青年が訪れる前の世界状態
番外編ですよ。
海が赤い。
学者たちによれば、魔力の濃度が濃い場所は視覚的に違うらしい。身体に影響などはないため、禁止区域には指定されていない。だが、偶然にもそれらの場所は海のど真ん中。船で30日、飛行魔術で10日かかる。
禁止区域にされていないにも関わらず、誰も存在しない赤い海。
そこには、光があった。青く、淡い光。
まるで、命のようだった。
「いいかい、我が孫よ」
「うん、おじいちゃん」
とある町の一軒家で、その家族は話していた。
「この世界にはな、オードという姓をもつ者たちがいるんじゃ」
「……オードって、イハンってやつでしょ?」
この世界では4文字以内の姓は違反となる。あるはずのない、姓だった。
「オード一族はな、世界にある柱のためにいるといわれているのだ。ほれ、お前さんに見せたじゃろう? 光る柱を」
「うん。確か、晴天の柱だよね」
光る柱。晴天の柱と呼ばれ、悲しみを使って、魔力を造る。さながら、工場のように。
工場のように。
工場のように、見せるために。
魅せる、ために。
「もし辛いことがあったら、悲しむのだ。そうすれば、晴天の柱が吸ってくれる。悲しむことは悪いことじゃない。わしらたちは、悪くないのじゃ」
「うん、分かったよ。おじいちゃん」
これは、青年が訪れる前の人々の会話。
愚かでしょう? あの家族。