*23*
三王家の和室は、狭いながらもちゃんとしたもので、きれいな生け花や掛け軸なんかもあった。が、朝貴の目をくぎつけにしているものはそんなものたちではなかった。畳の上にきれいに畳まれて置かれたそれは……。
「しししししし……静香先輩!!?」
「何?」
「ここ……これって……浴衣ですよね?」
「そうだね」
「しかも……全部女性ものじゃないですか!?」
「そうだね」
「え……さっき、着てほしいものって言ってませんでした?」
「そう、だからこれ」
「僕男ですよ?」
「大丈夫。僕が可愛く着つけてあげるから」
「それ全然大丈夫じゃないですううううううううううう!!ていうか、誰の提案ですかこれ!!」
「んー、清桜半分、僕半分ってとこかなぁ?」
会長……。くぅ……絶対に許さないぞぅ!
「はい、朝貴君あきらめようねー」
この人は悪魔ですかぁ!?も……もうこれは……腹をくくるしかないってことぉ!?うわーん、河合さん助けて―!
「そんなに……いや?」
「女の子のカッコなんて、いやにきまってます……」
「似合うと思うけどなぁ……朝貴君のサイズの浴衣この日のために用意してもらったんだけどなぁ……。結構これいい奴なんだよねぇ?京都から取り寄せたのもあるし……」
やめてー!そんな目で僕を見ないでくださいー!うわーん!
「きょ……今日だけ……ですから……浴衣……」
「ふふ、そう言ってくれると思った。まぁ、ピンク地はいやだろうから用意してないよ。んー……こっちの白地に桜の模様か……こっちの黒地に水色の蝶々か……。朝貴君なら、白地のほうがいいね」
「ど……どれでもいいですけど……」
「んー……白地もいっぱいあるからね……」
「……この金魚の……」
「ん?ああ、それがいい?」
「えと……いいとかよくわかんないですけど……」
「じゃ、これにしようか!帯とかは雰囲気で僕が合わせるから。じゃ、そろそろ着付け始めようか。そろそろお祭りまで時間なくなってきちゃうしね」
そういった静香は、白地に赤い金魚と水を現した水色の水玉が描かれた浴衣を手に、着付けに取り掛かったのだった。着付けなど、あまりよくはわからない朝貴だったが、静香の手なれた感じに思わずびっくりした。
「静香先輩って……なんでもできるんですね。着付けとか……さっきの紅茶とか……」
「男がそんなことできるの可笑しい?」
「そんなことないです。すごいなって……。僕は……何もできないから……」
「そんなことないんじゃないかな。朝貴君には朝貴君にしかできないこといっぱいあるんじゃない?」
「うーん……」
「ちょっと帯締めるよ。……苦しくない?」
「大丈夫です」
「うん、よし。できた!なんどもあれだけど、やっぱ朝貴君かわいいね。よく似合ってるよ」
そういうと、静香は朝貴を部屋の隅にあった姿見の前に連れて行った。しっかりと着つけられた朝貴は、かわいらしい少女にも見えなくはなかった。
「お……おかしくないですか?」
「ううん、全然」
「そ……ですか」
「じゃ、リビングで待ってて。僕も着替えちゃうから」
「え……静香先輩も?」
「朝貴君だけじゃあれだし。一応提案者だしね」
リビングに戻った朝貴は、浴衣を汚さないように気をつけつつ、焼き菓子を食べている。数分後、着替え終わった静香が現れた時は思わず焼き菓子を落としそうになった。
「先輩……なんか似合いすぎてます……」
「そう?あ、思ったより時間食っちゃったね。そろそろ行く?下駄と手下げもあるから持ってって」
「は……はい」
準備万端となり、二人はお祭りがおこなわれている神社へと向かった。からんころんという、下駄独特の足音が響く。徐々ににぎわう声が大きくなっていく。頭上には赤くやさしく灯る提灯の明かりが、暗くなってきた夜道を明るく照らす。そして顔ってくる祭り独特のにおい。それだけで、朝貴の気分は高まってくる。
「朝貴君はよくお祭り来てた?」
「えと……実は2・3回くらいしか来たことないんです。毎年楽しみにしてても、風邪ひいたりして家から出してもらえなくて。その代わり、家の人が僕のほしいもの買ってきてくれて。それが楽しみだったり……」
「そっか。僕はね、一応毎年行ってるんだ。実はお祭り行こうって淳に提案したのは僕。今年はみんなで行きたいなって」
「どうしてですか?」
「だって……もう今までとは違っちゃうから……」
「え……?」
「あ、この鳥居で待ち合わせだよ。まだちょっと早く来すぎちゃったね」
「え……あ、そうですね……」
なんだろう。さっきの静香先輩。なんかすごい苦しそうだった。せつなくて、苦しそうに悩んでて、どこかあきらめてるような……そんな顔してた。
浴衣の表現とか正直あてずっぽなので、おかしかったりします多分。
それといい加減新学期を始めたいです。
多分次回で祭りは終わりです。
やっと新学期(文化祭編)が始められそうです。




