*33*
病院に付いた。車から降りた二人は病院の入口へと向かっていく。エレベーターで7階へと昇り、朝貴は迷わずとある一室に向かっていく。その横には清桜もいた。そして目的の部屋の前に付いた。名前の表示もない部屋。その部屋の前で朝貴は固まってしまった。会いたい相手がいる。でも、会うのが怖い。会いたくて、話したくてたまらない半面、恨まれて嫌われているんじゃないかとも思う。それが怖い。本当はあってはいけないのではないかとも思う。けど、それでも一度だけでもいいから会わなければいけないとも思う。あって、謝らなければならない。朝貴は勇気を出してその部屋のドアをノックした。すぐにドアが開き、顔をのぞかせたのは河合だった。朝貴の姿を見て、河合はふっと笑みをこぼした。まるできたことを喜んでいるようだった。
「よかった、来てくれて。それだけでもうれしいですよ」
「うん……」
「じゃ、俺は外で待ってるからね」
「あ、会長……」
そう言って、清桜は行ってしまった。河合もまたその場を去っていく。この場にいるのは朝貴とそしてもう一人だけである。朝貴は静かにドアを閉めた。そして天井から下がっているカーテンの隙間から中へと入る。その中にあるベッドの上の人物は確かに目を開けていた。二人の視線が交差する。
少しやつれてはいるが、そのほかはあまり変わっていない。つややかな黒髪。夜空のような漆黒の瞳。自分と瓜二つといってもいい容姿を持った大事な人。ベッドの傍らに朝貴は何とか立った。そんな朝貴を見て、ベッドの上の人はにこっと笑った。
「イメチェン?髪まっくろにしちゃったの?“俺”茶髪のほうが似合うと思うんだけどな」
「うん……まぁね……」
「なに?どうかしたの?具合悪い?何なら一緒に寝る?」
「そうじゃないよ……最近は元気なんだ」
「そっか、じゃ俺のせいか」
「ちがっ」
「……おはよ、“夕貴”」
「……おはよう……遅いよ起きるの……“朝貴”」
「あっはは、そうだね。なんか逆になったね。いつもは俺がこうして寝てた夕貴におはようって上から言ってたのに。今は夕貴が上だね」
「そうだね……ごめん……朝貴。僕のせいだよね。僕のせいで朝貴は……2年もこんなとこで……」
「ちがう、あれは俺のせい。夕貴は何にも悪くないよ」
「でもっ……」
「それでも俺のせいじゃないって言うなら、あの女のせいかな。とにかく、夕貴は何にも悪くないから」
そういって朝貴はにこっと笑った。
「それより、あの女まだ夕貴のこと認めてないの?」
「あの女って、あの人は朝貴のお母さんでしょ?そんな言い方……」
「俺は、夕貴のことをいつまでも認めないあの女のこと何か母親だって認めない!!もしかして、黒髪にしたのって、あの女が夕貴に俺の身代わりでもさせてたの?ね、そうでしょ?」
「……」
「そうなんだね。まったく……ふざけんなあの女!!何でそんなまねさせるわけ!!夕貴は夕貴なんだ!それを、俺にさせて生活させるなんて……夕貴にだっていろいろやりたいことあるのに!!」
「でも……僕のせいで朝貴入院することになったんだから……これくらいは……」
「ダメだよ!!少なくとも、俺はそんなの嫌だ!!夕貴には夕貴でいてほしい!!俺の身代わりとか、そんなのしなくていいんだよ!!」
「朝貴……」
「つらい思いさせてごめんな?あのとき助けたの、逆に苦しめてたな。でも、あのとき助けたの俺後悔してないから。夕貴がいなくなることに比べたら、俺の2年でも10年でもどうなってもいいから。生きててくれてありがとう、夕貴」
「ッ……何言ってるの、そんなの僕のセリフだよ」
「そう?」
病室のカーテンの中で、僕らは久しぶりに笑いあった。
「じゃ、僕そろそろ行くね。学校の外出届の時間もあるし」
「そっか。うん、また来てよ。しばらく検査とかリハビリでこっから出らんないからつまんないんだ」
「うん、じゃまたね」
「今度は土産買ってきて!!」
「はいはい」
そう言って夕貴は病室を後にし、外で待つ清桜のもとに向かった。ある覚悟を決めて。
ということで、ようやくここまでこれた!と、ひとり安心しております。
最後の登場人物になるであろう、朝貴がようやく登場してくれました。
で、今まで『朝貴』として登場していたのは
『夕貴』のほうです。だから朝貴だもんね、とかそういうことをぼやいてたわけです。
次回、2年前の出来事とか明らかになるだろうと思います。