*49*
僕は意を決して聞いてみることにした。これを逃したらまたいつ聴けるようになるかわからないしね。早くも食べ終わって紅茶を飲む清ちゃんに、僕は尋ねた。
「ねぇ清ちゃん、一個聞いてもいい?」
「なに?」
「清ちゃんは、進路どうしたの?」
「……」
ティーカップを持つ清ちゃんの手が、ピクリと揺れた。カップの中を見つめたまま動かなくなってしまった清ちゃんを見て、僕は聞いたことを後悔した。やっぱり聞くのはまずかっただろうか。
「あ……いや、いいんだ別に……言えないなら言えないでも全然。榊原先輩とか、静香先輩の進路聞いてたら清ちゃんはどうするのかな、って思っただけだから気にしないで」
「大学行くよ」
「ふぇ?大学?え、進学するんだやっぱり?」
「やっぱりって。まぁ、医者になるには進学するしかないじゃん?資格取らなきゃだし、だから医学系の大学行こうって思って。隣の市になるけどね。そこがいちばん近いから」」
「家に?」
「夕貴にだよ。大体実家に近いって俺には関係ないの。わかった?」
「え、うん。って、なんでぼく?」
「はぁ……なんでってねぇ。あぁ……まぁ、これが夕貴なんだけど……」
「ん?」
「そこの大学、結構難関だけど。進路課の先生はお前ならまぁ、行けるだろとか言われたしね。それでも一応念のために毎日勉強漬け。おかげで眠いし夕貴に会えないし……」
「この後も勉強?」
「まぁね」
寝てないんだ。そんなに必死なんだ。僕はここに朝貴の代わりとしてただ入れさせられただけで、正直受験はしてない。だから、受験がどれだけ大変でとか僕は知らない。だから、清ちゃんがこんなにも頑張ってるなんて思わなかった。
「清ちゃん」
「ん?」
「その……あんまり無理しないでね」
「え?」
「清ちゃんがお医者さんになるために頑張ってるのはすごいし、うれしいよ?でもね、そのせいで清ちゃんが病気になったり、元気じゃなくなるのは嫌なんだ。だから、その……無理しないで、寝る時間はしっかり取って、たまには休むことも大事でしょ?僕、清ちゃんがお医者さんにならなくてもいい。なってくれたらうれしいけど、でも清ちゃんには元気でいてほしいんだ……。ごめんなさい、受験前にこんなこと言われたくないよね」
「夕貴……」
何言っちゃったんだろ僕。でも、元気なのが一番っていうのは、僕が一番わかるから。清ちゃんには、いつも元気でいてほしいから。つい、言っちゃったけど。受験生に、ならなくてもいいとかそんなの言うべきじゃないよね。普通はここで頑張ってとか応援するのが普通だよね。あぁ、なんでぼく気が利けないんだろう。
そんなことを考えて、うつむいてた僕の頭に、清ちゃんの温かい手がそっと乗った。そしてそのままやさしく頭をなでられる。清ちゃんの手を頭に乗せたまま、頭を上げると、清ちゃんがにっと笑って立ってた。
「ありがとう。そうだね、詰め込みすぎるのも駄目だもんね。うん、今日は帰って寝ることにする。それに、無理はよくないし、寝込んで夕貴悲しませるのもいやだからね」
「清ちゃん……」
「あれ、悲しんでくれないの?」
「そんなわけないよ!」
「じゃ、もう遅いし俺は帰るね。夕貴も早く寝るんだよ、朝貴のケーキ食べないで」
「た、食べないです!」
「ほんとかなぁ。なんてね、じゃまたね」
「うん」
清ちゃんを玄関で見送って、僕は少し晴れ晴れした気持ちでお風呂に向かった。
やっと清桜でた。けどすぐ帰ってくって……
なんなのあいつは!!
ダメだこんなんじゃ……もっと距離縮まんないかなぁ……
今後の展開、今考えてるのだともう終わってる気がする……
あーどうしよう。