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英雄目録フラーブルィ  作者: 蒼峰峻哉
ディアブロイ教団編
8/37

任務開始

 アキトとディランの再会から三日後。アキト・ディラン・リィンの三人は、シグライノの西に広がり、シグライノの属するセインクロムという国の領土でもあるレーオス砂漠と呼ばれる砂漠に居た。

 彼らの立つ場所の目の前には、大きな洞窟が口を開けている。

 この三人がここにやってきた理由はただ一つ。グレオ帝国を信仰する宗教団体を壊滅させるためだ。此処にやってくるまでにもその手の者は彼らに襲いかかってきた。もちろん、そういった者達はアキトとディランの二人に瞬殺されたのだが、それを影で支えた意外な人物が存在した。

「それにしても驚いた。リィン殿にこれほどの力があったとは……」

 ディランの驚き半分、感心半分と言った顔を見たリィンはくすりと笑った。

「特に何かした訳ではないんですけどね。気が付いたらこれぐらい出来るようになっていたんです」

 彼ら三人は洞窟前で一息つくと、リィンの力についての話を始めた。

 彼女がその驚くべき才能を発揮したのは、ほんの十数分前の事だ。




「本当に着いてくるのか? リィン殿」

 ディランが困ったようにそう言うと、リィンは妙に自身のある態度で返事をする。

「さっき説明した通り、わたしなら平気ですから」

「とは言ってもな……。まだ目にした訳ではないのだから、信用出来ん」

「まあまあ、そう言うなよディラン。何かあっても俺達が一緒なんだから問題ないだろ?」

 納得いかない様子のディランを横からアキトがなだめた。

 確かに彼の言う通り、最強の名高い黒衣の武神アキトと彼に迫る実力を持つディランの二人が揃っているのならば、リィンに危険が及ぶ可能性は限りなくゼロに近いだろう。しかし、ゼロに近いと言うだけで、必ずしも彼女を守り切れる保証はないのも事実なのだ。

 少しの間、ディランは眉間にしわを寄せて悩んでいた。ディランとしてはこの件とは無関係である上に、一般人である彼女を巻き込むことは避けたいと考えていた。

「………………分かった。気は進まんが、そこまで言うのであればいいだろう。出来る限りフォローはするが、もしもの時は自分で身を守ってくれ」

 しぶしぶリィンの動向を許可したディラン。リィンは嬉しそうに返事をした。

「それにしても、リィンは何で俺達に着いてこようと思ったんだ?」

 アキトは至極当然な疑問を口にした。いくら自分の力に自信がある者だったとしても、一般人であるならばこんな危険にわざわざ首を突っ込むようなことはしてこない筈だ。

 その問いかけに対して、リィンは一瞬答えに困ったように笑った。そして何やら言いにくいような、はたまたどのように言えばいいのか分からないといった様子で、言葉を探しているように見えた。

 そうしてリィンの口から出たのは意外な言葉だった。

「何故だか分からないんですけど二人に着いていかなきゃならないような気がして……。あははっ、自分でもよく分からないんです」

 そう言ってリィンは自嘲気味に笑って見せた。

 ディランはそんな彼女の言葉を怪訝けげん顔をして聞いた。だが尋ねたところで答えも出ないだろうと、何か追及する様子はなかった。

「――――ん? アキト、何を呆けているんだ」

 リィンの言葉を黙って聞いていたアキトだが、何やら様子がおかしい事にディランは気付いた。いつもの掴みどころのないような雰囲気ではなく、何か思い詰めたような様子のアキトは、数年前から彼を知るディランでもあまり見た事がないものだった。

「いや……。何でもないよ」

「……そうか、それならさっそく準備をして奴らのアジトに向かうぞ」

 まだ怪しむような顔のディランであったが、すぐに切り替え任務の準備を始めた。それに続いて、こちらも先ほどまでの様子は微塵も残っていないアキトが準備を始めるのであった。




「暑いなぁ……」

 砂漠を歩くアキト達、グレオ信奉教団討伐隊。メンバーの三人は砂漠の暑さに汗を流していた。

 目的地の洞窟まではまだ少し距離がある。だがここは既に敵地なのだ。いつ敵に襲われるかも分からない状況の中、彼らは常に気を張り詰めていた。

「ん……? 止まれ二人共。目の前十メートル先に、魔法で何かを隠している痕跡がある」

「そのようだな、相変わらず鼻が効く男だ。リィン殿、暫しの間そこでじっとしていてくれ」

「わ、分かりました」

 リィンが見ても、そこにはただ砂漠が広がっているようにしか見えなかった。だが、言われてみると何やら靄のようなものがかかっているようにも見えるし、非常に僅かだが魔力のようなものも感じた。アキトやディランには、そこに何かがあるのがはっきりと分かるようだ。その存在に一番に気付いたアキトは、やはり流石と言うべきか。

 まず、アキトが剣を抜いた。それに続いてディランが抜刀する。二人は剣を構えた状態で一歩ずつ前進していく。

 ここで動きがあった。アキトが構えた剣を横合いに振り払ったのだ。

 凄まじい速度で振るわれたその剣は衝撃波を生み出し、それは彼の前方へと放たれた。リィンはその行動を見て、直感的に彼が何をしているのかを感じ取った。

(魔法を使わない純粋な力だけで、隠蔽いんぺい魔法を破るつもりなの……!?)

