*26*
やっと文化祭に入ります。
11月に入ったばかりのこの日。やや肌寒くはなったが、この学園はにぎわいをより一層高めていた。それもそのはず、もうすぐ『黎暁祭』という名の文化祭があるのだ。クラスごとでそれぞれ企画し、準備、当日の運営。みんなの気が高ぶるのもうなづける。そして、朝貴のクラスも例外ではない。今日も午後の時間がHRとしてあてがわれ、『黎暁祭』の計画をすることになっていた。
「文化祭って……どんなことするの?」
「朝貴、中学の時とかやらなかったのか?」
隣の席の及川恵一が驚いた顔で朝貴の方を見てきた。
「中学の時は、あんまり学校行けなかったから。僕これでも体弱いから」
「ふーん。文化祭ってのは、まぁいろいろやんだよ」
「いろいろって……」
「クラスごとで店とか開くんだ。喫茶店とか、お化け屋敷とかさ。なんか作って売ってもいいし、体育館借りてなんか演劇とかやってもよし。とにかくまぁ、違法性がない限りなんでもいいんだよな」
「へぇ……で、うちのクラスは何やるか決まったの?僕それ会長に言わなきゃいけないんだけど」
実は朝貴、今まで1年生じゅうのクラスを回ってきたのだ。1年は朝貴がクラスごとの企画書を回収、それを清桜に提出。2年は淳、3年は良介だ。
「うちはあれ」
「?」
そう言って、恵一が指差した黒板には喫茶店の文字。
「へぇ、喫茶店かぁ」
「ただの喫茶店じゃないけどな」
「え……あれ、横になんか書いてある……御伽喫茶?ってなに?」
「おとぎ話の格好に仮装して接客するんだと」
「は?おとぎ話!?」
「そ、シンデレラとか、白雪姫とか、そういうの」
「なんでみんなお姫様関係なの?」
「そのほうが盛り上がるって」
「そうかなぁ?というか、もう配役とか決めてるのはなんで?そしてなんでぼく、アリスの下に名前があるの!?」
「朝貴いない間にアンケート+多数決で」
「アリスって……」
「不思議の国のアリス」
「あ、僕生徒会が忙しいからな―!」
「うん、あきらめろ」
「やだぁぁぁぁぁ!!」
あの僕、これが人生初の文化祭なんですけど。なんでこんな目に会うの―!?
気分が落ち込んだまま、朝貴は企画書を持って生徒会室に着いた。だが、ドアはいまだ開けられない。朝貴のクラスの企画書にはしっかり配役まで事細かに書かれている。これをもしあの会長に見せたら、何と言われるだろうか。いや、結果は見えている。
「朝貴、そんなところで立ってないで、中に入らないんですか?」
「さ……榊原先ぱぃ……」
「どうかしました?あ、ちゃんと企画書集めてきたんですね」
といって、朝貴の手から企画書を受け取る良介。良介の出現に少なからず驚いていた朝貴は、それに反応するのが遅れた。気付いた時には良介はもう生徒会室に入っていた。
「ま……待ってください、榊原先輩!!それ、会長に渡すのは……ってぎゃああああああああああああああああ!!」
だが時すでに遅く、清桜の手にはしっかり企画書が渡っていた。
「え、なんで俺に渡すのだめなの?」
「まだ遅くない……会長僕のクラスの企画書途中なんで、返してくださいってさっきクラス委員がっ……って見ないでええええ!!」
「「「御伽喫茶?」」」
えっぐえっぐ……3人してみるのやめてくださいよぉ……。
「へぇ、なかなか面白そうなことするね。朝貴のクラスはこれでオッケー!」
「そんな簡単に!?てか、会長なんかイキイキしてるぅ!!」
「当日絶対俺のとこに来てね?てか、会いにいくから、ちゃんとアリスのカッコしててね?」
「うぎゃあああああ!!」
なんかいろいろ心配になってきた朝貴なのだった。