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夕焼けに桜咲く  作者: 朝比奈 黎兎
第7章 それぞれの進路
47/73

*46*


 その人は、僕だとわかったとたん、その腰を上げて僕に抱きついてきた。膝で立ち、僕のお腹に顔をうずめて泣いていた。どうしたらいいかわからない僕は、少し戸惑った。だけど、いまだ泣き続けているその人をなだめようと、そっとその人の柔らかな栗色の髪をなでた。


「あの……静香……先輩?」

「っく……うぅ……」


 嗚咽を漏らして、さらに力強く僕の背中に腕を回す静香先輩。なんで泣いてるのとか、何があったんだろうとか、どうしようとかいろんなことを考えてるけど、何にも答えは見つからない。ただ、頭をなでることしかできずにいた。いつも笑ってて、なんでもできるそんな姿ばかり見てたから、静香先輩の泣いたところなんて初めてで、この人が泣いてるのが信じられないでいる。どうしよう。僕じゃ何もできない。世間知らずで、こんなときどうすればいいのかわからないんだから。僕じゃ静香先輩の力にはなれない。


「静香先輩、泣かないでください。僕誰か呼んできますから」

「いいっ……夕貴君……しばらくこうしててっ……」

「あ……はい」


 静香先輩が泣きやんだのは、それから数分たった後だった。今はそばにあったベンチに並んで座っている。目が真っ赤になった静香先輩は、指で涙をぬぐうと、少しはにかんだ。


「ごめんね、いきなり。困らせちゃったね。もう大丈夫だから」

「いえ……何もできなくてごめんなさい」

「ううん、久しぶりに頭なでられてちょっと落ち着けたよ」

「なら……よかったです」

「だめだなぁ。何にも言い返せなくて、悔しくて泣くなんて情けない」

「誰かに、いじわる言われたんですか?」

「まぁ、そんなとこかな」

「さっきどなってたのは、その人に……」

「……聞いてた?」

「風で何言っているかまでは聞こえませんでした。ごめんなさい、そんなつもりはなかったんですけど、声に聞き覚えあって気付いたら勝手に……」

「謝らなくていいから。大した会話してないし。最後は怒ってきっちゃったしね。……ねぇ、一個聞いていい?」

「はい?」

「夕貴君は……清桜のこと好き?」

「え……な……なななな何をいきなり……」


 そんな思いもよらない質問をされて、顔が瞬時に熱くなる。きっと真っ赤だろう。さっきの話と何の関係もなさそうな気もするけど、静香先輩の目は真剣。これは、こたえなければいけないのかもしれない。


「……はい……」

「そう。そっか……。まだ、そのことは清桜には……」

「言えてません……」

「でも、言う気はあるよね?」

「それはもちろん……でも最近会えてないので……」

「そっか、言えるといいね。応援してるから頑張って」

「はい……じゃ、僕もう帰ります」

「うん、またね」

「はい」


 ベンチから立ち上がり、帰ろうと歩く。ふと、歩みを止め振り返る。


「夕貴君?」

「あの、僕……よわっちくて、全然頼りにならないかもしれませんけど……。でも、静香先輩泣いてるの嫌です。……だから、僕にできることなら……力になりたいです……。ほんと、頼りがいないかもしれませんけど……。僕でいいなら、力にならせてください」

「……うん。あ、そうだ、じゃあさ今度の土曜日僕に付き合ってくれる?」

「土曜日ですか?別に何もないのでいいですけど……どこへ?」

「んふふ、秘密。楽しみにしてて」

「はい」


 柔らかく笑った静香先輩の姿を見て、安心した僕は寮へと帰った。


少しは誰かのために頑張ってみようと思った夕貴だと思いますね。


次は静香先輩とデートかな?(そうなの?)

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