 直後にリィンの予想通りの事が起きる。

 アキトの剣により一閃された目の前の空間に亀裂が走り、ガラスの砕けるような音と共に隠蔽魔法が解除されたのだ。

 しかし、魔法の解除されたその空間には誰も居なかった。代わりに姿を見せたのは、何やら四角い謎の物体――――。

「――――!!」

 後方で一部始終を見守っていたディランが目を剥いた。

 直後に閃光が走り、爆音と共に辺りを炎が包んだ。凄まじい火力を誇る炎は辺りを焼き払っていく。この爆炎にアキト達三人も例外なく巻き込まれる。

「……これは、障壁か?」

 炎の中からディランの声が聞こえた。

 炎に焼かれ、骨も残さず燃え尽きてしまっている筈の三人は、怪我一つない状態でその火中に佇んでいたのだ。

 彼らを守ったのは、魔法で造られた障壁だった。それも多少魔法の心得がある程度では張る事が出来ない、かなり高度な障壁だ。

 それを張ったのはアキトでも、ましてやディランでもない。そう、その人物こそ――――。


「……何とか間に合った」


 二人の背後で右手を構えたリィンがぽつりと呟いた。その顔には安堵の表情が浮かんでいる。

「これはリィンが張ったのか?」

「はい、間に合って良かったです。それと、必要ないかもしれませんが今の内に身体能力強化の魔法もかけておきます」

「これは驚いた……。これほどの障壁を一瞬で張り、おまけにここまで効果の高い強化魔法をも扱えるとは……。大したものだ」

 素直に驚いたと言った顔をしたディランがリィンを称賛した。アキトもにやりと不敵に笑っている。

「これで分かってもらえましたよね? わたしなら大丈夫ですから」

「あぁ、信用出来ないなどいって済まなかった」

「そこの二人、話なら後にしてくれないか? 新手がやってきたみたいだぜ」

 アキトの言葉を聞き、二人が辺りを見回すといつの間にか彼等は完全に包囲されていた。

 白いローブを着て全身を隠しているその者達の胸の辺りには、何やら紋章のような何かが描かれている。それは今は亡きグレオ帝国の国章だった。つまり、この集団は十中八九グレオ信奉教団の構成員だろう。

 各々が剣や槍などの武器、果ては魔具で武装をしているおり、話し合いが通じる雰囲気ではないのは明白であった。

「多いな……。だが、俺達ならば問題はないだろう」

「リィンは自分の身を守っていてくれ。巻き込まれたら大変だ」

 じりじりと教団員が歩み寄ってくる。ディランは小さく笑い、リィンは緊張しているのか大きく深呼吸をしていた。

 非常に心強い二人がいるとはいえ、敵地に自らやってきて、おまけに今はその敵に完全包囲されている状態なのだから、今までこのような命に関わる状況に立ち会った事のない彼女からすれば、かなりの不安が襲っているに違いない。

「さて――――ちょっくら道を開けてもらおうか!!」

 開口一番、アキトが敵に目掛けて一直線に突っ込んだ。それに続く様にディランも地を蹴った。

 前方に並ぶ教団員達は、反撃をする余裕もなく吹き飛ばされ地に伏せた。後方で待機しているリィンは自身の周りに防御障壁を展開させて身を守りつつ、二人の死角から襲いかかる魔法を防ぐといったサポートに徹している。

 彼女の行動に気付いた二人は、それぞれ感謝の言葉をリィンに告げる。

「遅すぎるな。止まって見えるぞ!!」

 ディランの動きがより一層速くなる。残像が尾を引くほどの速度で、ディランは教団員を次々と斬り伏せていった。

 ディランから少し離れた位置ではアキトが戦っている。彼は先日ディランと闘った時のようなスピードを駆使した戦い方とは違う、非常にトリッキーな戦法を取っていた。

 格闘を織り交ぜて剣を振るい、時にはその剣を手から離し、フェイントを入れ逆手で剣を握ってから斬るなど、見切るのは容易ではない動きで次々と教団員を戦闘不能に追い込んでいった。

 リィンが手助けをするまでもなく、アキトとディランの活躍により教団員の数は次々と減らされていった。




 戦闘開始から僅か三分。

 刺客として送り込まれたグレオ信奉教団の面々は全滅していた。リィンが自分の身を守っている間に、アキトとディランの二人が全て片付けてしまったのだ。時折撃たれた魔法から守るといった事をしてはいたのだが、それもいらぬ世話だったのかもしれないと、リィンには思えてしまう。

「本当に、同じ人間がやった事なの……?」

「失礼な奴だな。俺達はしっかり人間だぜ?」

 半分呆れた様子でぽつりと呟いたリィンの元へ、剣を収めたアキトが近付いてきながら声を掛けてきた。

 アキトの言葉通り、姿はれっきとした人間だが実のところはどうなのか分からないと、リィンは秘かに思ったのであった。




「――――さて、休憩は終わりだ。さっさと奴らを片付けて帰ろうではないか」

 話に区切りがついたところで、ディランが洞窟を一瞥いちべつして言った。ディランの言葉にアキトも笑って賛同をする。

「そうだな。早く帰ってのんびりしたいぜ。お前たちとも色々話したいしさ」

「わたしも、お二人の話とか聞いてみたいです」

「よし……。突入だ!!」

 ディランの叫び声を合図に、三人は洞窟の中へと足を踏み入れた。

順調に洞窟を攻略していくアキト達。

そんな彼らの前に、遂に教祖が姿を現した。


「お前達は今から、自分自身と戦う事になる」


教祖の放った奇妙な術により、自身の分身と戦う事になった三人。

自分と全く同じ力を持つ分身に、アキト達は勝利を収める事が出来るのか……。


「自分というのは、越える為にあるもんだ」


次回『己を越えろ』

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