*34*
夕貴が立ち去った後の病室に、新たな来客が訪れていた。ノックもせずに入ったのにもかかわらず、中にいた朝貴はその来訪がわかっていたかのように出迎えた。
「やっぱり来たんだ。河合さんが教えた?」
「まぁな」
「今まで、俺との約束……守っててくれたんだね」
「全く、お前はどこまであいつのこと……」
「大事なんだ。こんなこと言ったら怒るかも知んないけど……自分よりも、大事だから」
ゆっくりと朝貴は体を起こす。久しぶりに起こすためかふらつくその体を、来客は抱きしめた。朝貴もまた、彼の背中にしがみつく。久しぶりに感じるお互いの感触に、しばらく静かな時が過ぎた。そして、朝貴が静かに口を開く。
「ありがとう、龍弥」
「ったく、お前が死んだら俺は……」
「おっかないこと言わないでって。ちゃんと生きてるだろ?それに俺まだ死んでなんからんないし」
「朝貴」
「心配掛けてごめん……ごめんね……」
「もういい」
「うん」
ね、夕貴。夕貴は、いる?一緒にいて安心できる人。血のつながりはないけど、でも一緒にいたいと思える人。
学校に付くまで、『朝貴』は無言のままだった。車から降りて、寮へと続く道を行く間もずっとうつむいて黙っていた。清桜に少し付き合ってと言われ、学校の敷地内にある和風庭園に向かった。その中央にある小さな池には月が写り、錦鯉が優雅に泳いでいる。『朝貴』はぼんやりとその月を眺めていた。そして、固く閉ざしていた口をようやく開いた。
「僕は『朝貴』じゃありません」
「……」
「僕がここに来たのは、僕の戸籍上の母に、ある人の身代わりとして此処に入学させられたからです。本当の『北條朝貴』の身代わりとして、です。……驚かないんですね……」
「そう見える?」
「はい……」
「まぁ、うすうす感づいてたからね。朝貴じゃないって」
「……どこから話せばいいですか」
「2年前から、かな」
「わかりました……。2年前。僕は中学2年生でした。中学生の頃の僕は、まだ体が弱くて、学校を休みがちだったんです」
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その日も、僕は学校を休んでいた。とても体の調子が悪いというわけではなかったが、朝から出ていた微熱や吐き気が治まらなかったのだ。時刻はちょうど午後5時を過ぎたくらいで、もうすぐ朝貴が返ってくるだろうと思い、僕は起き上がって本を読んでいた。すると聞こえてきた僕の部屋に近づいてくる足音。朝貴が帰ってきた。僕はそう思った。そしてふすまが開いたその時、その考えは間違っていたと気付く。包丁を持った女が立っていた。瞬間僕は察した。ああ、殺しに来たのだと。この人は僕を少なからず良くは思っていなかった。
僕らは異母兄弟だ。朝貴を産んだ人は今家にいるあの人。そして僕を産んだ人は僕を産んで死んじゃったらしい。なんの偶然か、同じ日に生まれた。だからこの事情を知らない人は僕らを双子だと思うだろう。
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「その女の人は、包丁を持ちながら、しっかり僕を見据えていました。そして『あなたなんか生まれてくる必要なかったの……あなたの母親は最低よ……あの人の子はあの子だけでいい……あんたはいらない』そう言って、僕にどんどん近付いてきました。僕はなぜか動けなかった……いえ、逃げるのをあきらめてました。生きてちゃいけないんだ。そう思ってたのかもしれません。朝貴が僕に『にげろ』……そう言ってくれなければ、正気に戻らなかった。でも、そのせいで朝貴はあの人に刺されました」
「ッ……」
「全部僕のせいだ。そう思ったんです。その時。そのあと、僕も意識を失って倒れ、朝貴とともに病院に搬送されました。朝貴は何とか手術をして一命を取り留めましたが、意識が戻らず、今まで眠ってました。そしてぼくは1カ月ほど高熱を出し、入院しました。そして退院後、僕は自分の部屋に閉じこもり、一切誰とも会うことなく、1年半という月日を過ごしました。そして今年、僕は朝貴としてこの学園に入学した。それが、この2年間に起きた出来事です」
「そう……」
清桜はただそれだけ言うと、それきり黙ってしまった。真っすぐ、池に映る月を見つめながら、その顔はどこか思い詰めたような表情だった。そんな清桜の様子に、『朝貴』はただ隣に立っていることしか出来なかった。
なんかあれですね。
龍弥が朝貴って呼んでるのが
違和感あるのは私だけでしょうか
夕貴に対してはお前とかだったのに
朝貴にだけあぁいう態度……
そんだけ大事か!!
すみません……
ようやく夕貴の過去とか明かせて、少し
ホッとしてます。
あの人怖いね
包丁持ってこられたらもう逃げようとも思えないだろうね。
龍弥と朝貴はもとから?昔からくっついてました。ただそれだけ。