*25*
文化祭編です。
時期的には11月なのです。
文化祭って大体10月~11月くらいですかね。
私の学校は11がつでした。
なので黎暁学園も11月にしました。
ですが今回は文化祭にはまだ入ってはいませんね。
書きたいストーリを交えつつです。
ススキが、穂先を風に揺らしている。秋独特の甘い香りを含んだ風は、少しだけあけている窓から入り込む。庭にあるきんもくせいの香りだろう。だがそれすら自分は実際に見ることはかなわない。畳の上に敷かれた布団の中、小学校低学年くらいの男の子は、その中で顔だけを動かし、あたりを見回していた。そこへ近づくあわただしい足音。そしてそれは男の子の部屋の前で立ち止まると、勢いよく障子が開かれた。
「ただいま!」
「おかえり、朝貴」
「調子はどう?まだ熱ある?」
「ん……でもだいぶ楽だから」
そう言って、布団に横たわっていた男の子は起き上がる。その布団の傍らに、朝貴は腰を下ろした。そして、じっとその男の子の顔を覗き込む。
「何度?」
「え?」
「そういってるのいっつもだよ?しかも決まって熱あるのにないっていうよね?」
「そんなことないよ……」
男の子は顔を伏せる。明らかに嘘をつくときの癖である。
「何度?」
「……38.4」
「ほらすごいあるじゃん!寝てなよ?」
「わかってるよ……学校どう?」
「今日ね、算数の問題一個あてたんだよ!」
「へぇ」
「そだ!おみやげあるんだ!」
「お土産?」
「はい、プリン!」
「これ……」
「今日の給食の残りー!夕貴これ好きでしょ?」
「うん!」
夕貴と呼ばれたその男の子は、にっこり笑ってそのお土産を受け取った。
「朝貴、僕ね絶対元気になるんだ。そしたらね、朝貴と一緒に学校行けるかな……」
「うん!一緒に行こう!」
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「あんたなんか生まれてきちゃいけなかったのよ」
その言葉で、彼は氷ついたかのように動けなくなった。部屋で宿題を片付けていた時だった。後ろからそんな女の声が聞こえた。それがすぐ母親と呼ぶべき存在だと気づく。振り向くと案の定、そこにその人はいた。手に包丁を携えて。料理にしか使われるはずのないそれが、なぜここにあるのかとか、なぜこの人がここに来るのかとか、彼の頭はそんなことが渦巻いていた。そんな彼を一つの叫び声が現実へと引き戻す。
「逃げて夕貴!!」
「えっ……え……」
目の前が真っ赤になった。ただ眼を離すことができなくて。動くはずの足がなぜか動けなくて。そして、倒れてきた叫び声をあげていた体をただ受け止めた。服にしみ込んでくる生温かい液体。広がる鉄のにおい。そして、その向こうに見える悪魔の顔。否。理性を失った女の顔。それが怒っている顔でも、泣いている顔でもないことが彼にとっては恐怖でしかなかった。彼女は笑っていた。まるで目の前で右往左往と飛んでいるハエを殺したかのように、床を這うゴキブリをたたきつぶしたかのように。彼女の顔には達成感しかなかった。なぜ?あなたが刺したのは、あなたの子なのに。駆けつけた河合達に救い出され、救急車を見送った後で、彼はようやく正気を取り戻した。脳裏に残るは女の狂った笑い声のみ。
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【ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ】
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……っ……夢……」
アラームが鳴ったのは朝貴が目覚めてから数秒後だった。寮の自室のベットの上でべたつく汗で額にへばりついた前髪を掻きあげて、朝貴は体を起こした。鳴り続けていたアラームを止め、あらがった呼吸をただす。嫌な夢だ。それが過去に起こった出来事なのが性質が悪い。
「……もう、あれから二年になるんだね。早いね、時間がたつのって……」
さて、次回からいよいよ文化祭です。
楽しんでいただけたら幸いです。