2話 「異世界」
誤字などがありましたらお知らせください。
「はぁ~」
「ナイン、ため息つくと幸せが逃げるそうですよ」
「それは困りましたね」
「あとお金も逃げるそうです」
「旅をしてるものでそれは困りますね」
「そうですね~」
「現在の状況の方が困らないのか!?」
縄で縛られ、連行中の私とナイン。
わぁお。素行は悪かったけれど警察には捕まったことがない。捕まるのは初だ。”捕まった記念日”だね。今日は。なんて嫌な記念日。サイコー。
「つーか甲冑の人」
「甲冑の人!?」
「捕まえといてそんな質問するなんてお馬鹿さん?」
「ぐッ」
ぐははは。さっき私のことをバカって言ったお返しだわ!
するとナインが振り返ってきた。
「レイは執念深いですね」
「いつもは違いますよ」
これは本当。たとえ、いつも8割が嘘を言っているとしても。という言葉自体も嘘だよ。
おや。馬のいななき声。そういや……。
「それより思ったんですけれど、ここどこ?」
「そこから?!」
「甲冑の人は黙っていなさい」
「なッ!?」
「ここはエールシア王国の西国境近くの町ですよ」
「じゃあ、領主とかいるんですか」
「無視しないで!」
「あの開けた場所が領主の屋敷です」
「そりゃ、捕まりますね」
「そうですね」
「……連行されているというのにそんなことよく言えるな」
甲冑の人、あきらめたな。
__なるほど。つまりはここの兵たちは突っ込みができるという事か。これは重要。覚えておかなければ。突っ込みのないボケは悲しすぎるし痛い。
「待ちなさい」
連行されているというのにほんわか雰囲気が出来つつあったところに響いた声。
「りょ、領主さま!!」
「領主?」
「領主ですね」
あの馬のいななきはこの人の馬車とかの奴だろうね。見た目は仕事ができる人って感じ。大手会社に勤めていそう。私は派遣社員かな。
とか考えているとナインが愛想なんて知らないような無表情でその領主に向かって喋った。
「アレスタイン公、お久しぶりです」
相手はわざとらしく今気が付いたように、軽く眉をあげ答えた。
「これは”隠者”ではないですか。何捕まっているんですか」
「それ「隠者だって?!」だからですよ」
びっくりしすぎだ。甲冑の人。
「ナインかぶってるかぶってる」
「ごほん。それは兵たちが優秀だからですよ」
まぁ、優秀だよね。怪しい人物をすぐさま捕まえるなんて。
……”隠者”?
「レイ、今リアクション遅れたでしょう」
「なぜ分かったし」
はぁ~と領主さんがため息をつく。幸せと金が逃げるぞ。
「そちらの方も気になりますが、とりあえず拘束を解いてあげなさい」
「「はッ」」
手首に巻かれていた縄がほどける。短い間だったとはいえ痛いものは痛いな。手首をこすりながらナインを見る。
「状況がいまいち分からないのだけど」
「そうだね。とりあえず公。この子も含めてゆっくり話しませんか」
「そうですね」
「この子ってやめてくれません?」
屋敷の一部屋。
豪華の一言に尽きる。
目の前のケーキが。
「うまいっしゅね」
「食べながら話すのはマナー違反だよ」
「(ごくん)すみません」
けれどもほんとうにおいしい。マカロン、クッキー、チョコケーキ、チーズケーキ、マドレーヌ、マシュマロ、タルトタタン……種類豊富でそしてうまい。天国のようだ。
「__つまりそのレイって子が異世界から」
「そうです」
食べている間に話をしたみたいだ。
「では何か?」
「いえ、前のような方たちのように何かがあるわけではなくただ単に落ちてきたようです」
「前のような方たち?」
食べる合間に質問をする。
「魔物の多くが暴走して世界存亡の時、異世界から勇者がやってきたり」
「大災害がおき、飢餓者が多く出たとき異世界の農業の知識でそれを救ったりなどあります」
「へぇ~……」
やっぱりそんな感じか。にしても領主さんも律儀に答えてくれて。いい人だな。
「でも救うだけではないでしょう?」
「えぇ。魔物側につきこの世界を滅ぼそうとした人も」
「やっぱりね」
でなければ、ナインが私を警戒する理由が分からないしこの世界の服装をしてないからここの兵にも分かっただろうね。いいことばかりしている異世界の人であったら捕まえるなんてこともしないだろう。
「これからの私の待遇は」
「害はないことは分かります。この世界で生きられるように知識を与えます」
「なるほど。それで私の領地を」
「何か得があるんですか」
「ここは国境付近ですから多少の危険はありますが、そのかわり他国の情報も入りやすいですから」
「あーなるほど」
そりゃ、この国だけの知識だけではだめだよなぁ。
手に掴んだクッキーをパキンと割る。
領主さんたちの方ふと見てみると、領主さんが目を丸くしていた。クッキーを食べながら首をかしげてみる。その目のまま領主さんはナインへ耳打ちした。
「レイって子、頭回りますね」
「意外でしょう」
「意外です。変な子だと思っていました」
「オイ」
聞こえてるちゅーねん。失礼なことをさらりと言う人たちだ。全然いい人たちではなかったよ。こういうのが詐欺で使われるんだな。いかん。いかん。
「あとで苦情を並べてやる。それよりもあと一つ。__私は元の世界に帰られるのか」
「「…………」」
二人は黙り、顔を見合わせた。
あぁー……これはフラグだ。
最初に半分に分けたクッキーを食べ終わった。手に持っていたクッキーを口へ運ぶ。
それが口に入る前にナインの方が喋った。
「知る限り絶対に元に帰られる方法は、ない」
私はクッキーを落とすことなく口へ入れた。
そうか。ここは『異世界』だ。