lemon10 moon lovers
「来てたか」
後ろからリンとした声が聞こえた。
「呼んだのセンセでしょ」
「そうだが」
結局無理に車に乗せられ、おくってもらうハメになっている。
2度目の長谷川carはやっぱり真っ暗で。気を許すまいとして黙りこくってると。
「前にも言ったが。しゃべれ。お前が黙ってると気味が悪い」
あーそうですかっ。しゃべりゃいいんでしょ。しゃべれば。
でも、、、
「そんなこと言われても。話すことなんてないし」
ミラー越しにみると長谷川と目が合ってしまった。
「前……前見て運転してくださいっ」
「何だソレ」
フンと鼻先で笑われてしまった。
運転しているその目は何か遠くを見つめているようで自然と引き込まれていく。
「……なんで…キスなんかすんのよ」
「……お前はなぜだと思う?」
質問に質問で返されてしまった。
「何度キスしても気づかない。いくらヒントをやってもわからない。そんな女に惚れた俺が悪いってか」
は…?
いきなり独り言のように話しかけてくる。
気まずい沈黙の後、停車した車。
それは初めて長谷川に送ってもらった日と同じで月があたし達を見下ろしている。
ふと、真剣な顔つきの長谷川が向き直った。
「他の女と手を切ればいいのか。付き合ってくれと頭を下げればお前は俺のモノになるのか」
月明かりの下。前髪のしたからあたしを覗く。
「…なんで…あたしにきくのよ…」
すこしだけ。分かってしまった答えに。 あたしはうろたえた。
「珍しく察したか」
月の光に反射した二つのビー玉が真っ直ぐあたしを見つめる。
まるでこれから起きることを暗示するように一際月が輝いた。
「……べ、べつに?…あたしはなにも…」
しどろもどろになってあたしは答える。
だって…長谷川の好きなヒトがあたしだなんてありえないでしょ。
「この期に及んでまだとぼけるか」
とぼけるって。そんなこと言ったって自分からなんて聞けないしさ。
「別に。とぼけてません!」
「なら。__お前のたどり着いた答えを言ってみろ」
有無をいわさぬような鋭い声。
「-------だから、、、センセが---スキな女の人って----好きなのは………」
そこで言葉は切れた。
正しくは切られた。
また__3度も触れられたソレがあたしに近づく。
もうそれがキスだと分かっていたのに。
あたしには目の前の体を押しのけることも、拒むことも可能だったのに。
そうしなかったのは____多分イヤじゃなかったから___だと思う。
この瞳に見つめられてこれほど甘い蜜に絡め取られると
もうあたしは動けない。
力の入らなくなった腰を長谷川が支える。
-----そっと唇が離れていく。
目の前の唇が三日月形に弧を描いた。
「約束、しただろ。俺の女になるまではキスしないと」
「その相手があたしだなんて聞いてないしっ!!センセの女になったつもりもないしっ!」
「お前が帰らなかった時点でそういう答えだと受け取ったが」
どんな脳みそしてんのよ!!
なんて強引。なんて高慢。
でも___
「俺の惚れた女は__お前だ_光環」
ズルイよ。そんな顔でそんな声で。
しかもこんなことまで要求するなんて。
「だから___お前も俺に惚れろ」
何それ。めちゃくちゃじゃない。
そんな勝手な__あたしにだって決める権利はあるのに。
そう心の中で必死に言い訳する。
ちがう。あたしは長谷川なんてスキじゃない。絶対スキにならない。
決めたんだから。
「__光環___」
なんて名前呼んで。
そんなあたしと長谷川を月だけが見ていた。