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そして土曜日。僕は学園から近い駅で、静香先輩を待っていた。そんなに風も吹いてなくて、いい日よりだと思う。これからどこに行くのだろうかと、期待を膨らませながら待っていた僕の所に、静香先輩が小走りでやってきた。
「ごめんね、待たせちゃった」
「いえ、べつに僕が早かっただけですから」
「んふふ、なんか恋人みたい。いまのやりとり」
「え!?」
「なんてね、ほんとは言ってみたかっただけ。淳と待ち合わせると、いつも僕のほうが早いからさ」
「なんとなくわかります」
「でしょ?じゃ、行こうか」
そして、静香先輩に連れられて着いたのは……。
「ケーキバイキング……ですか?」
「そう。知り合いからね割引券貰って。本当は淳と来ようかなって思ってたんだけど、今日部活あるっていうし……。これ、今日までだからもったいないじゃんね」
「それで僕を?」
「夕貴君、ケーキ好きでしょ?」
「はい」
「それに見かけによらず、いっぱい食べるから」
「見かけによらずってなんですか?」
「なんでもないよ。さ、行こう」
店内は休日ということもあって、結構な賑わいがあった。おかげで席に座れるまで少し待つことになり、ようやく席に座れたのは20分くらい経っていた。そして店内の光景に僕は目を輝かせた。
カラフルなケーキが何十種類も置かれている。ケーキ屋さんのガラスケースに入ってるそれの何倍もの種類のそれにそうならないわけがないよね。これ、好きなだけ食べて良いんだよね?
テーブルいっぱいに並べられたケーキは、二人で食べるような量を超えていた。僕らの席の横を通っていく人達が、思わず二度見して行くほどだ。でも大半は静香先輩が持ってきたんだよ。僕もいっぱい持ってきたけど、静香先輩も負けてないからね。しかも、味はものすごくおいしいんだ。来て良かった。
「ここのケーキ美味しいでしょ」
「はい!誘ってくださってありがとうございます!でも……なんか僕何もしてないですね。力になりたいとか言ってたのに……」
「そんなことないよ。一緒に来てくれただけで僕は嬉しいから。……ねぇ、夕貴君はお菓子好き?」
「大好きです」
「和菓子と洋菓子、どっちが好き?」
「え……。うーん……和菓子もお団子とかドラ焼きとか最中とか美味しいですし。洋菓子もケーキとかクッキーとかチョコとか……どっちも好きです!」
「だよ……ね。うん、だから僕、夕貴君好きだよ」
「へ?」
「友達とかそういう意味でだよ。どっちにも、それぞれの良いところがあるんだし。どっちも好きでいいじゃんね」
「?」
「ごめんね、わけわかんないこと言って。気にしないで」
「はい。……あの、静香先輩……」
「ん?」
「あの……いえ、やっぱりいいです」
「何々?気になっちゃうなぁ。聞きたいことあったら聞いてよ。夕貴君には答えちゃうよ」
「えと……静香先輩って、進路とか……」
「僕は専門学校かな。料理関係のね」
「料理ですか」
「そう。まだ、ね……淳にしか言ってないんだけど、僕さカフェ開きたいんだ」
「カフェ?」
「うん、自分の店を開いて、そこで料理と和菓子、洋菓子だしたいなって」
「静香先輩のお菓子美味しいですもんね」
「そう?あ、これ内緒ね?清桜には言ってもいいけど。親にばれたら邪魔されそうだし」
「そうなんですか……。絶対、カフェ開店してくださいね」
「うん、そしたら夕貴君来てくれる?」
「毎日通います!!」
「いいね、それ。ついでに接客頼んじゃおっかなぁ……メイド服で」
「えぇ!?」
それは遠慮していいかな。それにしても、皆いろんな進路なんだな……て、あれ?
「清ちゃんって、どうなんだろ……」
「え、夕貴君一番それ気にならなかったの!?」
「最近、本当に会えてないんです。だから聞く機会もなくて……。電話とかでもいいかもしれませんけど……」
「邪魔しちゃ悪いなって?夕貴君、気を使いすぎだよ?ここに受験生で勉強してない奴もいるんだからさ」
「いや、それは……その」
「まぁ、ちょこっとなら息抜きも必要だし、電話してあげてもいいんじゃない?清桜なら夕貴君には怒らないだろうしね」
「そうですね」
*** *** ***
近衛家。実家とも言えるそこに、俺はまた足を踏み入れることになっていた。
清桜どこ行った?
あれ?丸っきりでてこないし静香先輩だけってどういう……
話の関係上、どうしても清桜と夕貴をからませずにすみません。
次回、清桜でてきますので……たぶん。
今回のラスト一行にも出てきましたしね