*32*
前回で一応文化祭編は終わりです。
いよいよ最終章ですかね。
一応今回からのやつは真実編というくくりにしたいと思います。
今までしつこく出していた伏線を少しでも解消していきたいと思います。
目が覚めた感覚。だが、目が開くまでの覚醒ではないようで、冷たい感触が頬の下にあった。ふんわりとしたそれは優しく朝貴の頭を支えている。ゆっくりと徐々に目が開き、自分がベッドの上に寝ていることに気がつく。だが、そこは自分の部屋のベッドでも保健室特有のあのベットでもなく、他人の生活感あふれるベッドだった。ゆっくりと体を起こし、その部屋を見回す。そこはどこかの寮の部屋のようだった。それも生徒会専用の少し広めな部屋で、朝貴の部屋のつくりと似通っていた。つまり生徒会のメンバーの誰かの部屋ということは容易に考え付いた。そして、朝貴にはなぜか、この部屋の主がわかった気がした。だが、その人物の姿がない。ベッドには朝貴一人しかいない。どこかに出かけているのだろうか。ふとそう思ったが、ベッドのそばの机に置かれていた自分の携帯の時計は朝の6時前をさしている。こんな朝早くから起きて出かけるような人ではないと思いなおす。ということは、この部屋に入るだろう。だが、シャワーを浴びている音もしない。とりあえず朝貴はベッドから抜け出した。とても酔っ払って寝てしまったとは思えないほど、朝貴の頭はすっきりしていた。
隣の部屋は、朝貴の部屋と同じくリビングスペースになっていた。携帯を握りしめつつ、リビングを進む。するとかすかにだが聞こえてくる寝息。それは、リビング中央付近に置かれたソファからだった。そっとそこを覗き込むと、案の定、毛布にくるまった紫色の髪の毛が見えた。その姿を見つけて、朝貴はふっと笑みをこぼした。やはりここは清桜の部屋だったのだと。そっと、起こさないように気をつけて、朝貴は正面に回り込んだ。そしてしゃがみこんで寝ている清桜の寝顔をのぞきこむ。すっかり熟睡しているようで、数十センチという距離に近づいても起きる様子はない。
こんなところで寝てるなんて……。別に、一緒のベッドで寝るだけなら構わないのに。それにこの部屋はこの人のなんだから、普通此処に寝るのは僕なんじゃないのだろうか。それなのに、この人は此処で寝てる。なんで?僕が嫌がると思ったから?それとも、一緒に寝るのがいやだったから?僕が僕だから?
そう思うと、心が苦しくなる。心が痛む。でも、それは仕方がないことだと、今まで言い聞かせてきた。自分自身に、強く、強く。何度も何度も。この人が好きなのは朝貴だと。この人が見ているのは僕じゃないんだと。僕は誰からも存在を認められてはいないんだと。そのたびにのしかかってくる。そして、嫌になる。何で僕此処にいるんだろうと。なんでぼくは僕なんだろうと。それが嫌で嫌でたまらなかった。もし僕が僕じゃなかったら、今とは違った暮らしをしていたんだろう。こんなにも苦しまなくて、家に帰りたくないとも思わないで、この暖かい場所に入られたんだろう。
突然、手の中にあった携帯が震えだした。それに驚き思わず叫び声をあげえそうになったが、何とか押しとどめた。いまだにふるえていることから、どうやら電話らしい。だが、こんな朝や訳から一体誰なのだろうか。そう思いつつ、寝ている清桜の迷惑にならないよう、窓の方へと離れる。そして、通話ボタンを押し、声を出来るだけおとして電話に出る。
「もしもし?」
『もしもし、朝早くからすみません、起こしてしまいましたか?』
「河合さん?」
電話は、河合からだった。受話器の向こうの河合は、どこかあわてていて、そして嬉しそうでもあった。
「どうかしたんですか?」
『驚かないでくださいね?――――さっき、目を覚ましたと病院から連絡が――――』
「え……」
それは、一番聞きたくて、聞きたくなかった知らせだった。全身から力が抜けていくかのように朝貴はその場にしゃがみこんだ。カーテンの間から昇ったばかりの朝日の光が朝貴の顔を照らしている。その顔はひどく悲しげで、そしてどこか安心した顔だった。
もう僕は此処にいられなくなった。もう、此処に僕がいる必要はなくなった。もう僕は必要なくなった。
別れの時間はもうすぐそこまで迫っていた。いきなりの事態に、朝貴は呆然とした。力が抜けた朝貴の手から、携帯が簡単に抜き取られる。呆然とする視界のすみで、朝貴は確かに見た。誰かの手が携帯を掴んでいるのを。誰かなどすでにわかってはいた。清桜以外いない。彼は、何かを河合と話していた。口調からしてどうやら知り合いのようだった。そのことに半ば疑問を抱いている間に電話は終わったようで清桜は電話を閉じた。そして立ち上がると、朝貴に手をさしのべる。
「じゃあ、行こうか病院に」
震えが止まらない手で朝貴はその手を取った。そして朝貴は清桜が呼んだ車で病院へと向かった。