*夢じゃない*
熱い。苦しい。でも、おでこだけ冷たい。なんだろ……氷とかじゃない。そんな冷たすぎるわけじゃない。ほのかに温かさもある。気持ちのいい冷たさ。なんだろ、これ。なんかすごく懐かしい。まるで、小さいころ熱を出した僕に清ちゃんがやってくれたみたいな感じ。そっか、これって手なんだ。でも、誰の手?朝貴?河合さん?それともパートの住吉さん?
「だ……れ……?……え?」
「っ……」
目を開いた瞬間、僕のおでこからその心地いい手が離れて行った。名残惜しい。けど、それよりも今は目の前に居る人。
「え、なんで……ここに……?」
「……」
「清ちゃん……だよね……?」
あの紫の頭じゃなくて、昔と同じこげ茶色の髪の毛。それ以外はほとんど変わってない清ちゃんがいる。5年ぶりの再会。でも、これって夢なんじゃないの?もう見あきたよ。清ちゃんに出会える夢なんて。そして起きるたびに悲しくなって泣くんだ。
「もう……やだっ……」
「っ?」
「夢の中で清ちゃんに会えたってしょうがないよっ……。会えるならっ……夢じゃない時にあわせてよっ……うぅ……ひぐっ」
「ゆ……き……」
そうつぶやいて、悔しそうにこぶしを握り締めた清ちゃんはそのまま立ち上がった。そして、僕が寝てる部屋――――それが実家の自分の家だとさっき気付いた――――からでていってしまう。それを見た僕は、ふとあたりを見渡し、そして自分のほっぺをつねる。痛い。あれ、痛いや。え、これって夢じゃないの……?違うの?
待って、もう、置いてかないで!!
「待って清ちゃん!!待ってよぉ!!」
もう風邪なんかかまわない。追いかけないわけにはいかない。だるくても勢いよく飛び起きる。そして部屋を飛び出し、立ち去ろうとしていた清ちゃんの背中にその勢いのまま抱きついた。びくりと震える、その体。やっぱり……これって夢じゃない。夢なんかじゃないんだ。
「待ってよ!!これ夢じゃないんだよね?本物の清ちゃんだよね?なんで?なんで行っちゃうの?い……忙しいなら……そう言ってって。そしたら邪魔しないから……。清ちゃんの邪魔したくないから……。っでも、でもそうじゃないなら……此処いてよ……。もう、置いてかれちゃうのヤダよぉ……」
「忙しくはないけど……。でも、俺……ここにはいられない……来る資格もないのに……。会う資格だって……話す資格だってないのに……」
「なにそれ?資格なんていらないよ?昔からずっと、資格なんかいらないじゃん」
「俺にはもう資格ないから……なくなったから……」
「黙ってアメリカ行っちゃったから?」
「っ……」
やっぱり。清ちゃんならそう思ってるんだろうって思ってた。勝手に決め付けないでよ。清ちゃん。そういう清ちゃん嫌いだな。