら俺に言ったのだ。


『いいバイト、知ってるぞ。』


 それは、ある人の情報を頼りに動けば一仕事で軽く十万は貰える、という内容で、それはおいしいと思って友達に飛びついた。

 今思えば、そんなおいしい仕事なんて無かったのだ。そのときの俺は本当にギリギリだったので、何も考えていなかった。

 だから、俺は何も疑わなかったし、素直に友達の話を信じたのだ。

 友達に連絡をとってもらい、書類にサインと判子を押して、それを持って指定された場所に行った。

 そこには、驚いた顔をした「あいつ」がいた。

「あいつ」というのは、昨日電話をしていた俺に情報をくれていた「あいつ」である。

 俺よりも身長が低いあいつを見て俺は少し驚いていた。どう見ても俺より年下にしか見えなかった。

 それに、「仕事をしている」ような雰囲気が一切感じられない。

『えっと……。』

 もしかして場所を間違えたのでは、と思っていると、あいつは俺に歩み寄り、俺の持っていた書類を奪った。

 書類の内容を確認すると、満足そうに頷き、あいつは笑った。

 今思い出すと、あいつのあの笑顔は悪魔の微笑みに間違いなかった。


『今日からよろしくね、新入りくん。』

『えっ、あの、これってどういう仕事なんでしょうか……。』

『君、何も聞いてなかったの?』

 はい、と返事をすると、あいつは可笑しそうにケラケラと腹を抱えながら笑った。

 何で笑われているのかわからなく、呆然とそいつの顔を見ていると、そいつは目から涙を流す程笑ってから、「ごめんごめん」と言って笑いをやめた。


『簡単に説明すると、君の職業は今日から「泥棒」です。』

『……はぁ?』


 何を言っているんだ、この人は。

 泥棒? 俺が今日から? は? 頭の中は混乱し始めて、今の状況が把握できない。

『僕が君に情報を教えてあげるので、君はその情報を頼りに指定された家に行って、お金になりそうな物を盗んで僕に渡して。そうしたら、それなりの金額をお渡しします。』

『ちょ、ちょっと待てよ!』

 そんな職業だとは思わなかった。

「帰る」と言ってそいつに背中を向けると、そいつはにやにやと嫌な笑みのまま俺の前に回りこんできて、ひらひらと書類を見せた。

 見ろということだったらしく、仕方なく書類を見る。

「仕事を放棄するなどということがあれば、こちらでそれなりの処理をするのでお任せください。」と書かれており、一気に不安になった。

 それなりの処理って何だよ!

『処理って?』

『例えばこの書類をネットで公開するとか。たちまち君は有名人になるよ。高校生が泥棒に就いたって。』

『俺は泥棒になるとか言ってない!』

『でも、ここにサインしちゃったんだから、やらなきゃ。』


 悪魔の微笑みを顔に貼り付けながらあいつは言い、最後にトドメの一言。


『放棄するなんてことがあったら、どうなるかわかるよね?』


 最高の脅し文句をブッ込んできた。

 ネットで公開とか、よくわからないけどやばい。身内はもう俺以外には知っている範囲ではいないので迷惑はかけないはずだが、こういうことがネットに公開されてどこかのメディアに目をつけられたらネット内で「高校生が泥棒に」だとかで話題になり、すぐにニュースとかに採り上げられたり、とか……。

 昔の俺はそんなことを考え、渋々「泥棒」という最低な職業に就いたのだった。




 ――ボーっとそんなことを考えていた。あれから二年。早いような、遅いような変な感じだ。

 まぁ、そこから生活が安定したのは事実だ。

 アパートからマンションに引っ越したりもして、金に困ることはなくなった。やっていることは最低なのだろけど、もう慣れてしまった。

 それに、捕まったとしても俺だけの問題だし、どうせ死んだってもうやり残したことはない。

 死刑、ていうことは殺人とかしない限りないとは思うけど……。

 ふと携帯の時計を見ると、十二時半。待ち合わせの時間までまだ時間はあるが、駅までは少々時間がかかるので、俺はもう家を出ることにした。

 あいつは飯を奢ってくれたりするのだろうか、だとか考えながら、マンションを出た。

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