賑やかな心霊スポット
「今年は鉢尾村の心霊スポットを調査します」
部長の山西(仁美)さんが高らかに宣言した。
寛永女子大のホラ研では毎年この時期、恐いと評判のお化け屋敷巡りを行っている。
それなのに今年は、心霊スポットの調査?
これは遊園地で人が演じているお化け屋敷とは、まったく別次元の恐ろしさだ。
「それはちょっと・・・」
「私もそういうのは・・・」
と、案の定、辞退者が続出した。
無論、私も辞退しようとしたが、「達川副部長と根本さんは強制参加!」と、襟首を掴まれた。
なんでも新聞部の夏の思い出特集に記事を提供する事になったのだとか・・・。
「副部長はともかく、何で私まで?」との質問もむなしく、
「根本美玖さんの抗議は却下します」と、あっさり拒否された。
そんな無茶な! と思ったが、昔から幼馴染の仁美には逆らえない私だった。
鉢尾村と言えば人口減で遺棄された村。
村内には数々のいわくつきの場所があり、それらの写真はインターネットで公開されている。
最近テレビでも放送された有名な心霊スポットだ。
「という場所だから、実はいつも賑わっているのよ。それに暗くなる前に帰るから」
達川さん運転の車の中で、仁美が私の肩をポンと叩いて笑った。
その言葉通り、鉢尾村に続く古いトンネルの入り口で肝試しに来たというOL、2人組を拾った。
「助かったわ。このトンネル徒歩で通り抜けるにはちょっと怖くて」
OLの一人がペロリと舌を出し、自分の頭をコツンと叩いた。
昼間からそれなら、肝試しになんて来るなよ! と、思わず突っ込みを入れたくなった。
さらに・・・、
村に入るといきなり別の見物客と出会った。
関西からやってきたというライダーで、「ここには死にに来たんやでー」などと冗談を飛ばした。
すぐにOL達とも仲良くなったようで、ぺちゃくちゃと会社の不満を話しだし、心霊スポット巡りの雰囲気は台無しにされた。
しかも、こうした不埒者は彼らだけではなかった。
昔、落盤事故で多くの犠牲者が出たという坑道前では、泥だらけの坑夫達が座っていて、こちらを睨んだので、さすがに「ギャッ!」と驚いたが、彼らはその様子に大笑いして足をバタつかせた。
どうやら、心霊スポット巡りの人を驚かすコスプレのようだった。
そのコスプレでいえば、江戸時代の処刑場と言われる鉢尾の首塚では、古武士の衣装を着た人達がマイケルジャクソンのスリラーそっくりのゾンビウォークを披露していた。
また、元結核患者のサナトリウムだという村営の廃病院では、ナース・コスプレの女が顔に血糊を塗りたくった患者コスプレの男と仲良く話をしていたし、一家が皆殺しにあったという「惨殺の家」では親子連れが弁当まで食べていた。
「これじゃダメね。完全に観光地になってるわ。どこを写しても人が入るし・・・」
酔っぱらいの嬌声が響く中、それぞれの心霊スポットの写真を撮って来た仁美がぼやいた。
「かくなる上は・・・、美玖ちゃん、あんたこれを着てあの古井戸の前に立ちなさい」
渡されたのは真っ赤なワンピース。
実はこの古井戸も、赤いドレスの女が身を投げたとされる心霊スポットなのだ。
「もし背後に亡霊が写っていたらどうするのよ」
「だいじょうぶ。真昼間で、この陽気。そんなもの出やしないわよ」
「だったら、私が写真を撮るから仁美ちゃんがコスプレしなさいよ」
私としては、せいいっぱいの抵抗をしたのだが・・・、
「あんた、デジカメ以外の写真機を扱えるの? これ新聞部の一眼レフだよ」
と、言われれば仕方がなかった。
副部長の達川さんは私の後ろで、髪の毛を垂らし、同じ赤いワンピースを着てたたずむ役。
これって、完全なやらせではなかろうか。
でも、もしその背後に三人目の赤いドレスの女性が写っていたら・・・、
後日、新聞部の写真を見た時には最初ドキドキしたが、私とやらせの副部長以外写ってはいなかった。
それはいいのだが・・・、
各心霊スポットの前にいたコスプレ達も、肝試しのOLも、関西のライダーも親子連れも・・・、誰一人として写真には写っていなかったのだった。
( おしまい )




