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さて。
今回から最終章になります。
しかも今回は清桜視点です。
前々話は本当に申し訳ありません。(まだ引きずってたりする)
夕貴にメールした後、俺は携帯をベットに放り出した。そして、リビングに出て、ソファに座る。目の前のテーブルに無造作に置いた茶封筒。まだ封を開けてはない。開けられない。何か起こる気がする。だがその中に入っている情報を知らぬまま過ごし、突然それに直面しないといけなくなるのもいやだ。ならもう取れる行動はただ一つ。俺は意を決し、封筒を開封した。
中に入っていたのは数枚の書類と、分厚いファイルだった。とりあえずファイルは横に置き、書類に目を通す。一枚は手書きで何やら書きなぐられている。2枚目は印刷で活字がずらずら並んでいる。そして何枚かめくっていくと、途中から英文に変っていた。もちろん、俺は英語も習ったから読むことに何の支障もない。内容もバッチリ理解できる。いや、読み取れる。けど、それを理解したくない。
「なんだよこれ……あのくそ親父……最初から……。くそっ!」
思わず、書類を投げた。だがその書類はひらひらと宙を舞い静かにテーブルや床に散乱したに過ぎなかった。静かな部屋で一人、沸々をわいてくる怒りに身を震わせる。こんな事態、想像してなかった。いや、想像はできた。だがそんなことにはならないだろうと顔をそむけていた。
『安物なんかじゃないよ……。ほんとにありがとう。僕大事にするね』
ほんの数時間前に、そう言って笑ったあの子の顔が浮かんでは消える。やっと、お互い好きだとわかったのに。俺は卒業するけど、それでも休みは必ず会いに行こうとか思っていたのに。今度は絶対悲しませないように守れると思っていたのに。
それをまたお前は全部おれから奪うのか。
それも、あの子を利用して。俺が逆らえなくなるとわかった上で。その時ばかりあの子の存在を利用するのか。あの子はお前らの道具じゃない。
「ざけんなよ……もう……。俺の好きに……させてくれよ」
今すぐ自宅に帰って、この諸悪の根源である父を殴れたら。どれほど気が晴れるだろう。だがそれすらできない。下手したらあの子に一生会えなくなる。
なら今から夕貴を連れてどこかに姿をくらませようか。
「無理な話だよな……うちはともかく、北條家から逃れるすべなんかない……。はははっ……打つ手なしか」
口からはもう、乾いた笑いしか出てこなかった。
ごめん、夕貴。俺また、夕貴の傍に入れなくなっちゃうかもしれない。それでも、君は許してくれるだろうか。さっきのメールのいつかは、俺としては医者になった時だから遅くても10年くらいだと思っていた。だけど、もうそれすら早い設定の気がしてきた。でも、どれだけ遠くに離れようとも、俺は夕貴だけが好きだからね。
もうすぐ暦が移り、別れの季節がやってくる。
前回とはうって変わって暗い話ですね。
幸せ満点のはずなのに、なぜかこうなったのはもう今後の展開がそうだからとしか言いようがありません。